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【物欲クエスト】スマホケース大好きおじさん

 よぉ、誰だテメェは。客か。この店ははじめてか? ここはアイスコーヒーが美味いんだ。フツウのもあるが、情け容赦というものが一切ないのもある。よぉマスター、コイツにアイスコーヒーを。ああ、殺すほうのだ。ん? 俺か? 客だ。逆に問うが、テメェのスマホケースは何だ?
 何故とつぜんスマホケースのことを聞くのか? 大した意味はねぇよ。自己紹介みたいなもんだ。で、何よ、どんなスマホケース付けてんだ? ポップなカラーとクッション性を兼ね備えたiFaceとかか? シリコン製のキャラクターやフライドポテトに埋没させるタイプか? 高級外車の内装めいた天然木削り出しの逸品か?
 ちょっと見せてみろ。
 ……。
 テメェなめてんのか!? 何故ケースをつけねぇ! 死にたいのか死にたいんだな! 表ぇ出ろ丁度だんじりが通るぜ景気良く散ろうやオッアイスコーヒー出来たようだぜテメェちょっとこれ飲んで頭冷やせ!!
 ……どうだ。美味ぇか。しんだか。
 ……だろ? わかってんじゃねぇか。
 俺も熱くなってたぜ。落ち着いて話すぜ。いいか? テメェ良く聞けよ。いや、コーヒーの話じゃねぇ。スマホケースだ。あのな、スマホって何だと思う?
 ……あぁ? 便利な通信機器? ……それはつまり、もはや外付けの脳と呼んで差し支えない魂の受け皿って意味だな? その通りだ。わかってんじゃねぇか。ならよ、守護るために何を纏うかは超重要じゃあねえか?
 だがテメェは自分のふたつめの脳みそに、それを守るための頭蓋骨を付けてねぇ。
 何故だ?
 ……アーなるほど。もともとのデザインが気に入ってるし、ある程度の耐久性もある……とテメェはそう言うんだな。
 バッキャロウ!! コーヒー飲め! 美味ぇか? そうか。へへっ。
 アァ、俺も落ち着く。(ゴクッ)
 あのな、テメェの言い分もわかる。完成されたデザイン、充分な耐久性。結構なことだ。だがな、いいか?
 テメェは重要なことを見落としてる。いいかよく聞け。
 それはな……
スマホケースいろいろ選ぶのめちゃめちゃ楽しいし! そうやって選んだスマホケース付けたスマホを日々つかうの相当気分アガる!! っつーことだよ!
 ……オゥ、マスター、でけぇ声だしてすまねぇ。へへ。つい、よ。スマホケースのことになるとな。知ってんだろ?
 で、よ。俺の言いてぇコターわかるか?
 ……何ぃ? スマホケース付けるかどうかは好みや趣味の話で、好き好きでいいのでは、だと?
 いいかテメェ、良く聞け。好みや趣味にマジにならねぇで何のために生きてんだ? ああ、確かに好き好きで良いぜ。んなこたぁわかってる。押し付けられるもんじゃあねぇ。だが、俺はどうしようもなくスマホケースにマジなんだよ。どうしようもない。スマホケースの話をマジでするしか俺には無ぇんだ。二、三回否定されたら退くが、だからって俺には他に何も無ぇんだ。だから俺はテメェにスマホケースの話しをするぜ。いいな? よし。つづけるぜ。
 そんな面倒くさそうな顔するなよ。安心しろ。言いたいことはそう多くはねぇ。
 みっつ。みっつだ。テメェはそれだけ聞きゃいい。いいよな? よし。

ひとつ――スマホケースは余計じゃない

 テメェ覚えてるぞ、さっきこう言ったな。自分のスマホそのもののデザインが気に入ってるし、充分な耐久性があるからスマホケースを付けない――と。
 言いてぇコターわかる。スマホケースは、スマホを守護ったり見た目を飾るもんだ。だから、耐久性もデザイン性も既に十分備えてて自分が気に入ってるなら、なぜにスマホケースが必要なんダッつー話だよな。
 わかるぜ。だが考えやがれ。スマホケースはこの世の中にゴマンとあるんだぜ。この世に服がたくさんあるようによ。たしかにアリノママの姿が好きだっつーのも結構なこったけどよ、いろんな服を着せてみな? テメェのお気に入りのデザインのスマホがもっとカワイクなるかも知らねえぜ。
 余分だと思ってたモンでも身に纏わせてみりゃ、不思議なほどしっくりクるっつーことはある。それで初めて完全になったみてーに思えたり、知ってるヤツの知らなかった顔に出会うみてーなことだ。だが、初めて見た顔でも、それをみたテメェはこう思うはずだ。それもそいつの本当の顔なんだと。
 俺ァよ、スマホが大事だ。体の一部だぜ。脳みそだ。相棒なんだ。だからもっと知りてぇ。もっといろんな顔が見てぇ。だからよ、テメェ、いいか?
 スマホケースをいろいろ選ぶのはめちゃめちゃ楽しいんだよバッキャロウ!!

ふたつ――スマホケースを付けたスマホを見てニヤつけ!

 …………おぅ、マスター、またデケェ声だしちまったな。すまねぇ。(ゴクッ)
 スマホケースっつーのは、全く心狂わせるぜ。知ってんだろ?
 あぁ、話の途中だったな。帰りたそうな顔してんじゃねーよ。もう少しだ。聞けよ。コーヒーももう少し残ってんじゃねぇか。なっ、美味えだろ? へへっ。よし。

 テメェはテメェのお気に入りのスマホケースをなんとか探しあてるんだ。生半可な道じゃあねーぜ。
 イケる限りのスマホケース売ってる店には全て足を運べ。みれる限りのネットショップも全て覗け。試しに実際に自分のスマホに付けられる場合は付けさせてもらえ。俺は今のスマホケースをそうして選んだ。
 めちゃくちゃ種類あるぞ。ぞくぞくするよなァ。
 素材もいろいろだ。ポリカーボネートやアルミ、真鍮……革もいいよな。ブライドルレザーっつー、革の加工工程でロウを染みこませた素材は、表面の素材や染料由来の模様が、手の温度や摩擦で変化する。フヘヘヘ……。
 そういや俺のダチで、オランダで出会った木工職人にオーダーメイドで天然木削り出しのスマホケースを作ってもらっているヤツがいたが、ヤツはなかなかイカれてた。出来上がった木製スマホケースを纏うスマホは美しかったなァ~へへへ……。
 ともかくテメェは無限の中からひとつを選ばなきゃあなんねぇ。だが安心しろ。テメェと、テメェのスマホにとってのサイコーのスマホケースは、絶対に見つかる。
 だが、勘違いすんなよ? それはテメェがマジでそれを求めたときだけの話だ。
 マジじゃねぇなら、そういった魂が震えるホンモノのスマホケースは一生見つからなくなり、結局テメェは適当なネットショップのメーカーのサイトからコピペしてきただけの画像や紹介文、胡乱なランキングで1位で大人気だのいう情報に踊らされてポチってしまい、装着してみてもしっくり来ないが返品するのも面倒なので引き出しに仕舞い込みそのこともやがて忘れ、ケースを付けないテメェのスマホは最初は本体のデザインで気に入っていてもメーカーがリリースした中からなんとなく選んだだけに過ぎないため、だんだん愛着もなくなっていって扱いもぞんざいになり、ある日なんとなくスマホを寝室のクッションに放り投げるとバウンドして窓のそとに飛び出して1階で大家が飼ってるブルドッグのアタマにヒットしたため、テメェのスマホは強靱な顎に噛み砕かれ、しぬ。テメェも第二の脳がクラッシュしたため、しぬ。
 だがな、テメェがマジなら、サイコーのスマホケースが見つかるぜ。そしてテメェは妥協しなかったおかげで得られたサイコーにカワイイ相棒を飽きもせず毎日ニヤニヤしながら愛で、そんなテメェを奇異の目でみる野郎どももいるが「あれ? でもスマホケースのセンスがサイコーにクール!」となり、テメェは話題の中心になり、「誰のスマホケースがクールだって?」と気になる異性の目にも止まってダンスパーティにも誘われ、テメェは慣れない場でちょっとドジを踏んで主催者の金持ちのボンボンに「なんだあのダセェやつは?」と嘗められるが、誘ってくれたヤツが「でも見て? あのスマホケースを。すごくクールでは?」とフォローしてもらえ、ボンボンも「ヌゥー、今度パパに同じものを作らせよう!」となるや「ヘイ! 皆さん楽しんでいるかな?」とタイミング良く登場したなんかの社長であるボンボンのパパにも一目置かれ「今度、国立工科大学の教授の会合がサンフランシスコで開催されるんだがキミも来ないかね?」となり、なんやかんやあり最終的にテメェは教授どもが秘密裏に開発した巨大ロボのパイロットに搭乗して地球を救うことだって起こりえる!!
 ……アァ? テメェなんだその胡乱なものを見る目は? いいか? 俺が言いてぇのはな、サイコーを探し、サイコーを見つけて、サイコーといっしょに日々を過ごすってのはそれだけクールでアガることだっつーことをわかれこのスカンピン!!

みっつ――イカすスマホケース屋を見つけたら勝ちだ!

 おぅ、何度も騒いじまってすまねぇな、マスター。(ゴクッ)
 ほら、コーヒーももう少しだ。俺の話ももう終わるぜ。
 なんだテメェはもう飲み終わったのか。だが俺の話は残ってるぜ。聞け。ところで、コーヒー美味かっただろ? そうか。へへへ。

 で、俺はよ、さっきサイコーのスマホケースが見つかったあとの話をしたが、テメェはこう思うだろう。マジに探せば絶対みつかるって言われてもなんの根拠もないじゃないか、とな。ごもっともだ。スマホケース探しに正解も近道も無ぇ。だから決め手がいる。だが、何がどう響くかなんつーのは、それこそ人それぞれだ。最適解なんて求めるだけ無駄だ。
 だからよ、俺の場合どうしたかっつー話をする。
 まず俺のスマホケースを見ろよ。

 どうだ? 最高にクールだろ? アァ、なんだその拍子抜けしたような顔はよ。
 ……なに? もっとすごい、真鍮削り出しのケースとかイタリアとかの職人が仕上げたオーダーメイド牛革ケースとかを想像してたって?
 バッキャロウが! サイコーと高級感は関係無ぇんだよ!!
 俺にとってはサイコーだからそれで良いんだよ!
 俺は実際に今テメェが言ったようないかにもハイクラスなスマホケースも含めて探しまくったが、どれもピンと来ず、もう無理だサイコーのスマホケースなんてこの世には存在しねぇーんじゃ無いかとマジで思ったが、そんなとき最後に出会ったのがこのスマホケースだったんだ。
 よく見ろ? どうだ? 高級感とか流行とか先入観なんかにとらわれずに心でどう感じる? 俺とテメェのグッとくるポイントは違うだろうがよ、悪くねぇと思わねーか?
 ……そうか。だろ? へへへっ。テメェもわかるじゃねーか。
 で、だ。俺の場合、何が決め手となってこのスマホケースにしたかっつー話だ。
 俺はネットショップで買った。俺は今から俺が選んだスマホケースを売ってるサイトの話をするが、俺が言いたいのはテメェもそこで買えとかそういうことでは一切ない。
 で、俺が言いてーのは、そのネットショップの扱うスマホケースの紹介文を読んで「は? 何いってんだコイツ?」となって、それが決め手となって今のスマホケースを選ぶに至ったっつーことだ。
 まあ見ろ。

“スマホって何なんやろなと考えさせられるスマホケースだよ!”
 って何なんだ! 見た感じそんな哲学的な思考にたどり着く要素ないぞ! と俺は思った。おそらく何か元ネタがあり、そのパロディなのかもしれないが、俺は全くわからなかったし、サイト側もそれを伝える気持ちがあんまりなさそうなのが、あほで良いなと思った。
 次だ。

“箱根の山の最速ラインが見えるiPhoneケース! 山頂を誰よりも早く登りたい人のiPhoneケースだよ!”
 元ネタはこれはなんとなくわかったが、やはり、知らないヤツ置いてけぼりの紹介文だ。だいたいヒルクライムにスマホケースは完全に関係ないし、願掛けにしてもターゲットがニッチすぎて、あほで俺は好きだなと思った。
 そしてコレだ。

“ちゃんとリアルでも流行っているレモン柄スマホケースだから問題なし!”
 急に世間体を気にしだすな! どこで冷静になったんだ! と思い、あほだなぁと俺は思ってぞくぞくしたし、単純にデザインがめちゃめちゃクールだし、そしてやっぱりあほだなぁと思って、俺は、星海を渡るような悠久のスマホケース探しの旅の、その終着点をコイツに決めた。

Life Goes On...

 ……アァ? このスマホケースを選んで、巨大ロボに乗って世界を救う戦いをしたのかって? バカヤロウが。なワキャねーだろ。
 だが、そうだな、俺はこのレモン柄のスマホケースを選んでから、とくにレモン好きっつーわけじゃ無ぇんだが、レモンを有機栽培しているヤツと知り合ったり、レモンの絵を描いたことをきっかけに仕事場のあんまり喋ったこと無ぇ野郎に声かけられたり、まあ、ほんのちょっぴりだけ、人生がレモン方向に傾いたと言える。
 それが良かったのかわるかったのか、とかそういう問題じゃあねーんだよ。マジになって求めて、マジの心で選んだナニカによって、日々がほんの少しだけ変わったっつーことだ。それは、どっちかっつーと、良いほうの変化だったぜ。
 だからよ、テメェが誰か知らねぇが、テメェの手に持ってる相棒に合うスマホケースを探してみろよ。

 で、サイコーのスマホケース見つけたら、俺に見せろよ。そしたらよ、またアイスコーヒー飲みながらスマホケースについて語り合おうぜ!
 ……。
 …………。
 イヤそうな顔すんじゃねえよ……。

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