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ノベルセラピーで紡いだ物語[マイケルローンのひな鳥]

 マイケルローンは53歳。白いシェフの服を着て、体型はまんまる。ニューヨークの下町でレストランをやっている。やっぱりまんまるな、元気がよくてニコニコしている妻と一緒に住んでいる。マイケルローンには娘が一人いた。娘はちょっとだけ丸くて、やっぱりよく笑う子だったが、恋をしてあっという間に痩せて、あっという間に駆け落ち結婚をしてしまった。相手は、シュッと痩せて背の高いフードコーディネーターで、マンハッタンの高級ホテルにレストランもプロデュースしている。いつもタキシードを着ている。見栄えばっかり気にしやがって。マイケルローンは気に入らなかった。それで結婚に反対したら、娘は駆け落ちしてしまった。娘が出ていって10年、街ですれ違うことはあっても、一度もきちんと会っていなかった。

 今日、マイケルローンの店のテーブルの上には、ご馳走が並んでいる。娘の誕生日なのだ。娘には会えないけれど、お店のお客さんにはサービスしようと、大きなチキンの丸焼きも焼いた。お腹にたくさん詰め物をしたチキンは、娘の大好物だったのだ。

 ぼーっとチキンを眺めていたら、鳥が大きくなるところが浮かんできた。親鳥が玉子を暖めて孵化し、毛がないひな鳥にやがて生毛が生えてくる。太陽の下でお散歩して水を飲んだり、雨の日には、鶏舎でみんなで寄り添う。ああ、うちの家族もあんな風だったなあ。この鶏も、鶏の親や農家の人が大切に育てて、ここにやってくるんだなあ。

 マイケルローンは、気がついた。娘がいなくなってから、食べ物を作る機械のようになっていた。一番喜んでくれる娘がいなくなったのだ。生命力のある食材を選ぶより、お手軽なものを選ぶようになって久しくなっていた。食材の命への敬意と感謝する心を忘れていた。

 だから、みんなこの店で、せかせか食事をするだけになったのだな。

 マイケルローンは、ハーブもドライばかり使うようになっていました。便利だけれど、この店には、生き生きとした生命力が溢れていて欲しい、と思いました。

 マイケルローンは、生命力に満ちた食材を取り入れることにしました。久しぶりに、生産者たちに会いにいって、自分の目で確かめることにしました。けれど、付き合いが途絶え、もう随分時間が経ってしまって、みんな代が替わってしまっていました。どうしたらいいだろう。マイケルローンの頭に、娘の結婚相手が浮かびました。彼はこだわりの食材を選んでいる。彼なら色々知っているだろう。

 マイケルローンは、駆け落ちしてから初めて娘に連絡を取り、娘夫婦に詫びました。そして家を尋ねました。娘と娘婿は、マイケルローンと妻のために、丁寧な食事を用意してくれていました。それはとてもスタイリッシュで美味しかったのですが、マイケルローンにとっては、少しよそよそしい感じがしました。それでもマイケルローンは、娘婿に詫び、その週末に一緒に農家を訪ねることにしました。新しいハーブの育て方も娘婿におそわり、小さな畑を十年以上ぶりに再開することにしました。畑の隅で花も育てました。

 マイケルローンの店は、いつでも、小さな花が飾られ、ちょうどいい分量の優しい味わいのご飯になりました。娘婿はマイケルローンの食事を食べて、よくあるメニューの奥深さを知りました。娘婿のプロデュースするレストランの味も、このあと、親しみやすいメニューを斬新に盛りつけたものが追加されました。マイケルローンのお店に来る人たちは、ゆったりと笑顔や会話と共に、美味しく食事を楽しむようになりました。

 今日もマイケルローンは、人々の笑い声を聴きながら、厨房で腕を奮います。今日のデザートはプリンです。もうすぐ娘が、孫娘と一緒にやってきます。プリンは孫娘の大好物なのです。

おしまい

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