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写真編集向けディスプレイは必要か。BenQ SW271 レビュー 前編

さて、今日は少し趣向を変えてレビュー記事を書いてみようと思います。
というのも、先月からBenQさんのご厚意で4KディスプレイSW271を使用する機会を頂いたので、その使用感などお伝えしたいと思います。

…という感じのレビュー記事だと、ほんとスペシャリストの方、ものすごい分かり易い記事を書く方がいらっしゃいますので、そこはそこで。
私は私なりに、写真編集用のディスプレイを持っていない撮り手の皆さんに向けて「ほんとに必要なの?」っていうところなんかも交えて、お話ししていってみようと思います。しばし、お付き合いください。

ただ写真を撮るだけなら、
普通のディスプレイでもなんとかなる時代

写真学校等で専門的な知識を体系的に習った経験がない私は、御多分に漏れず「写真は趣味」というところからのスタートでした。だから、写真はこう撮らなければならない、こう見せなければならない、という固定概念はあまりありませんでした。
でも、改めて考えてみると、一枚の写真を創り上げるには、大きな3つの項目を順に追っていっていたのだと思います。
1. 撮る → 2. 現像・レタッチする→ 3. プリントして見る、見せる 

私の場合、写真が趣味だったフィルム時代は2と3は基本的に業者さん任せ。撮ったら現像所に出して、後はプリント受け取っておしまい、っていうレベルだったんですね。当たり前ですけど、撮った写真は見るためにプリントしてました。写真が好きな人は、1の撮ることにエネルギーを費やすのは当然のことだと思うんですけど、フィルム時代の私は、そして皆さんもきっと、3の「自分の撮った写真を見る」というところにも多少のエネルギー、そしてコストを費やしていました。だって、撮った写真がどうなったか、わからないままじゃ、寂しいじゃないですか。

そんな写真の世界に、デジタル革命がやってきました。私自身もデジタル一眼レフを手に入れてからは、撮影がグッと身近になりました。「いくら撮っても、現像にお金がかからない」これはお金の無いカメラ好きな私には嬉しい革命。だって自宅に帰ってPCにつなげれば、大きなサイズで好きなだけ自分が撮った写真を見られるわけですからね。3の所に、コストや手間をかける必然性が下がっちゃったんですね。そうやって多くのユーザーがプリントをする、っていう行為から遠のいていったのだと思います。撮って、ちょっと確認して、終わり。撮りっぱなし写真の大流行ですね。

それに加えて、今現在、写真の発表の場ですらネット上に設けることができます。それを考えると、デジタルで撮って、デジタルで修正して、デジタルで見てもらう。「撮った写真達はほとんどデジタルの世界から出ないんだから、皆がネット閲覧する普通のディスプレイでいいじゃない」なんて考え方も、ユーザーさんによっては成り立つと思うし、それはそれで、別に悪いことじゃないと、私は個人的には思うんですよね。

でも『色は水物』ということは
写真をより楽しむために覚えておきたい

4Kディスプレイ SW271が我が家にやってきた時、
まずは組み立てて、とりあえずノートPCに繋いでみました。
どうです?同じ写真なんですけど、クマの色違って見えませんか?
同じパソコンから出力された画像ですが、ディスプレイによってこれだけ見方が違うんです。
デジタルとインターネットが普及して、一枚の写真は、瞬時に世界中で共有できるようになった。同じ写真を見ているんだけど、でも実はその雰囲気を支える色が、それぞれのディスプレイで違って表示されている。これって、意外と意識されていないんですよね。

デジタル画像って、最もスピーディーに、多くの人に共有できる手段だと思うのですが、写真の根底にある情緒、雰囲気を支える色味を正確に伝える、という意味では少し不安定な世界なのかもしれません。あなたが見ている写真を、どこかの人が、ずいぶん違う色の中で見ているかもしれない。インターネットの写真の世界って、実はそんな感じなんですね。

微妙な色合いの写真で、ネット上で皆さんにどう見えるか気になるときは、家族のPCを借りたり、タブレットを使ったりして、複数のデバイスで同じ写真を確認することもあります。気になる方はまずこの方法を試してみてください。ディスプレイの違いによる色のバラツキを実感できると思います。

反対に、写真を見る人の中で最も色のズレが少ない手段の一つに、展示が挙げられるでしょう。同じ印刷物を見ているわけですから。でも、厳密にいうと、その人の目の調子とか、角度とかでわずかに見え方に差が出ているかもしれない。その次が紙。これは例えばその写真が掲載された雑誌を見ている人の周りの明かりの状態なんかで、見え方に多少の違いが出てくるはず。

簡単に言うと、色のばらつきの順番はこんな感じかな?
バラツキ大 > ディスプレイ > 紙・出版物 > 展示 >バラツキ小

赤は赤、青は青、っていうけど、色って本当に見る人によって違って見える。写真は、カラーだって、モノクロ(濃淡)だって、色が支えているもの。一枚の写真の雰囲気は、色味が担っている部分もかなり大きい。だから写真も、そんな色の曖昧さの影響を強く受ける世界なんですよね。

写真を仕事にするようになって、自分が撮った写真が、出版物に掲載されたり展示されたりするようになりました。その時にやっぱり自分の思う色をなるべくズレのない形で伝えなければ、と思うようになったのは自然なこと。別に仕事にしていなくても、写真を楽しむうえで「自分の思う雰囲気をズレなく伝えたい」という思いはとても大切な要素だなと思います。
だからこそ「環境によって色が違って見えるぞ」っていうことは、あらかじめ意識しておきたいことだと思うんです。

色味を寄せる。
写真を正しく伝えるために必要なこと

デジタル世界の色は曖昧…なんてことをいうと、その筋の人のお怒りを買うかもしれません…。それくらい正しい知識と機材があれば、色のブレ幅を狭くできる、ということなんです。
ちなみに、私が展示や作品販売等、プリントするお仕事を頂いたときは、プリントはプロの業者にお願いしています。もちろん、出力後は私自身の目で確認して、必要であれば再オーダーをし、撮り手である私自身がイメージする色に近づけていきます。…なんというか、これは私の勉強不足の部分もあるかもしれないですが、私の場合、色味は最終的には自分の目で判断してます。自分が納得すればOK。しなければしつこく直す。
最後は人間の目、っていうことで結局はアナログなんだけど、そこに近づけるために色の基準を狭めていく、寄せていく作業とか環境づくりは、とても大切だと思うんです。


もちろん業者さんにデータを入稿する前に、自宅で写真のデータの色味を調整します。でも、自宅で作業するディスプレイの色があやふやだと、自分自身で行う色味修正が、これまた基準の無いまま調整の世界を右往左往することになってしまうわけですよね。そしてだんだん、自分が最初に思い描いていた色すら、わからなくなってきてしまう…。これが最悪のパターンです。
昔、テレビか何かで目にしたんですけど、美容院に行って髪をカットして、その髪型に満足していますか?っていうアンケートで、満足度が極めて低かったっていう記憶があるんです。それって自分に似合う髪型の基準っていうのが、自分の中でしっかりしていないから起きる齟齬なんじゃないのかな?って思うんですよね。雑誌で見たカッコイイ俳優さんの髪型見て「これにしたい!」って言っても、そもそもあなたとは顔が違うし、基準が違うし、似合わねーよ、みたいな…。笑)

というわけで、自分の作業環境でも、しっかり色の基準を持とうぜ、ってことで、なるべくきっちり色が出せるディスプレイで、なるべくプリントの色に近づけておくことが大切。だからこそ、きちんとしたディスプレイが必要だ…。簡単に言うと、という割には長くなりましたが 笑)、カラーマネジメントできる写真編集向けのディスプレイが必要な理由って、そういうことだと思うんです。

一般的なディスプレイでは現わせない
色の世界を知っておく

実際の世界って、多種多様な色があって、それを完全にディスプレイの中で再現することは難しい。それを少しでも現実に近づけるために設けられた、デジタルで色を再現する規格というものがあります。
sRGBって聞いたことありませんか? 色を表現する方式の規格の一つで、デジタルカメラの世界ではとてもポピュラーなもの。ちなみに赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)、の3つの色を配合して幅広い色彩を表現する、といえばイメージし易いでしょうか…。インターネット上では、一般的にはこのsRGBという規格で写真の色を再現し、表示しています。もう一つ、Adobe RGBという規格があります。これはフォトショップ等で皆さんご存知、アドビシステムズが制定した規格で、sRGBに較べて表現できる色の範囲(色域)が広く、より繊細な色表現が可能となっています。

色域広い > 現実の世界 > 印刷物 > AdobeRGB > sRGB > 色域狭い

多彩で繊細な色合いを表現するために、色域は広い方が有利。だからこそAdobe RGBを使いたい。ところが実は、一般的なディスプレイでは、このAdobe RGBの色域の表示に対応していません。つまり、ディスプレイによっては見えない色があるっていうことなんです。特に青と緑の色域に違いがあるようです。どちらもネイチャーフォトには大切な色ではないですか…。

今回ご紹介する(と言いつつ、まだ全然できてないけど 笑)BenQSW271は、色の再現範囲が広く、sRGBは100%、Adobe RGBにおいては99%をカバーしているので、非常に忠実な色再現が可能というわけなんです。

見えない色があるままの色調整は難しい。より繊細で忠実な色を使って写真をレタッチするには、このAdobe RGB対応の色域の広いディスレイを使うことがまずは必須の条件、ということになるんですよね。

でも「色の表現範囲が広ければ、それでもうバッチリ!」
…というわけでもないんです。
「色味を寄せる」っていうお話をしましたけど、ディスプレイの色の調整…これがしっかりできていないと、極端な話、意味がない。
デジタルで表示するだけなら、一般的なディスプレイで拾いきれない広い色域は必要ないのでは?と思われる方もいるかもしれない。でもデジタルの世界で写真を表示するときも、なるべく極端なズレの無いニュートラルな位置に色の基準を持ってくることも大切。色の調整はそういう意味でも大切な要素なんです。

という感じでレビュー記事のつもりが色のお話になってしまいました。笑)続く後編では、色の調整(キャリブレーション)のお話を、SW271を使ってみながらしていきたいと思います。

ありがとうございました。


▼ 後編記事はコチラ ▼


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