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「君は気付いてくれるかな」で始まり、「そして眠りにつく」で終わる物語

君は気付いてくれるかな。
クラスの花瓶に花が活けられていること。
今朝はいつもよりほんの少し早起きをした。
誰も居ない静かな教室で、ぬるい水道水に、向日葵の花をひとつ。
席替えで1番前になったことを嘆く君の、世界が少しでも彩やかになるようにと祈りを込めて。

君は気付いてくれるかな。
教室の風が少し爽やかなこと。
今朝はお母さんのドレッサーにあった香水を鞄に忍ばせた。
電気のついていない教室で、逆光で透けるカーテンに、シトラスの香りをほんのひと吹き。
連日の酷暑で茹だっている君の、世界が少しでも涼やかになるようにと祈りを込めて。

君は気付いてくれるかな。
今日の私がいつもと違うこと。
昨晩は少しだけ夜更かしをして全科目分の予習をした。
いつでも貸せるように筆箱の中も確認する、消しゴムもシャー芯も、何度も何度も。
日直だ当てられると騒ぐ君の、世界に少しでも役立てられますようにと祈りを込めて。

ちらほらと登校する生徒の影が見えてきて。
朝練終わりの吹奏楽部と野球部の部員がぞろぞろと現れて。
静かだった教室は俄に賑やかになってきて。
私はそわそわと意味も無く手に持つ文庫本の頁を捲って。捲って。捲って。
そして。
その時が来た。君は来た。

君は今日も完璧だった。
隙なく巻かれた明るいカールへア。
コーラルに色付いた頬に、唇を強調する艶リップ。ヌーディカラーのアイシャドウに細やかで繊細なゴールドのラメ。
マスカラはきっと流行りのインスタグラマーが宣伝していた長持ちカールの新商品。
ため息が出るほど完壁だった。
そんな完璧な君は、君は。

君は気付くはずなんてなかった。
教室の様子なんて目もくれず、自分の席に一直線。
すたすた歩く君の耳には流行りのK-POPが音漏れするイヤホンがあって。
それを無造作に外す指先のネイルはクラスで1番鮮やかで。
君はスマホと一緒に鞄を机にどさっと置いた。

君は気付くはずなんてなかった。
途端に集まるクラスの一軍女子たち。
みんな校則違反なんて気にも留めない量の香水を身に付けていて。
人気のシャボンの香りの集団はクラスで1番涼やかで。
君はあっつい!と叫びながら同じ香りのシートで首筋を拭いた。

君は気付くはずなんてなかった。
派手な集団の横で小さくなって俯く私。
いくら運良く隣の席になれたからって。
いくら同じ日直の当番だからって。
クラスに馴染めず1人読書をする地味な同級生が、君の世界に入り込める余地なんて、最初から少しも無かった。

君は気付くはずなんてなかった。
そんなの最初から分かってた。 
もしも、もしも気付いてくれて、その反応や表情を想像して、そんな自己満足で自分勝手な世界に陶酔する、その行為が楽しかった。
君は気付いてくれるかな。
そうやってわくわくすることが幸せだった。
だからこれで良かった。

予鈴が鳴って散り散りになる生徒たち。
本をしまって教科書を出して、ちらと横目で盗み見ると、欠伸をしている君と目が合った。
「あ!今日の髪型かわいーじゃん」
君は気付くはずなんてなかった。
動画を見ながら頑張ってセットした前髪から覗く君は、寝不足なのだろう、いつも通りそして眠りにつく。

しおりさんには「君は気付いてくれるかな」で始まり、「そして眠りにつく」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり #shindanmaker
shindanmaker.com/801664

https://twitter.com/siori__reality/status/1618252864874508290?s=46&t=mTwfI7IIRXqkFF9Wxc85hg

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