見出し画像

マイナーだけど玄人ウケする純スイス製機械式腕時計ブランド、オリス(ORIS)

皆さん「オリス(ORIS)」と言う腕時計のブランドをご存知ですか?
たぶん知らないんじゃないかな?

オリスは純スイス製の精巧で美しい自動巻きの機械式時計にこだわりを持った100年以上の歴史を持つ腕時計メーカーです。時計生産に関する功績・技術力・企画力どれをとっても超一流なメカニカルマインドを持ったブランドで、そのコンセプトは「余計な飾り立てをせず機械式時計が本来持つ美しさを良心的な値段で提供する」ことに一貫しています。そんな職人気質のブランドが裏目に出たか日本ではあまり知名度がない、実にもったいない腕時計ブランドです。

今回は、そんなオリスの一ファンとして、ほんの少しだけでも「オリス」というブランドに興味を持ってもらうお手伝いをしたいと思い、以下の内容で執筆させて頂きます。

オリス(ORIS)の創業、成長拡大

画像1

今から117年前の西暦1904年、ポール・キャティンとジョルジュ・クリスチャンという二人の時計職人が、スイスの時計製造の中心地だったル・ロックルという町を離れ、ヴァルデルブルグ渓谷の奥にあるヘルシュタインという小さな村で閉鎖された時計工場を購入し設立した会社がオリスです。

1911年、オリスは300人以上の労働者を抱えるヘルシュタインで最大の会社に成長し、その後1925年までに、スイスに5つの工場を作り、事業を拡大させていきました。

クォーツ時計の発明、50年にわたる実用化との闘い!

オリスは、自動巻きの機械式にこだわって時計作りをしている会社なんですが、機械式時計生産の歴史に大打撃を与えたクォーツ時計の歴史を語らずに、機械式時計にこだわるオリスという会社を知ってもらう事は難しいと思います。そこで少し話が長くなるのですが、クォーツ時計の歴史について少し書かせてもらいます。

時は1880年初頭、オリスができる20年以上前、有名なキューリー夫人を妻とするピエール・キューリーが、兄ジャックと一緒に、水晶振動子の原理となる「圧電効果(水晶の結晶に圧力をかけると表面に電気が発生する現象)」と「逆圧電効果(水晶に電圧を加えるとひずみが発生する現象)」を発見しました。
この原理をベースにして、1921年にアメリカの物理学者ウォルター・ガイトン・キャディ博士が「安定した周波数を維持し、規則正しい基準信号を作る」水晶振動子を開発。
2年後の1923年に、イギリス国立物理学研究所の物理学者デビッド・ウィリアム・ダイと、アメリカのベル研究所のウォーレン・マリソンが水晶振動子による正確な時間測定に成功。4年後の1927年に、世界初のクオーツ時計を開発しました。
このウォーレン・マリソンらが開発した世界最初のクオーツ時計は、水晶振動子を構成する論理回路として真空管を利用していたため、タンスのような大きな時計だったそうです。

画像2

この大きすぎる水晶振動子の小型化の問題を解決したのが、1940年台後半にベル研究所で、真空管に代わる論理回路部品として発明されたトランジスタです。そしてこの論理回路部品を利用した、クォーツ測定機器が1964年の東京オリンピックに利用され、1/100秒単位までの計測が義務づけられていた競技などにおいて、高い精度の計測を成功させ、クォーツ時計の性能の高さを世界に証明しました。

その5年後の1969年に世界で初めて市販された世界初のクォーツ腕時計が「セイコークオーツアストロン35SQ」です。ウォーレン・マリソンが時間測定に成功してから、既に40年以上の月日がたっていましたが、このアストロンの価格は45万円、当時乗用車が買えるほどの高価な時計で、誰もが買える時計ではありませんでした。複雑なクォーツ回路を作るときにでる歩留まりの問題、クォーツ時計のエネルギー源である電池の問題など、実用化への道のりにはまだたくさんの課題があり、クォーツ腕時計が隆盛を極めるようになるのは、さらに10年近く後の1970年代後半でした。

スイス機械式時計、オリスの黄金期

歴史を50年ほど巻き戻します。1920年代から1930年代にかけて、クォーツ時計の停滞を尻目に、スイスの機械式時計業界は活気づきます。
1925年オリスは、懐中時計を革のバンドで腕にはめる時計を生産、これがオリス最初の腕時計となります。

画像3

1934年、政府の許可なしに時計会社が新しいテクノロジーを発表することを妨げる「スイス時計法」が成立されました。多くの熟練した職人を抱え高い技術力で実用的な時計を創り出し、革新性を売り物とするオリスにとって、この法律は、逆風になったと思いますが、1936年に自社でのダイヤル生産、1938年に自社のムーブメント生産と、オリスは時計総合メーカーとして発展し続けました。

画像4

ちょうどその頃(1938年)に発表された時計が、今でもオリスの代表的なコレクションである「ビッグクラウン」です。ビッグクラウンはパイロットが利用することを強く意識して開発された時計で、パイロットが皮手袋をしたまま時間調整ができるようデザインされた大きなリューズと、文字盤の周囲に刻まれた日付を指す針(ポインターデイト:図中の先が赤い針)が特徴の時計でした。

ポインターデイトが発売された翌年の1939年、世界は第二次世界大戦に突入、1940年、ヨーロッパの流通が壊滅的な状態の中、オリスは目覚まし時計の生産を開始。この目覚まし時計の写真が「公式サイト、オリスの歴史」に掲載されていますが、大戦中にデザインされたとは思えないかわいいデザイン。今、良心的な価格で売ってたら是非とも手に入れたいです。

画像5

第二次世界大戦が終結した1945年、オリスはピンレバーを改良し、スイス時計歩度公認検定局による200の認定の第1号を取得。1949年、8日間パワーリザーブのアラーム・クロックを生産することによって、戦後疲弊したヨーロッパでの雇用を守りビジネスを継続させることができたそうです。

1952年、オリス初の自動巻きムーブメント「キャリバー601」を搭載し、パワーリザーブ表示機能を備えた、高精度の自動巻き腕時計を発表。1965年には当時最先端であったタイマースケール付き逆回転ベゼル、ボールド体で発光性のあるインデックス、100m防水を備えた自動巻き腕時計を発表しました。この時計は50年後に復刻版として発表され、オリスダイバーズコレクションの代表作になります。

画像6

1966年、オリスの雇ったロルフ・ポートマン弁護士が、30年間に渡りスイス時計業界の進化を阻んでいたスイス時計法の撤回を勝ち取り、その2年後、オリスはレバー脱進機よりも優れたキャリバー652を発表、ヌーシャテル天文台からフルクロノメーター証明書を授与されました。

1969年、くしくも「セイコークオーツアストロン35SQ」が発表された年に、オリスは世界で10本の指に入る大きな時計会社に成長、ヘルシュタインにある工場とその他ネットワークを含め800人を超える従業員を抱え、年間120万の時計を生産する時計企業となり、黄金期を迎えていました。

クォーツショック!スイス機械式時計、オリスの苦難

オリスの黄金期に、日本のセイコーが開発したクォーツ時計「アストロン」の主要技術は「音叉型水晶振動子」「オープン型ステップモータ」「CMOS‐IC」の3つ、これらを利用したクォーツ時計はセイコー方式と呼ばれ、2000年代になってその偉業が認められるのですが、セイコーがすごかったのは、これらのクオーツ腕時計の数十年にわたる開発で考案された数多くの特許を公開したことでした。

これにより、国内外の時計メーカーがセイコー方式を採用、クオーツ腕時計の普及に弾みがつき、熾烈な開発競争の中、小型薄型化・高精度化・コストダウンが急速に進み、クォーツ腕時計の時代が一気に到来します。

世界のムーブメントのシェア率の統計データとしてあまり良いデータが無かったのですが、日本の統計データが日本時計協会のサイトに掲載されていました。このデータを見ても、1975年あたりから登場した水晶式(クオーツ時計)の生産量が1979年までの4年間で急激に伸びている事、それと同時にゼンマイ式(機械式時計)の生産量が減少していることがわかります。これが腕時計の歴史を調べると必ず出てくる「クオーツショック」です。

画像7

前述した通り、クォーツショックでは、機械式腕時計とクォーツ時計の売り上げ比率がたった数年間で劇的に変化しました。この市場の変化の速さに、従来通りの機械式腕時計を主力製品としていた欧米の伝統的な時計メーカーの多くはついてくることができず。ビジネスを変化させるために必要不可欠な投資が行えるように資本を統合し生き残りを図りました。

この時、オリスもスウォッチグループに買収され、オリスのアイデンティティともいうべき独自性を保つために必要だった経営権を失い、独自性を欠いたオリスはその後10年ほどの間で最大900名を超えた従業員が数十名にまで減ってしまいました。

オリスの新しいビジョンと、日本人の意外な関係!

1980年代初頭、世界の機械式時計メーカーが減退する中、現オリス会長のウルリッヒ・W・ヘルツォークとロルフ・ポートマン博士は、オリスを買収し経営権を握りました。そして彼らはクォーツ時計隆盛の時代に逆行して、クォーツを放棄し、機械式腕時計だけを生産する道を選びました。

彼らはその選択をするにあたり、SEIKOのお膝元である日本をたびたび訪れ、クォーツ時計隆盛の原点となった日本人の中に存在する、機械式時計に情熱を抱く人々を観察、認識しました。そして彼らは機械式時計の情熱的なファン層をターゲットとした新しいビジネスビジョン「競争力のある価格で特別な動きを持つ機械式時計の世界的リーダーになること」を目標としました。

このビジョンを元に、1984年オリスは1930年代後半の「Big Crown」という時計にあったオリスの特徴的な機能「Pointer Calendar(≒日針)」を再導入した機械式時計「ビッグクラウンポインターデイト」を発表しました。この時計は、派手さこそはないものの伝統的な機械式腕時計の魅力と実用性で確かなファンを作り、オリスの新たなビジョンを裏付ける、スイス腕時計業界にとっても大変意味のあるコレクションとなりました。

画像8

オリスの復活、さらなる発展を目指して!

1990年以降、「機械式時計にこだわる新たなビジョン」をもってからのオリスは、大きく以下の4つのメインコレクションを中心に、機械式時計のラインアップを着実に増やし、また同時にそれらのコレクションが求める機能として、ムーブメントはもとより、ストラップ、化粧箱、もっと言えばメンテナンスサービスなどを堅実に進化させています。

【カルチャーコレクション】
英国ジャズフェスティバルなど芸術や文化イベントと積極的にコラボレーションを行い、お洒落で革新的なデザインが特徴。自社開発の高性能かつ最適なムーブメントで、ムーンフェイズ、クロノメーター、スケルトンなどの機能を動かす革新的なサブコレクション「アートリエ」が中心。

【アヴィエイションコレクション】
大きなリューズと視認性の高いダイヤルを持つオリス伝統のパイロットウォッチ「ビッグクラウン」をベースに、コックピットの審美性を意識したデザインと、世界初となるワールドタイマーなどの実用的な機能を備えた、モダンかつ実用的に洗練された機械式腕時計のコレクション。

【ダイバーズコレクション】
ハードな使用環境において、確実な動作や視認性を考慮し、計算し尽くされたデザイン、高性能素材と実用的機能をあわせもつ、ダイバーズウォッチ、1965年以来のクラシカルなデザインを採用した「ダイバーズ」、革新的で高性能な「アクイス」、プロダイバーの信頼にこたえる「プロダイバーズ」の3つのサブコレクションを持つコレクション。

【モータースポーツコレクション】
精度の高さを求められる、パフォーマンスウォッチのを集めたもーだースポーツ用コレクション、1970年から50年の歴史を持つサブコレクション「クロノリス」にはF1チームのウィリアムズとのコラボレーションウォッチがある。他にも、スケルトンが際立つ「アーティックスGTスケルトン」がある。

サステナビリティとオリスの活動

最後に、オリスはいろいろな団体や活動とコラボレーションした限定腕時計を販売している。これはオリスに限った事ではないと思われるが、特にオリスは地球環境の保全や動物保護活動とコラボレーションした限定の機械式腕時計が多いように感じます。

今の世の中、ますます、多くの人に余裕が無くなり、本当にやばい地球環境の保全に力を入れることがなかなか難しくなっていると思います。高級な機械式腕時計を買えるような顧客層に対しサステナブルを意識させる商品を販売する意味は大きいと思うので、是非これからもこのようなコラボレーション活動を続けて貰いたいと思います。ちなみにオリスジャパンでは地域の清掃活動を実施されていて、その様子はfacebookでも紹介されています。


出展

本記事は以下のページを参考に執筆しています。

Special Thanks !!

オリス(ORIS)の良さを職人目線で教えてくれた吉田時計店の吉田恭一郎氏に感謝。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?