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花吐き病の彼女

彼女が、花吐き病を患った。

ピンクの胡蝶蘭を辛そうに吐き出す彼女の背中をゆっくりとさする。
「せんぱい、たすけて、」
花を吐き出す合間に、彼女は懇願する。
「……ごめんね」
彼女の言葉に、俺はそう返した。

花吐き病。
正式名称は嘔吐中枢花被性疾患という病である。
片想いを拗らせると、花を吐き出す様になる。
治療法は未だ見つかっていない。唯一、両想いになると白銀の百合を吐き出して完治する、らしい。

高二の夏。
「わたし、先輩の事が好きなんです」
真夏の屋上で、顔を真っ赤にした彼女は、ありったけの勇気を出して告白してきた。
「俺、君の想いには応えられないよ」
素直にそう思ったので、俺はそう返した。
「それでも良いです。側に居させて貰うだけでも、満足です!」
強い子だなぁ、と言うのが第一印象だった。
「それで、いいなら」
おいで、と両手を広げた。

ただ、一緒に過ごす関係。
同じ時を共有する、仲間。
思ったよりも、居心地が良かった。
他の誰といるよりも。
もうこんな子とは出会えないだろう。
そんな、予感がした。

それからは、彼女のことを毎日見舞った。
花を吐く時は、俺に助けを求めて。
落ち着いている時は、俺への愛を囁く。
その繰り返し。
せんぱい、愛してます。
その言葉に俺はいつもこう応える。
「……ごめんね」
















「ごめんね。俺、まだ君と居たいんだ。君と一緒に、これからを歩みたい」
だから、俺が愛してると応えて、未来に君が離れていく可能性は潰さないと。
君の隣は俺だけのもの。
「……ごめんね、君の全部が大好きだよ」

花吐き病。
両想いになると完治する病。
両(片)想いじゃ、治らない。

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