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『コロナの現実とNext stepへのヒント』 夏野剛 x 中島聡 対談連載 2.KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営

2021年8月24日に開催された夏野剛と中島聡氏が共同発起人を務める「一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ」の設立3周年を迎えました。それを記念し発起人のお二人が、コロナ禍による想定外の社会の非連続な変化と、それの影響による社会や働き方の未来について議論しています。
 日本とは違うアメリカのロックダウンの現実やビジネスの変化。コロナ禍を経てこれからのKADOKAWAの”働き方・方針、社長のあるべき姿とは!”をトップ自らが語っています。

『コロナの現実とNextstepへのヒント』
  
1.アメリカでのコロナ禍の現実
  2.KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営
  3.9割はリモートワークもう元には戻れない?!
  4.終身雇用の終わり!働き方をアップデートする
  5.日本の問題とこれからの会社のありかた


KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営

司会:昨今、ネット通販だけではなく、ゲーム・オンラインコンテンツ関連企業の業績が急拡大していますが、今後のメディアのあり方に関して、中島さんからKADOKAWAの社長である夏野さんにご質問があるそうです。

中島:ドワンゴはインターネットでニコニコ動画等をやっている会社として今後の成長は見えてくるのですが、KADOKAWAは昔ながらの紙出版メディアをお持ちの会社で、どのようになってゆくのか、どのようにしたいのかをお聞かせください。

夏野:我々として、出版社とは考えてなく、IPクリエーション企業と位置付けています。紙や電子で文章として書いていく物、(漫画を含め)がIPの源泉になることが多い。理由として、一人で創れる点が大きいです
 KADOKAWAでは、一人で創った作品は年間5,500点の新刊を電子のみまたは、紙+電子の両方で出しています。5,500点の内、何十点かはすごく売れるのです。すごく売れた場合はお金が付き、人が付き、アニメ化や映画化が起こります。映像、動画、映画を作るのは一人の力ではできないので、原作が良いものでなければできないです。
 なので、ウケたもの、売れたものが次の展開に進めます。アニメならば年間35本程度、映画ならば10本程度、合わせて映像になるのが年間50本程度ある。この中からゲームになるものがある。これらの源泉になる原作と呼ばれるものが年間5,500点本、出していることがKADOKAWAのパワーになっていて、「メディアミックス戦略」と呼んでいますが、なぜか日本のライトノベルがアメリカやアジアで売れている。
これは、ベースになっている、年間5,500点のレベルが高いからだと考えています。KADOKAWAは出版会社ではなく、IPを次々に生み出す会社と考えている。他の出版会社との違いとして、大ヒットへの依存が無く、小さいクラスターにめちゃめちゃささるものが色々あり、「鬼滅」のようなヒット作が出ない代わりに、特定のソサエティにささる作品、例えば「ソードアートオンライン」のような作品が何本も何本も出ている。だから、簡単にはへたらない。
 同じ様な事はニコニコ動画でも言える。有名なインフルエンサーはYouTubeにいってしまうが、2,000人程度のファンを持つ配信者はYouTubeで稼げないので、ニコニコ動画の方が向いている。誰か何かにはまるというものを用意できるポートフォリオを持っているのがKADOKAWAやニコニコの強みと考えています。これを更に強力にしていこうと思っています。
※IP:Intellectual Property(知的財産)

中島:昔の出版社は出版がメインで、メディアミックスはたまに起り、ラッキーでたまたま儲かっていたけど、現在は、メディアミックスをメインとして行っていて、少年ジャンプが連載するのと同じ感じです。

夏野:少年ジャンプの場合は、掲載する件数が限られてきてしまう。KADOKAWAの場合はメジャーな雑誌・メディアを持っていないが故に掲載件数を限らず、いろんなところにささるものを幅広くやるという部分が力だと思っています。

中島:僕、実はコロナ禍の前にメディアミックス戦略を立てたんです。一つ原作者としてのコンテンツがあって、それをゲーム、映画に展開するまで全部計画を立てて、ゲーム会社を作り、漫画を作り始め、中国のドローンメーカーとの話も進んでいたのですが、コロナでダメになった。今度はKADOKAWAさんとやりたいですね。

夏野:ひとつ面白い話で、僕はKADOKAWAの全コンテンツを理解できないんです。誰も理解できない。1人の人間が5,500点のコンテンツ全部の良いところを理解することはできないんです。なので、それぞれの編集者がいて、全部で600人いる編集者がそれぞれが行けると思った作品に賭けていく。これが力だと思っています。

中島:それでも、自然淘汰の競争は起こっているんですよね。

夏野:そうですね。年間、1人の編集者が9~10作品を取り扱い、その中からヒットが生まれてくる。このような仕組みとなっているのがKADOKAWAの強みだと思っています。

中島:それは、一発のヒットに頼らずに続けていけるので、強いと思います。

夏野:そうです。なので面白くてユニークだと思います。最近だと、アジアの他の国から生まれてきた作品で例えば、タイから生まれたボーイズラブが日本で流行ったりするわけです。これが面白いなと思います。もともとボーイズラブ自体が皆にささるコンテンツでは無いので、一部の腐女子にはめちゃめちゃささるわけです。

小説と漫画、ヒットするのはどっち?!

中島:今は、メディアミックスで成功するのは、小説と漫画のどちらが多いですか?

夏野:コミックの場合もあるし、ライトノベルから始まって、コミカライズとアニメーションの両方をやる場合もあるので、結果的にヒットするのは両方です。原作がライトノベルだとしても、コミカライズは必ず起きるんです。

中島:文字から始まり、良いものだとコミカライズが起こり、それからアニメ化が起こるわけですね。

夏野:その場合もありますが、コミックからアニメに行く場合があります。あるいは、コミックが先でライトノベルが後から来る場合があります。

日本の作品が世界展開できない理由

中島:日本では流行っているドラマの元がコミックだったりする場合もありますよね。そのような部分でうまく世界展開できると良いですね。

夏野:そこが難しいところで、まず言語の問題があります。最初に作るときに英語で作らないと、トランスレーションの時点でタイミングが一拍落ちる話があります。2つ目に、ほとんどの時代設定、環境設定を日本ベースにしていると、感情移入ができないんです。ここが難しいところです。

中島:すごくもったいないですね。

夏野:はい。すごくもったいないです。日本ですごく流行っている、「キングダム」という漫画があるのですが、始皇帝を描いた漫画ですが、漫画の原作を読む限りでは、全て中国の話なので、日本っぽさはゼロで良くできた漫画ですが、これを映画化された時は、全員日本の俳優で作ってしまったのですごくもったいないと思いました。

中島:それはすごくもったいないですね。

夏野:しかし昔、「レッドクリフ」という映画があって、日本のエイベックスが作った映画ですが、香港のジョン・ウー監督で、日本人の俳優が3人くらい出ているけど、後は全部中国人で、中国語で撮ったのです。日本での興行はあまりうまくいきませんでしたが、中国での興行は成功した名作です。というように、言語の壁、時代背景、ターゲットのマーケット等、実写化だとどうしても日本に設定してしまうのですね。

中島:そこは切り替えたほうがいいんじゃないでしょうか。ハリウッドに行くなり、中国に行くなりして作ると。

夏野:そうすると、日本であまり売れないのです。

中島:日本で売れなくても良いと思います。

夏野:そこが割り切れていないですね。多くの場合は日本の映画も日本のドラマも日本のテレビ局が絡むので。

中島:そこは要らないです。

夏野:要らないのですが、製作の過程においてはそれが映画の投資をする人にとって、一つのルーティンになっているのです。

中島:製作委員会でしょ。これはもったいないです。

夏野:製作委員会です。東宝とかテレビ局を入れると日本マーケティングになってしまいます。

中島:KADOKAWAさんはその義理とか無いではないですか。

夏野:日本で公開しないものを作るという判断ができたら、それができると思います。

中島:KADOKAWAさんの立場だったらそれができるのではないですか。

夏野:僕は投資の判断はできるのですが、まず監督がいないのです。

中島:それはビジネスディールにして、監督はハリウッドで雇うのです。

夏野:ご存じの通りハリウッドにはいろんな方がいるのです。プロデューサー誰々を引っ張ってきてとか、それをやったことがある方が日本にはいないのです。

中島:それは僕はやるべきだと思いますよ。このドラマをハリウッド映画化するためにKADOKAWAの名前でお金だけ日本で集めて、東宝やテレビ局は排除して、誰かがアメリカに行って、お金を持っているから、良いプロデューサーとシナリオライターを雇って、これが元ネタです。映画化しましょうと話を持ち掛けるんです。

夏野:あり得る話だと思いますが、多くの場合はお金だけ持っていかれて終わりだと思います。ハリウッドの方々はすごく強力なので。もしやるとしたら、ソニーがやっているみたいにコロンビアピクチャーズを買収してこっちの人間にしてしまって、ハリウッドで好き勝手やらせてしまう。というのがソニー・ピクチャーズがやったパターンですが、そのくらいはやらないと駄目かなと感じます。

中島:日本のコミックやライトノベルなどのクリエイティビティのプールの大きさがすごいじゃないですか。

夏野:そうなんです。まさに「攻殻機動隊」や「バイオハザード」なんかは日本のIPだが、ハリウッドで作らなければ、あのようにはならなかったのは何故なのかというところを真剣に考えなければいけないと思います。

中島:そこはいいじゃないですか。専門家がたくさんいるわけですから。

夏野:日本マネーみたいにしないためには、ソニーみたいに映画会社を買うくらいのことをしなければ、仲間ができない。いいカモにされて終わってしまう。

中島:今は出口として、Netflixもあるから、NetflixとKADOKAWAの間にワンクッション置く会社をハリウッドに作るんです。KADOKAWAが日本資本として。

夏野:その場合は、Netflixがハリウッドに対していらないと言います。直接やりたがると思います。

中島:直接やるにしても、そこで監督雇って、俳優雇わないといけないから。

夏野:そうですね。でも、Netflixにはその能力があります。

韓国ドラマの強さ

中島:今、Netflixで韓国ドラマがすごく頑張っていますよね

夏野:そういう意味でNetflixでは、「今際の国のアリス」というのが、全世界である程度の視聴者数を記録しましたが、あの作り方はありだと思います。これは、日本で作っていて、Netflixがベースのお金を出して作っています。これは近未来を描いているので、あまり日本という設定ではなくなっているんです。ですので、そのようなパターンを狙うのはありだと思います。
 韓国は国内市場で食っていけないため、割り切っているのだと思います。

中島:彼らの強みだと思います。

夏野:本当に割り切っているのだと思います。
日本は中途半端に国内市場がそれなりにあるので、そこら辺が違いだと思います。

中島:日本はこれから少子化ですから。

夏野:本当ですね。時間の問題だと思います。

中島:僕は見たいですね。KADOKAWAが作った面白いドラマをNetflixでどんどんと。

夏野:過去作は結構出ていますね。

中島:いい作品が多いですからね。これからどんどんお願いします。

夏野:はい。頑張ります。

3.に続く


『創造的でなければ死んでるのと同じ』  夏野剛✖️松本徹三 対談連載1〜7

1. 地獄を知っている二人!?
2. 迷った時は遠を見ろ
3. 海外から見た日本
4. AIの未来、人類を救うのは!?
5. 知識の幅を広げよう
6. 日本の市場と会社の限界
7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!


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