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マイルCS 2023 新馬先生はこう見る〜鎮魂歌〜


プロローグ

皆さんは自分が通っていた学校の図書館で本を読んだろうか。
絵本、伝記や小説。調べ物の辞典。
それを選んで管理する図書館司書の先生。

今日は、それらの数多くの本を学校へ納入していた人の話。

福島県は郡山。早い春の空気は頬を刺す。
僕は郡山駅前のマクドナルドでソーセージマフィンとブラックコーヒーで小腹を満たして、その人を待った。

8時45分に白い小さなバンが、スピード感を持ってロータリーを旋回しながら目の前に止まった。

「お待たせしました。」

と大柄な運転手は助手席に僕を招き入れる。
両手に抱えた本と資料を持って、車に乗り込んだ。

「荷物は後ろに入れてねー。」

後部座席は倒されていて、
台車と多くの荷物が山積みになっていた。
変わらない。

僕と彼は1年に1回か2回、
こうやって駅で待ち合わせて地元の小学校や中学校へ赴き、本を紹介していく。
本の内容が良ければ、司書の先生は教育委員会からその学校図書館に付与された予算で本を購入していく。

丸一日、大体5.6校を車で回って司書や学校の先生達に会っていく。
みんなが読んでいた教科書を含める学校の本たちは、こういう人たちが届けているのだ。

こういう人たちを我々の業界では
「書店の外商」
と呼んでいる。

年々、少子化の煽りを受けて、特に地方などでは学校の図書予算は確実に減っている。
でも、こういう仕事があって、本を読む人の総数を減らさないための仕事。

そして、出版社の営業をしている僕は、外商さんに指名されて、本をメーカーの人間として彼のお客様へ紹介していく。

1日10時間、違う会社の人と一緒に車で回って行くと仕事で話す内容も徐々に尽きてきて、世間話、身の上話や家族の話題で時間を埋めていく。
色々な話をした。

ちょうど干支で一回り上な人生の先輩はバイクとテレビ東京が大好きな人だった。
奥様とご子息が2人。
息子さんは東京で仕事をしている。
こうやって書いていると、会話の内容をよく覚えているんだな。
車の運転は少し飛ばし傾向。
ラーメンが好き。

こんな感じで、僕と彼の同行販売は3年に渡り続いた。
もちろん彼は売上をあげたし、僕も自社の本をまぁまぁ売った。
でも、これが続いた背景には、何かしらの「楽しさ」があったからだと、僕は思う。

この関係が終わりを告げるきっかけとなったのは、僕の転職が決まったからだった。
大事な取引先として、引き継ぎの挨拶をしたいと伝えると、電話越しの彼は少しだけ福島訛りで

「んでさ、その日は空いてんの?同行しようよ。」

と聞いてきた。僕は笑ってしまった。
その頃は、辞める直前、所属していた会社から干されていて、大してやることもなかったから、腕鳴らしにはもってこいだ。

「いいですけど、引き継ぎの挨拶に伺うので、後輩もいますよ。あまり、担当交代の日に同行って聞いたことないです、面白いですね。」

そうやって、彼と僕との最後の同行営業はいつも通り始まり、後輩は時折相槌を加えながら滞りなく進んでいく。
いつもと変わりなくとても楽しい時間。
ランチはいつもの辛いラーメン。

時計が16時を超える頃、
彼は
「最後にもう一個だけ、やり残した場所に行きましょうか。」

と、彼は車を走らせる。
当社聞いていた学校は回り終わり、準備した資料はもう手元になくなっていた。
どこに行くんだろうと後輩と目を見合わせると、車が止まったのは路地裏の小さな民家風の和菓子店だった。

「ここ、いっつも休みだったでしょ?最後にやっていて良かった。お土産買って行こう。」

そうだった。
この人はいっつも僕にお土産を買ってくれる。
けれど、目的の和菓子店はいっつも定休日の日で、では次回に行きましょうと言ってくれたのだ。忘れていた。

お団子とどら焼きをたんまりと買って
「これでやり残したこともないね。さて、駅に向かいましょう。」
と彼は笑いながら言った。
その車中で、
「僕もね、もしかしたら近々、辞めるかもしれない。そしたらバイクで全国でも回ろうと思うんだ。ささやかな楽しみ。夢だな。」
と屈託のない少年のような顔で言っていた。

「じゃあ、また。」
「また、どこかで。」

僕らはそうやってその日解散した。
その2週間後、僕は転職し、
2ヶ月後、後輩から彼が書店の外商を辞めたと伝え聞いた。

さてと、思い出の振り返りの合間に競馬の予想を始めよう。

調教評価

調教評価第1位

1 ソウルラッシュ

1週前の追い切り素晴らしい動き

1週前のCW、4F 50.8-3F 35.8。ここから、一気に加速。要は1Fで4秒近く縮める瞬発力を持ち、長く加速できる能力が高い。
最終の坂路はラストだけ加速して、相手を突き放す。
1週前に負荷をかけて、最終で微調整。という典型例。

調教評価第2位

16 ナミュール

タイムは平凡も後肢の動きが力強い

おそらく、調教見る人でこの馬を上位にしてくる人は少ないと思う。
タイムは平凡、負荷は軽め。
ポイントはこれが高野厩舎ということだ。
レイパパレなど、高野厩舎は坂路を使い仕上げてくる。森秀厩舎と並び早いタイムのことが多いが、今回あえて負荷は軽い。
普段より軽めで仕上げて来ているが、馬は気持ちよく駆けている、制御されているという方が正確か。後肢の力強さと可動域が広い。
テンションも上げないための調教に見えた。
ただ、大外枠なのが残念。

調教評価第3位

9 シュネルマイスター

相変わらずエンジンのかかりはゆっくり、けど加速は最高。

1回叩いて確実に良化。ただし、栗東滞在で更に軽めとは言えCWで7Fを走ったので、次があるのかなという仕上げに見えた。
いわゆるバランスがとても良い馬で、少しクビが高めだが、キレで勝負できる。
下りで加速して早めにエンジンを入れれば圧勝も見えてくると思う。

調教評価第4位

7 エルトンバローズ

1週前全体時計が優秀。

1週前のCW、全体の時計が優秀。真面目に走る馬で、最終追いの坂路も好時計。
切れる脚ではないので、今回の瞬発力の鬼が揃うレースではどのポジションを取れるが肝だが安定感がある。
調教は元から動くタイプ、毎日王冠から1週前のCW→最終坂路と同じパターンで追っている。よく言えば横ばい、実力は出せる。

調教評価第5位

8 ソーヴァリアント

キレある1週前追い。

上4頭は簡単に決めれたのだが、5位は難しかった。イルーシヴパンサー、マテンロウオリオン、セリフォスと迷って、この馬を挙げる。
1週前のウッドを外を回して先行する併せ馬を併走。
先着は許したけどタイムは上々、一瞬の脚は健在。マイルがどうかという点があるが、坂前で加速して前を捉え凌ぎ切るならこの馬には適正舞台かと思う。

エピローグ


それは、週の始まり。
なんてことのない月曜日だった。
同じ東北を担当する別の出版社営業の方からショートメールが入る。

「◯◯さんがお亡くなりになりました。
バイクの事故だったみたい。」

東北で共に過ごした彼だった。
仕事を辞めて、楽しい時を過ごすと言っていたその当人だ。

頭が真っ白になり、浮かんだ単語は

「どうして。」

またねと言ったじゃないか。

どうして、これからって時に。

常日頃から思う。
神は不公平だと。

また会えると思ってた。
今度はこちらが甘いもののお返しをしようと思ってた。

彼は突然閉ざされた人生を悔いなく生きれたのだろうか、やり残したことはあっただろうか。

様々な想いが駆け巡る。
彼から与えてもらったものに対して、
僕はなにも返せていない。

やり残したこと、
僕はあるよ。

福島県郡山市にある小学校や中学校には、
彼が届けた本たちが並んで学生達の知識の源となっている。
特別な一冊と出会えた生徒Aにとって、彼は、書店の外商さん達は、
名も無い英雄なんだと僕は思う。

紙という重い荷物を背負った白いミニバンを飛ばしながら走らせる地味で泥臭いヒーロー。

著者が書いた物語は紙という媒体を通して、
本として紡がれて、
読者へと繋がる。
その最後の襷を繋げていた、それが彼の仕事だった。






ただね、そんなことより、








寂しいよ。

もう会えないのが。


「アド街」や「家ついて行っていいですか?」の話が出来ないのが。


辛いラーメンをもう一緒にすすれないのが。


寂しいよ。


僕はもう、こうやって2人の会話の中から記憶の断片を捻り出し、文章という名の予想で綴るくらいでしか貴方を弔うことが出来ない。

この拙い文章を、あの日、いつものように優しく接してくれた貴方に捧ぐ。

今、真横を通った
馬力の高そうな二輪車。
赤いエンジンタンクのHONDA CB750
貴方の愛車だった。

「この前、奥さんに怒られたんだけどさ、
バイク屋で見つけてつい買っちゃったんだよ。」

紅の儚い夢、それが貴方であったのなら。

2023年
マイルCS
私の本命は
12 レッドモンレーヴ

どうか安らかに、天国で好きな単車を走り回してください。合掌。

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