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うそめがねチビ文庫

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筆者の創作noteです。ほとんどショートショートです。
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#逆噴射プラクティス

シューターの憂鬱〜マッスル☆みんち編

 この小説は、冒頭800文字の面白さを競う比類なきコンテスト《逆噴射小説大賞2018》の応募作です。 「おい!大丈夫なのかオマエ」ごりっ、とパンクファッションの女の頭に銃口を押し付けるが「……」ピュピュン、ボカンボカン!女は意に介さずシューティングゲーム《マッスル☆みんち》に興じている。手元にはメモ帳があり「218,750」の文字。意味不明だ。「クソッ…オマエで最後なんだぞ」足元には死体。頭部が吹っ飛んでいる。 そのゲームセンターにいる客はおれたちと“ヤツら”だけ。銃口

心臓は赤く灯る

 この小説は、冒頭800文字の面白さを競う比類なきコンテスト《逆噴射小説大賞2019》の応募作です。  観測史上最大と目されていた大雨が、結果的には穏やかな小雨に終わったその日の夜半、満月の夜。赤提灯が誘う扉の奥は喧噪に包まれていた。  隣と話すのも苦労するほどなのに、むしろそれが心地良い。  人の数だけあるタフな日々を、冷えたビールで流し込み、壁中に貼られた赤札から選んだ酒肴に箸を伸ばせば、積んだ功徳の報いとばかりに皆一様の幸福へ昇る。 「生きてて良かったああああ!」  

春のデビルキラーズ通勤快速

 通勤電車。いつもの車両いつものドアの前。いつも向かいに立ってる人がいる。ストライプのシャツにセルフレームの眼鏡。とてもきれいな女の人。文庫本を読んでる。どこかの書店のブックカバー。たまに目が合う。何読んでるんですか? と問いかけたいが、とっかかりが無く言葉をのむ。でもおれは今日は声をかけようと思っていた。 《ゲェ~ッヘヘッヘ、いい女じゃねぇーか、襲っちま――》  窓から車内に潜り込んだ下級妖魔だ。痩せた小鬼にコウモリの羽。下卑た表情。おれの横を通り彼女に向かったので、  ご

悪虐非道の姫

「かつて魔族と人間が同じ街に共存する時代があったのよ」女戦士ヨシミは人工パーツに置換された下顎に触れる。「悪い冗談みたいだった」 「……」 向き合うイオタ——魔族に呪殺された勇者のクローン体——は固唾を呑んだ。 女戦士ヨシミが当時住んでいた団地の道路で、裸の若い女が四つん這いになり臀部を鞭打たれていた。 鞭を振るのは魔界の女王イグナール。ヨシミのお隣さんだ。 「良い子ね!あと50発耐えれば奴隷に戻してあげるわ」 そしてまた一打。 「イグナールさん、やめたげて!死んでしまう

珈琲人ダブルドラゴン〜おせっかい旅情編〜

「畜生。変わんねぇな」 どこまでも優しい珈琲だった。一口で虜にする強く華やかな一杯ではなく、路傍の名もない花めいて。 旅のドリップ屋(珈琲を淹れる者)をしながら訪れた海辺の町に喫茶テルミヌスはあった。 店主、夏日星ルリとは旧知の仲だが、俺のことを覚えていなかった。 「ルリは、ノラ猫のようにふらりとやってきたのさ。記憶を失ったままね」 バーで隣に座る女が言う。テルミヌスの管理人、マギーだ。 「原因は?」俺は地サイダーを片手に問う。 「断片的にわかるのは」マギーはスコッチを口