朱鞠内湖・ヒグマ事故についての私見。 #23

【追記:無料で全文読めます】
メンバー限定記事でしたが、ご意見を頂き全体公開に変更しています。

自然写真家のnoteに追加しました。

2023年5月14日。北海道の朱鞠内湖の湖岸で釣り客がヒグマに襲われて亡くなりました。このニュースは衝撃を持って私にも伝わってきました。多くの人がそれについてSNSで発信しているのを見ますが、あまり的を射ていない発言も多くみられます。
一方で、現場やヒグマのことをよく知る人は、詳細が明らかになるまで慎重で、公での軽率な発言を控える傾向にあります。知人の専門家は --「人食いグマ」「釣り人を襲撃」などの派手な見出しの報道が多い中、この事件に過剰な反応は禁物 -- と発言していました。この点は私も同感です。冷静さを欠くことは、正しい対処を難しくしてしまうからです。
よって、しばらく静観をと思っていましたが、現地からの報告と、私の経験を照らし合わせたうえで、再発を防ぐためにも、早々に、いくつか皆様にお伝えしておきたいと思うことがあります。
簡潔にですが、まずはサブスク限定記事でそれをまとめてみました。(後に公に公開する可能性があります)
現地を知らない、しかしながらそれなりにヒグマを見てきた人間の私見です。メンバーの方は是非ご覧になり、ご意見を頂戴できればと思います。

■ クマの個性:捕殺までの時間から推測できること

北海道に住む知人よりこの事件の第一報を受けた時に私がまず気になったのは『当該個体が被害者にどういう接近をしたか』そして『人を襲った後何処に行ったか』ということです。この2点から、ある程度ヒグマの個体の性格とそれによる怖さを推測できると考えるからです。
情報では確か事故の翌日には、該当個体はハンターにより捕殺されました。素早く駆除されたということは、警戒心の強い個体ではないかもしれない、ということです。
例えば羅臼で出没し、民家の犬を狙っていた『RT』という個体は、街中でも茂みの中に隠れ、至近距離からハンターを襲い、それを回避したハンターは負傷したと耳にしました。RTは「人間に見つかるとヤバイ」という警戒心を持ちながら人目を盗んで人家に出没していました。人間側から見れば狡猾な個体です。しかし、朱鞠内の今回のクマはそうではないように見受けられます。人間に接近に気づいて茂みに隠れてしまうようなヒグマを探し出して迅速な駆除をする、というのは至難の業だからです。

後日出た上記のニュースを見ると、クマが森林地帯から出て釣り人に接近したと考えられ、私の推測と一致する部分が出てきます。
断言はできませんが、おそらくハンターが駆除するときも、同様に見晴らしの良い場所にヒグマが出てきて接近してきたと考えられます。

警戒心の強いクマはオープンスペースに出てきて身体をさらすことを嫌う傾向にあります。今回のクマはそうではなく、例えば釣り人に頻繁に目撃されるような物怖じしない、ある意味ではのんきな個体だった可能性があると私は推測する次第です。


■ クマスプレーの有用性

「クマスプレーは早撃ち出来ない」かつて私はそう教わり、そこに留意してきました。ツキノワグマと至近距離で出くわし、突発的なブラフチャージを受けた時、クマスプレーに手をやりながら「これは、間に合わないな…」という思考が脳裏をよぎったことがあります。この時は、クマの方が直前(1mほど)で逸れてくれて事なきを得ました。またヒグマでも、追われた小鹿が私の方に逃げてきて、それを追って全速力で駆けてくるヒグマの速さを体感しました。(この時は6mくらいの距離で止まってくれました)結論を言うと「突発的に至近距離から攻撃してくるクマに適切に対処するのは難しい」ということを感じました。もちろん、それでも事故を防ぐ可能性を少しでも上げるためにクマスプレーは備えておくべきです。撃ち方の訓練を含めてです。… とにかく「早撃ちはできない(むつかしい)」という先輩の言葉の重みを、私は経験から重ねて知ったことになります。(ちなみにこの経験は、フィールドで活動する人間にとって、事故とはいえ恥ずべき経験、という言葉を付け加えておきます)

一方で、捕食目的や好奇心での接近という場合を考えてみます。クマはライオンやチーター、オオカミのような純粋な肉食のハンターではなく、少なくとも人間に対しては捕食目的で素早く急所を狙った攻撃をしてくる事例は、おそらくかなり少ないのではないでしょうか。ましてや好奇心で近づいてくる個体は、全速力のダッシュで来るわけではなく、比較的ゆっくり(といっても人間にとっては短い数秒間かも知れませんが)近づいてくる場合が多いと考えられます。この場合、スプレーなどの忌避手段を人間側が備えておくのはかなり有効だと私は考えています。褒められたものではないですが、同様の接近は私も何度か経験してきました。怖いですが、スプレーを構えることができる場合が多いです。

上記2つのケースではクマスプレーの有用性は大きく変わってきます。全く違うと言ってもいいでしょう。そして、いくつかの情報を聴いて考えるのは、今回の朱鞠内の事故は後者の可能性が高いのでないか、ということです。

■ 報道でクローズアップされるべきことは…

もし釣り場で事前に物怖じしないクマが頻繁に目撃されていて、そこに一人で上陸するならば、私なら絶対にスプレーを用意していきます。(もちろん上陸しない、が最善の策です)
亡くなられた方は、経験が豊かでクマの怖さを知っていた、との報道がありました。しかしながら、クマスプレー携帯等の対策を抜かりなく行っていたかどうか、は明らかになっていません。
「どうせ間に合わない」といってクマスプレーを携帯しない人もいるようですが、私が推測するに、間に合う可能性は状況によっては十分にあると思っています。今回のケースにも同じことが言えるのではないでしょうか。
ヒグマが物怖じしなくなって人に接近してしまうようになった理由は多々考えられ、組織的な大きな対応策の必要性が考えられますが、まず個人ですぐできる対応策は「ヤバそうなクマには近づかない」「スプレーの携帯」です。これの有無がどうだったのか。そしていずれにせよ再発の可能性を少しでも減らすために、この対策の重要性を喚起するのが報道の担うべき役割なのではないかと、私は強く思う次第です。皆さんは、どう思われるでしょうか。

■ 人間側の対処の積み重ねを考える

もう一つ、余談です。これはより個人的で過激な?意見になりますが、こういう人馴れした個体は、昔ならとうに狩られていたことでしょう。そこに『祈りと感謝とともに』という言葉を付け加えてもよいかも知れません。いずれにせよ、殺すことの是非や善悪の判断は措いたとして、クマと人間の軋轢が大きくなってきているのは、こういう個体が増えてきた、というだけではなく、人間側も殺さなくなった、ということが原因の一つとして考えられます。
同時に、人間側も「大丈夫だろう」と思ってクマに近づいてしまうケースが増えているように私は思います。やはり怖がることは重要です。私自身もその前線にいるので、なんとも難しいところではあるのですが…。(ちなみに、私は経験からクマの恐ろしさを感じてしまい、今は心底怖くてしょうがないです)
こうしてクマの変化だけでなく、人間側の対処や行動の変化によっても、今後、加速度的に事故の可能性が高まっていくことが懸念されます。春熊猟の是非などの話もありますが、これはまた専門家の方にもっとお話を聞いてみたいと思っています。そのお話は後日しますね。

いかがでしたでしょうか。私の場合は「明日は我が身」の不安にさいなまれながら、まずは個人でできること、対策を緊張感を持って徹底したい、そんな風に考えています。皆さんのご意見はいかがでしょうか。またどこかで、是非話し合えたらと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見・ご感想、コメントで頂けると嬉しいです。

更新情報はツイッター・フェイスブックで随時配信しています。
フォローしていただけると嬉しいです。
■ twitter @sinh11  ■ facebook ■ instagram
マガジン 自然写真家のnote


ここから先は

0字

基本プラン

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

いただいたサポートは、旅費や機材など新しい撮影活動の資金とさせていただき、そこで得た経験を、またこちらで皆様にシェアしていきたいと思います。