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ひこうき雲に乗せた想い

広島へ向かう新幹線の車窓から、いつものようにボーッと空を眺めていた。空を眺める度に自然と飛行機雲を探してしまう。カズの声が聞こえる気がするので。


東海の小さな田舎町で育った僕には幼馴染の友人がいた。万博(かずひろ)と言う名前なのですが、珍しい漢字が使われている。周りからはバンパクくんと呼ばれていた。大阪万博が開催された昭和45年に僕たちは生まれた。カズのご両親は万博開催にちなんでそう命名したのであろう。彼とは誕生日も近く、僕の方が1週間だけお兄さん。


小さい頃から兄弟のように育った僕たちは、片道1時間半くらいの凸凹畦道通学路を、毎日道草をしながら帰宅していた。僕よりも体が大きかったカズは、勉強も運動も何をしても一枚上手うわて。誰の目からしても優秀な子どもであった。


僕たちは地元の少年野球チームに所属しており、カズは5年生の頃から1軍で活躍していた。しかもショートで四番、一方僕は少しだけ足が早かったことが評価され、それでもなんとか1軍の補欠に滑り込むことができていた。たまに代打や代走で出番がやってくる程度で、キラキラ輝いているカズをいつも羨ましく思っていたんだ。


**


ある日、いつものように道草をしながら、田んぼの端っこに積み上げられていた藁の束の上に、ふたり寝転んで空を眺めていた。


「ゆーじは大人になったら何をしたいの?」
とっさに放ったカズの質問にびっくりしたが、「オレは飛行機が好きだからパイロットになりたいなぁ」と答えた。
「カズは?」と切り返してみた。
でも彼は黙ったまま何も答えなかった。


どのくらい沈黙していたのか、、暫くすると、「ゆーじならきっとなれる、オレはそう思う」と呟いた。
結局、カズは僕の問いには何も答えなかった。


「ゆーじならきっとなれる。。。」
青く澄んだ空の上を細い飛行機雲がゆっくり西に動いていた。


**


6年生になると晴れて僕もレギュラーの座を勝ち取り、堂々と1番バッターとして活躍していた。クソ田舎の少年野球チームだと馬鹿にされていましたが、地区予選を嵐のように勝ち抜き、とうとう県大会の決勝戦まで駒を進めることになった。新聞に載っている僕たちの記事で、学校をはじめ、地元の方々が盛り上がっていたのを記憶している。


カズとは同じ中学へ進んだが、僕らの道はここで別れることになった。スター性のあるカズは順調に野球部へ入部しましたが、僕は両立していた器械体操を選択することになったからです。カズは僕の選択について何も言及しませんでしたが、それ以降徐々にお互い話す機会を失って行った。


野球部と体操部、お互い全国大会への切符を手にしましたが、残念なことに全く接点がなかった。会場も違うし宿泊先も違った。


中学を卒業した後、カズと僕は別々の学校へ進みました。彼は甲子園を目指し、僕はクラブチームに所属してオリンピックを目指すことになったのです。高校3年生の時、僕は怪我に泣かされ早々にオリンピックの道を絶たれてしまっていたが、彼は快進撃を続けていた。


でも、夏の甲子園まであと2つまできたところで、とうとう強豪校の壁を越えることができなかった。直接応援することもなく、地元の公民館のテレビ速報で彼の敗戦結果を知った。彼の夏もその時終わったんだ。


「カズ、お疲れ!!」


**


カズは東京の難関大学、僕は地方の国立大学へと進み別々の人生を歩んでいた。結婚して暫く経った頃、たまたまお盆で帰省したいた実家近くのコンビニで聞き覚えのある声に呼び止められた。


「ゆーじ!!」


ふと振り返ると、帽子を深々と被ったカズが立っていた。
彼と会ったのは中学を卒業して以来、実に12年ぶりであった。


「カズ、元気か?」
「結婚したんだってな、聞いたぞ!」元気かどうかの返答はなかった。
「で、どうだ、パイロットは?」
「パイロット?」僕は瞬時にあの時の飛行機雲を思い出した。
カズは藁の上の会話を覚えていたんだ。
「大丈夫だよ、お前ならなんだってできるから」
笑いながら僕の肩をポンと叩いて去って行った。


それが彼と会った最後の日となった。
数日後、友人からの知らせで彼の訃報を知った。仕事上の都合で日本に居なかった僕は、彼の葬儀にも彼の実家にも顔を出せなかった。


あれから20年以上経った。
今でも彼のお墓には行っていない。僕が行けば彼が居なくなった事を認めることになり、それが怖くてずっと逃げているんだ。


「ゆーじならきっとなれる、オレはそう思う」


今でもその言葉だけが僕の頭の中から離れない。
結局、信じ続けてくれた彼の期待に答えていない。
僕はずっと彼を追い続けていた。
いや、今でも追い続けているのかも知れない。


40年前、藁の上で一緒に眺めたひこうき雲。
今でも空を眺める度に無意識に探してしまう。


カズ、会いたいな。もう一度藁の上で語りたいよ。


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最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
引き続き、よろしくお願い申し上げます。🛩


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