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【ビジネス・エスノグラフィの成功事例】「逆さケチャップボトル」誕生秘話

ビジネス・エスノグラフィとは、民族誌学的アプローチをビジネスやマーケティング活動に生かした調査手法のことだ。ユーザー調査などを行うときに定量アンケートで顕在化されたニーズや情報を探る手法と違い、デプスインタビュー、ユーザビリティテスト、観察調査などの手法を使って、ユーザーの潜在的なニーズを探る調査のことを指す。

「エスノグラフィ」はもともと、文化人類学や社会人類学で使われる研究・調査手法だ。特定のコミュニティにフィールドワークとして参加し、そのコミュニティ内の人々の行動をつぶさに観察・記述していくことで、コミュニティの価値観やコミュニティの構造をあぶり出していくものである。

こうした学術的アプローチを、ビジネスやマーケティングなどの課題解決に応用したところ、様々なイノベーションや成功事例が生まれたことから、近年はビジネスメソッドとして注目を浴びるようになっているのだ。

消費者の日常生活に密着し、既存のケチャップの不便さを発見する

創業150年の世界的な食料品ブランド「Heinz(ハインツ)」は、2000年代前半に売上低迷の穴から抜け出せないでいた。

そこで彼らは、自分たちの主力商品である「ケチャップ」のボトル入り商品を開発することにする。ボトル入りのケチャップは創業間もない頃にも販売していたものの、その後は卓上瓶入りのケチャップが主流に。復活に際して、どのようなボトルにするかがこのプロジェクトの最大の要点だった。

同社は新たにマーケティングチームを結成し、そこには社会学者も含まれていた。そして、消費者の自宅を訪問して、日常生活に密着するエスノグラフィ調査を実施する。

すると、多くの家庭で残り少なくなった瓶入りケチャップを逆さにし、底を叩いてケチャップを出していたことがわかった。その動きはとても非効率的で、勢い余ってケチャップが出過ぎてしまうことも。消費者もその状況を快適には思っていないように見受けられた。

特にハインツのケチャップは濃厚でドロドロしているため、残りが少なくなるにつれて使いにくくなる。そのため、多くの消費者がケチャップを逆さにして冷蔵庫に保管していることがわかったのだ。

同社はこの調査結果をもとに、開発チームと新しいボトルの形状を吟味する。こうして生まれたのが、あのキャップを逆さにしたプラスチック製のボトルだったのだ。

逆さまでも立てられるようにキャップを大きくし、逆さの状態でラベルが読めるように、全てを逆さにした。斬新ながらも利便性に優れた新ボトルはすぐさま話題となり、たったの3か月で純利益が17%以上も増加。このボトルはハインツのケチャップの新たなアイコンとなった。

今もなお、ハインツのケチャップやマスタードといえば逆さボトルであり、彼らはケチャップの世界的なトップブランドとして君臨し続けている。

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