見出し画像

『コロナの現実とNext stepへのヒント』 夏野剛 x 中島聡 対談連載 4.終身雇用の終わり!働き方をアップデートする

2021年8月24日に開催された夏野剛と中島聡氏が共同発起人を務める「一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ」の設立3周年を迎えました。それを記念し発起人のお二人が、コロナ禍による想定外の社会の非連続な変化と、それの影響による社会や働き方の未来について議論しています。
 日本とは違うアメリカのロックダウンの現実やビジネスの変化。コロナ禍を経てこれからのKADOKAWAの”働き方・方針、社長のあるべき姿とは!”をトップ自らが語っています。

『コロナの現実とNextstepへのヒント』
  1.アメリカでのコロナ禍の現実
  2.KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営
  3.努力を努力と思わない仕事をみつける!
  4.終身雇用の終わり!働き方をアップデートする
  5.日本の問題とこれからの会社のありかた

終身雇用の終わり働き方をアップデートする

司会:ありがとうございます。私自身がプログラマーなので、心に刺さる思いで聞いておりました。
 それでは、本日最後の3つ目のテーマ「コロナとライフ」について、お話をお伺いしていきます。中島さんのメルマガで、大卒者の半分が定職に就けない時代が来ると書かれたことがありましたが、その点について詳しく教えていただけないでしょうか。

中島:大卒者の半分が定職に就けない時代というのは、既に現実になりつつあると考えています。特に日本の場合は正社員を絞って、なるべく派遣や有期雇用社員にしているので、今まで通り、大卒者が一度正社員として就職して、終身雇用で引退までという時代は終わりつつあると考えています。
 そのような中で、終わらせない部分もあるわけです。特に経団連の企業はなるべく終身雇用制度を終わらせたく無いので、そこにしがみついている人たち、それからそれを守ろうとしている労働組合がまとまって、全体の割合で見れば20~30%程度まで終身雇用制度にしがみつく割合は減ってくると考えています。そこで正社員になった人はいつまでも終身雇用を維持しつつ、会社としてはゾンビのように存続する。一方で、ほかの人たちの大半は、正社員になれない、正社員になったとしても、おおよそ3年くらいで転職するスタイルに変わっていくと思います。
 「日本の終身雇用が終わります。」と言われつつ、なかなか終わらないのは、終わりつつある部分と、終わらない部分の2つの世界があり、あるいは虐げられているフリーターや派遣の方達、正社員としてしがみついている人達、フリーランスで自由に働いている人達の3つの世界があって、混在している状況なので、その中で自分がどこにいるのか、ある程度意識した方が良いと思います。
 なんとなく正社員にならなくてはいけないではなく、正社員にならなくてもよくて自分はフリーランスとして頑張るとか、もしくは、ここの会社には入るが、ここは踏み台でしかなく、自分のキャリアパスとしてこういったものを目指すといった、今までの終身雇用時代とは違うキャリアパスを大学に通っている頃から意識しないといけない時代だなと考えています。

転職のタイミング

司会:ありがとうございます。
キャリアパスを考えていこうとなったときに、自分のやりたいことや、強みみたいなものを何処かで見つけていくのかなと思いますが、中島さんや夏野さんがご自身の経験から、自分の強みや、やりたいことを見つけたタイミングはございますか。

中島:私の場合はっきりわかったのは、大学院を出た後、NTTの研究所で働き始めたときでした。学生アルバイトとしてアスキーで働いていたとき、マイクロソフトも関わっていたので、NTTは違うな、NTTにいると終身雇用制で20年働くと年金が出るので皆それを頼りに働いているのですが、それは自分の人生として違うなと考え、マイクロソフトに行くのだとその時に気が付きました。24、25歳くらいの時です。それはとても良かったです。気が付いた上に、そこで転職が気軽にできたので、後から考えると、よい決断をしたなと思います。

司会:当時は転職などもしやすい時勢だったのでしょうか。

中島:その頃、転職は大変な時代でした。教授からはお叱りを受けるような大変な時代でした。

司会:そのような中で職を変えていって、それは間違いではなかったということですね。ありがとうございます。
 夏野さんは如何でしょうか。

夏野:私の場合は、アメリカの大学院に行った時にちょうどアメリカでインターネットが始まりつつあった時でした。それをきっかけに、私はこの道しか無いと考え、日本に帰った後ベンチャーを立ち上げましたが潰してしまい、酷い思いをしました。その後、仕方なくNTTドコモに入ったことから考えると、本当に自分の人生の選択が正しかったのか、自分ではわからないです。今でも正直わからないです。わからないですが、少なくとも、炎上もしつつも面白いと思ってくれる人もたくさんいて、支援してくれる人もたくさんいるという状況にあるということは、それなりに認めてくれている人もいるので、一応は人生として合っているのかなと感じます。

iモードは日本初のDX!

中島:ドコモのお話は聞きたいです。NTTとドコモは同じと考えています。

夏野:そこは違いました。あの頃は違ったのです。1992年にドコモという会社が分散させられた時は、移動通信がそんなにうまくいくと思っていなかったのです。その時にNTT本体の常務だった大星さんを追い出す名目で独立させた。NTTドコモ初代社長の大星さんはNTT本体の常務から出世競争に負けて、追い出されたのです。
 NTTの常務だったのに追い出されたから、「ここはNTTとは違う」と言って始めたのがNTTドコモです。社長を務めた後、会長になり、外部の講演に呼ばれるようになると、「私はNTTが大嫌いです」と外で平気で言っていた。さらに社長時代に一個だけやり残したことがある。それは、社名から「NTT」を取ることだ。というようなことを平気で言ってしまうような人でした。
 私がNTTドコモに行ったときに最初に社長に言われたことが、「NTTと一緒になるな。」「うちはNTTじゃないんだ。」「じゃないとお前は雇わない。」でした。

中島:ドコモで夏野さんがやられたことってすごいじゃないですか。結果オーライではなく、結果を知っていたわけでもなく、始める前ではありえない動きだと思います。なぜあのようなことができたのでしょうか。やらせてもらえたのでしょうか。

夏野:正直に申し上げると、あの時にインターネットをわかっている人が誰もいなかったのです。1997年にNTTドコモに入りましたが、この1997年は、楽天が無ければ、Amazonも参入していない。yahoo.co.jpも1996年4月にできたような時代で、NTTにもインターネットの技術者がいないのです。研究所には多少はいましたが、NTTドコモの中には誰もいなかったのです。そのような中、出身が文系の学部ですが、技術系の人事だと勘違いされて、技術系の人事にいました。

中島:今はDX(デジタル・トランスフォーメーション)が話題になっているじゃないですか。日本の企業はDXが出来ないと。いざDXをやろうとすると、どこかのITゼネコンを雇って、業務の一部をデジタル化するというつまらないことをしていると感じます。
 それに対して、iモードは日本初のDXだと思うのですDX自体は、今まであるものを電子化することではないと思うのです。インターネットとかテクノロジーを活用して、新しい価値を提供する話じゃないですか。iモードはまさに旧態依然とした、NTTの子会社のドコモからあんなことができたというのはすごいことです。そこに今の日本のDXができないところのヒントになることがあると思うのです。

夏野:そういう意味では、まだ日本の企業が技術を持っていた時代だったというのがあると思うのです。通信の技術は、当時からモトローラやノキアやエリクソンが強かったのですが、アプリケーションの技術を持っていなかったのです。本当は、AppleやGoogleがやったことは日本のメーカーはできたはずなのです。ただ日本のメーカーはリスクを取らないので、そこでリスクをとる会社がたまたま出てきて、それがドコモだったのだと思います。

中島:でもそれは、アプリケーションだったし、エコシステムを作ってサードパーティにお願いしたじゃないですか。

夏野:それは、そういう発想で作っている。

中島:あれだけのことを旧態依然とした会社ができたのだから。

大企業さえ社長で変わる

夏野:思うのは、会社はドコモの場合は何万人と社員がいます。NTT全体では20万人位いますが、NTTドコモはグループ会社を含めるとおおよそ4万人くらいの社員がいます。4万人の会社でも、トップが誰かによって会社の雰囲気ががらりと変わるのです。初代社長の大星さんはベンチャー企業以上にベンチャー精神の人だったので、NTTとか、官僚的なことが大嫌いな人だった。これが2代目の社長は、少し違う意味で技術思考の人だった。そして、3代目は、、強いNTT型の人が社長になった。その瞬間に幹部の言動ががらりと変わっていった。。企業経営においてリーダー・トップの人が誰かというのが、会社全体の雰囲気に影響を与えるというのを、身にしみて感じました。それは、どうしようもない大企業であっても、急に社長が変わったら、会社が良くなるという話はよく聞くじゃないですか。そのようなことが本当に起こるのだと身に染みて感じました。

中島:iモードはすごく勿体なかったですね。

夏野:力不足ですみませんでした。

中島:でも、トップのお話は分かります。

夏野:ものすごく影響がありますね。その様なものだと身に染みてすごく感じました。
なので、良いトップであろうと頑張っています。

中島:良いと思います。やはり、年齢だけで決まらない部分だと思います。

リーダーの考えを伝える

夏野:何を大事にしているのかは、しっかりと伝えないといけないなとすごく気を付けていて、トップが何を大事にしているのかをしっかりと伝えないと、何をしたらよいのかがわからなくなります。なので、僕はクリエイティビティ、つまり過去と同じ事は絶対にやるなという話と、テクノロジーは使えるものは何でもフルで使えという話と、本気でそれにやる気があること。やる気が無いなら仕事を替わってくれという3つだけを大事にして欲しいというお話をずっと言い続けています。この3つさえやってくれれば、法に触れなければ何でも良いと言っています。それが少しずつ浸透していると感じています。

中島:大事だと思います。僕は、マイクロソフトが一番良い1990年代にいたのですが、その時はビルゲイツが何を考えているのかということを、皆が考えていました。それがうまくいくと、会社がうまく回り、出世もできるのです。ある時点で、僕自身がビルだったらこう考えるというのが分かるようになってきました。そうしたら、ものすごく仕事がしやすくなりました。相談しなくて良いですから。プログラムを書いていても、何か大きなことを自分で決めなければいけない場面で、昔ならば上司に尋ねるような場面が、ビルだったらこうするというのが分かると、相談もせずにやって、それが結果オーライになることが分かっているので、すごく仕事がしやすくなるのです。これが会社の中に生まれたら、ものすごい力になります。

夏野:まさに、iモードをやっていた時に、社長に聞きに行くことは何もなかったです。こうやれば褒められるというのがわかっていたので、どんどんやっていきました。工場に説明してもどうせわからない状態でした。それがトップとの信頼感だと思います。

中島:それがリーダーシップですね。ある意味、何を大切にしているのかが分かりやすいリーダーが良いと思います。わかりやすいのが夏野さんの強みだと思います。

夏野:分かりやす過ぎて、炎上してしまうんです。

中島:でも、特に自民党の上の方の人達は何を考えているのかわからない人達ばかりでは無いですか。


5.に続く


『創造的でなければ死んでるのと同じ』  夏野剛✖️松本徹三 対談連載1〜7

1. 地獄を知っている二人!?
2. 迷った時は遠を見ろ
3. 海外から見た日本
4. AIの未来、人類を救うのは!?
5. 知識の幅を広げよう
6. 日本の市場と会社の限界
7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?