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ノートとペン。その妄執

 アアアア!
 東急ハンズの文具コーナー! おしゃれなデザインで所有欲をくすぐるノート! 洗練された造形で書くことの楽しさを体現している筆記具!
 アアアアアア!!

 大好きなものであふれた空間である。しかも、その大好きなものを大好きな人たちがたくさんいる空間である。空気中の楽しさが円環状に収束・循環し、インフィニティ状態で無限ボムだ。それが、東急ハンズの文具コーナーだ。
 しかし、嗚呼! 買っても使わないんですよね。
 わかってるんだ。そこにあふれているものは、ドウグだ。ドウグなので、使うことで、さらに深く、文具という存在を味わうことができる。そのペンの重心位置の意味と、その紙の抄造の真価と、より密にまぐわうことができるのは、それらを使ったときだ。それも、もっとも良いのは、趣味や仕事で要に迫られ自然とそれらを駆使することだ。
 急な打ち合わせでクイックにメモを取る。思いがけず閃いたアイデアをスケッチする。
 そういうのがベスト。
 だが、あんまし、そういうシチュエーション無い!
 仕事は完全ペーパーレス! プライベートで何か思いついたらスマホにメモ(そのほうが早いので)!!

 だが、休みの日には、文具屋に足を運ぶし、バッグには常にペンとノートを入れている。どうせ使わないのに、とかそういう問題ではない。
 持ち歩きさえしなくなったら、ぼくのペンやノートへの妄執は、さらにこじれていってしまい、使用するドウグとしてではなく、概念として愛するようになってしまう。やがては自宅にノートやペンを据える祭壇をしつらえ、インクの香りの香を焚き、白いページの上でペンが踊るイメージを用いて瞑想をおこない、文具をドウグとして使って消耗させるのではなくドウグとして使わないことによって存在意義を削って消耗させる――という歪んだ向き合い方に陥りかねない。
 だから持ち歩くのだ。まあ、たまには使うので。

 本当はもちろんガシガシ使いたい。
 だが、必然性が見つからない。探すようなものなのかどうかもわからない。でもいつか、自然に、ふとぼくだけの必然性を伴った用途との遭遇は叶うのかも知れない。
 めったに使わないのにノートとペンを持ち歩くのは、ぼくだけの必然性といつ出会っても大丈夫なように、だ。
 いま、ここしかない、というノートとペンを使うべきタイミングが訪れたとき、たかまって閾値を超えた必然性に反応し燐光を放ちだしたノートとペンのふるまいに気づけるように、だ。
 おとずれた使途に、目を開けたノートとペンが迷わないように。あるいは行き場をもとめる必然性が必然主を喰い殺さぬように。

 そして今日もノートは開かない。だがそれは、備えとしての能動的待機だ。消防士さんは火事がなくても訓練はしてる。そういうやつだ。
 閉じたノートは今日も、来るべき使途をイメージしてパンプアップした。マスキュラー。いつか躍動するそのときまで。

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