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フェブラリーS 2024新馬先生はこう見る〜本質


プロローグ

冬の東北、新幹線を降りると肌を刺すような冷たい空気が吹いた。
北の大地を感じさせる冷気、ただし降り立った時は得てしてその後の出来事を考えて、寒さよりも緊張感を感じたものだ。

岩手県、盛岡市。
その地は僕にとっては、観光地ではなく戦場。
仙台からまた一段と空気が冷えて感じさせる。
パリッと音が聞こえそうな冷気だ。

今思い出しても、東北6県各県を代表する営業が一同に会して、
そこで売る商材を決めるメーカーのプレゼン合戦。
関係者を含めると20人が長机に座している。
15社のうち採用は3社から4社。

自分の前に出番のあったグループの人間を見ると
プレゼンを無事終わらせた安どの表情をたたえたものが7割、
上手くいかなかった落胆を見せたものが2割、
判断のつかない表情をしているのが1割くらい。
待合室のその空気感がより一層、自分の緊張感を高めていく、
心臓の音が少し聞こえるような気がした。

自分の所属する会社名が呼ばれると、
20名強の視線がこちらに向く。
毎回経験するこの舞台、なぜだか毎度この瞬間に肝を冷やし、
時には頭を真っ白にしながら、マイクを持った。

その正面に座るのがこの会を仕切る、盛岡の雄。
カンペの類は許されない、
必要なのは事前準備と幾許かの度胸。
通り一辺倒の説明や、面白くない商品は必要ない。
売れるかつ、その営業マンを値踏みしながら各社のプレゼンは進んでいく。

終了3分前を知らせるベルが鳴る。
ここまでで大方の商品についての説明が終わっていれば完璧、
残すは結びの句で締めれば1分前にプレゼンは完了。

のはずだった。
正面に座る会長がいつもの通り眼光鋭く、自分の慢心を射抜く。

「なんか、今日のお前のプレゼンはつまらないな。」

と一言で全てを終わらせた。
そこから先のことはうまく覚えていない。
気付いたら懇親会の席に座って、ビールを飲み、日本酒を飲み
紹興酒を目の前にした時に
二次会前に今度は違う意味で記憶を飛ばした。

二次会はいつもの通りカラオケのあるスナックに行く。
季節外れの雪が残った歩道で転んでケツをいたく派手に打ち付けた。

5年前くらいの思い出。
なんでそんなことを思い出したのだろう。

さて、今年のG1が始まる、競馬の予想を始めよう。

調教診断

調教評価第1位

11 キングズソード

最終追い劇的に良化

1週前に調教師自身が乗っていた時はムチを入れてから加速、少し重く見えたが、最終追いでは重苦しさは一切なく、併せ馬を突き放した。
調教終了後の馬体重は+16kg。
輸送を加味しても、1週前は重かったのだと思うが筋肉量が多いタイプ、距離短縮はかなりプラスに働くと思う。

調教評価第2位

5 オメガギネス

バネを感じさせる最終追い切り

スピード感溢れる走り。1週前は単走で好タイム。前走からは叩いて良化しているように見える。最終はルメール騎手が来て併せ馬。
終いだけ加速して迫力を感じさせた。
若干スピード任せの走りだが、距離短縮をするので直線先頭で押し切ってもおかしくない。

調教評価第3位

7 ガイアフォース

1週前の動きは圧巻

単純に調教の質としては一番よく見えた。
昔は坂路中心だったが脚元がしっかりとしてきて、今回の1週前はCW7Fでエルトンバローズに先着。
天皇賞秋の時に抜群の調教を見せたが、今回もG1仕上げ。激走してもおかしくないが、初ダートとしてこのスピードを発揮出来るかが鍵になる。

調教評価第4位

4 ドゥラエレーデ

圧巻の坂路タイム

最終追い切りでムルザバエフ騎手を乗せて、圧巻の4F49.1。
出来は良い。
1点、スピードが出過ぎていて抑えが効かない懸念有。
最終の坂路は
12.7-12.0-11.8-12.6
と最後がやや落ちている。
前進の気持ちが強すぎて、抑えが効かせられるか。東京の直線は長い。
ただ、それを払拭させる程にスピード感があり、上位にあげた。

調教評価第5位

8 セキフウ

1週前のタイムは驚異的

1週前のCW、7F96.8でラスト1Fが11.6、併せ馬を軽々突き放した。
走る時と走らない時の差があるのでなんとも言えないが、間違いなく前走より仕上がっている。前が流れれば一発を期待したい。

エピローグ

少しだけまた思い出に浸る。
プレゼンで大きく失敗した帰宅の途、落胆して帰る東北新幹線の中で携帯電話が鳴った。

事務局から結果の合否を知らせる電話だと分かっていた。
電話口に出て、開口一番、落選の結果を知らせられると思っていたら、


「当選だから、来月も出張予定を組んでおいてね。」

「え?」

「だから、当選なので、また来月も従業員用にプレゼンお願いします。」


頭が真っ白だった。
と、通ったのか。

そのプレゼンの合否は投票制。9人の選定委員の内、その商材が3票を取れば当確で1人3票を入れていく。

本当に何かドッキリでもされてるのではないか。そんな疑念を持つ中で、本当に発注がき始めた。

………嘘じゃなかったのか。

翌月、従業員向けのプレゼンをしに行った時、
決起を誓う酒の席で、自分は恐る恐る会長に日本酒を注ぎながらお礼も兼ねて聞いてみた。

「今日のプレゼンはいかがでしたでしょう?」

会長は、力強い眼光でまた自分を見た。

「プレゼンはつまらない、けど、それでいい。大事なのは商品の良し悪しだからな。それが伝わればいいんだよ。」

「今日は前回より売り先が明確でいいんじゃないか、また頼むよ。」

と、会長は口を開き、一献を飲み干して次のメーカー営業の先に立ち去った。

そんな会長の訃報を知らせる一報が、
突然
今週水曜に届いた。

あの時もらった言葉の意味を、
違う会社に行った今でも考える。

「本質は何か、相手が求めてるものは何か」

対峙するのは怖かった、けれど、不思議と嫌な記憶より、豪快に我々に檄を飛ばしてくれた勇姿を思い出す。

その瞬間は耳が痛くても、しっかりとダメなことはダメだと言ってくれる人のありがたさをこの年になって改めて思い返す。

会長に褒められたその商材は、
その年で自社の商品では異例の売り上げを東北地方であげた。

結果を出す。
雑音に惑わされず。

会長が鬼籍に入られたことがいまだに実感がない。あの時のプレゼン合否を聞いた時みたいに。

人の要素はあれど、
大事なのは素材。

本当は違う本命を考えていたけれど、
きっと会長に怒られてしまう気がした。

「つまんない予想だな。」
そんな声が聞こえてきた時、
フェブラリーSの本命が見えてきた。

ここ2戦、G1で2着。
そこを支えて来た原騎手から松山騎手への変更。

大事なのはそこではない、
おそらくそのきっかけとなったジョージテソーロで原騎手は今日勝利を挙げた。

当人達はもう前を向いている。
強い馬は、自分の実力を証明するため、
ゴールを目指して走るだけ。

2024年、フェブラリーS
僕の本命は
14 ウィルソンテソーロ

会長、5年経っても私はつまらん人間です。
でも、ありがとうございました。

合掌。

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