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僕とニャンコ①

何日目だろうか。外界の空気を吸っていないのは。

僕が生活している範囲はたった6畳の狭い部屋。しかも部屋は北部屋。そして一階。さらにベランダの向こうには、部屋を隠すためだろうか、謎の草木が覆い茂っている。

部屋から出なければ、一日中太陽の光を浴びることができないそう言う状況の中で、僕は生活している。

買い溜めていたカップラーメン、そして親が送ってくれていた食料ももう底が尽きそうだ。普通は少なくなっていく食料を見ると焦るのが一般的だろうが、僕の場合はそうではない。正確に言えば、焦るというよりもどうでもいい。食料が少なくなったところで、自分の生活が大きく変化するかと言えばそうでもない。腹が減って、死にそうなくらい腹が減って、腹が減ったという意識が通り過ぎ、最終的には腹を減ったことすらも忘れてしまう。

まあ、食に関してはどうにかなるだろう。

それよりもなぜ今僕がこんな生活をしているかのことの方が重要だ。

僕は現在大学2年生。普通のレベルの高校を卒業して、普通のレベルの私立大学へと入学した。「大学は人生の中で一番楽しいときだ!華の大学生活が始まるぜ!ヤッホー。」こんなことを言っている新大学生がたくさんいると思うが、たまったもんじゃない。世間を見回してみれば、そんな生活を送れない人だってたくさんいる。僕は別に人に興味がないし、恋愛とか別にしなくてよい。サークルとかに入って、無理に周りに意見を合わせたくもない。大学1年生の時はそれでも毎日授業に出席していた。はっきり言って目的意識の全くない授業ばっかりだった。何のためにこんなくだらない授業を受けなければいけないんだ。そう思っていた。そもそもまともに授業の内容を聞いているやつなんて何人いるんだ。ほとんどの人が教授の話よりも、ツイッター・インスタなどのSNSやスマホゲームの方に意識が向いている。正直、「大学卒」というバッジを得られれば、他のことはどうだっていい。GPAとかそんなものどうだっていい。適当にテストを受けて、合格点に達することができれば、「単位」という全大学生が喉から手が出るほど手に入れたい宝物を手にすることができるのだ。

そんな生活を繰り返している中、早くも大学2年になったのだが、ある朝僕はベッドから起き上がることができなくなった。何で大学に通ってるのだろうか?何のやりがいもなく、何の楽しみもない。将来なんの将来にも役に立たなそうな授業ばっかりだし、正直、いい会社に就職することができれば、それ以上はもう何もいらない。もう別に大学に行く必要なんてないんじゃないか。友達なんかもいらない。恋人なんかもいらない。別に1人でも生きていこうと思えばいけるだろう。それに世の中努力しているやつなんて馬鹿をみるんだ。適当に仕事して、適当に人生送った方が圧倒的に楽だ。そもそも努力するから無駄に疲れるのだ。努力なんて報われない。簡単にお金持ちになれる方法があれば、どんな手段であろうと僕はその選択をすぐに選ぶだろう。楽をして何が悪い。要は世の中は金なんだから。これが僕の考え方だ。

まあ、こんなことを考えながら、何日経ったかはわからないが、相変わらず引きこもり生活を続けているのである。ふっ。完全にこんな状況になったのは、僕のこのひねりにひねり過ぎている歪んだ性格のせいだということは僕自身も気づいている。

別に外に出かける理由はないが、1日くらい外に出てみるか。そういえば、近くに「仏生山公園」っていう広い公園があったな。そこにでも行ってみるか。


仏生山公園、そこはこの辺に住んでいる人にとって言わば、「癒しの場所」と言っても過言ではない。流石にこんな昼間なので、若い奴らは1人もいないようだ。定年退職した人とか、子供持ちの主婦とかそんな人が大半を占めている。

君たちはいいな。(君たちというのは、「犬」のことだ。というのもこの公園にいる人の多くは犬の散歩が目的で訪れている。)きっと飼い主に相当愛されて可愛がられているんだろうな。幸せそうで何よりだよ。それに比べて俺は、、、

そう思いながらも、僕は公園のベンチに腰を下ろし、顔を太陽の方に向けながらそっと瞼を閉じた。周りからは犬の散歩で来ている人たちの会話がうっすらと聞こえている。なんだか楽しそうな会話だ。そう思っているうちに、自分の顔が徐々に暖かくなっていくのをしっかりと感じることができた。その暖かさとともに僕の意識はだんだんと薄れていってしまった。


ハッ!なんだ、今の光景は。どうやら僕は夢を見ていたらしい。いや、本当に夢か?怖すぎるくらいリアルだったんだけども、、あの女性は一体誰なんだ、、あっけにとられている間に、夜6時を知らせる町のメロディーが流れ始めた。この音楽を聞いたのはもう何回目だろうか。これを聞くたびに、「また無駄な時間を過ごしてしまった、自分は一体何をしているのだろうか。」そう思わずにはいられなかった。ちょっと寝すぎてしまったようだな。そろそろ帰るとするか、、

ベンチからゆっくりと立ち上がり、来た道を戻ろうとした瞬間、ふと一匹の黒い猫が僕の視界に入った。おそらく捨て猫だろう。なぜかこっちをじーっと見つめ続けてくる。まあ、僕には関係ないことだし、無視して帰るか、、

それは、その猫の横を通り過ぎて間もない瞬間の出来事だった。

なんだろう。まだ視線を感じる。振り返るとその理由がすぐにわかった。その黒い猫は僕の後ろを一定の距離を保ってついて来ていた。

「にゃ〜 にゃ〜」

か弱い声で僕に何かを訴えかけてくる。

やめてくれ、なんでついてくるんだ。

「にゃ〜 にゃ〜」

その声は僕の現在の心を映し出しているかのようでもあった。

そうか、君もきっと孤独なんだろうな。俺も孤独だ。でもな、猫と人間とじゃ訳が違う。君は猫なんだからもっと自由に生きればいいんだ。そんなに悩む必要もないんだ。だから俺についてくるな。

小さな声でそう呟きながら僕は走って、その猫から逃げるように家に帰っていった。

「にゃ〜。」

家に帰ってもその鳴き声が頭から離れなかった。

くそったれ。なんなんだよ!猫なんか、猫なんか、、、






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