ミシェル・ルグランと英太郎くん

ミシェル・ルグランが亡くなった。フランスの偉大すぎる多作の音楽家。僕らの世代にとってルグランと言えば、まず『ロシュフォールの恋人たち』や『ポリー・マグーお前は誰だ 』など90年代渋谷系時代にリバイバルヒットした60年代のフランス映画に欠かせない音楽家としてファンになった人も多いのだろう。僕にとってのルグランは大好きな歌い手だ。

僕が18歳の時、初めてのフリーペーパーを作った。Smile TVという名のフリーペーパーだ。名古屋の輸入レコード店railで配布し、僕のインディーミュージックへの関わりを深めた初めの一歩だった。一人でつくっていたわけでなく、共同編集者として加藤英太郎くんという歳は一つ上だけど同じ学年の同級生と一緒に始めた。英太郎くんはバイオリンを幼少期から習い、大学へ入りトランペットへ転向した人で、タクシードライバーを見てデニーロに憧れモヒカンにしていた大学でも非常に浮いた存在だった。音楽趣味は全然違っていた。僕はネオアコ上がりのオルタナ/インディーの音楽趣味の狭い人間。一方の英太郎くんは音楽趣味が広く後にラテンやレアグルーヴのDJになっていったりする感じだった。

ある日、英太郎くんの家に遊びに行くと、やっと手に入ったと『Michel Legrand』というアルバムを見せてくれた。ルグランが自身で歌っているものだけ集めたコンピレーションなのだという。しかし目に映るCDジャケットは老けたエルビス・コステロ風のオジサンの写真が載ったお世辞にもお洒落とは言いがたいもの。僕は最初は興味が全然わかなかった。そんなこともお構いなしに英太郎くんがCDを再生いた。今までの流麗な曲を書く音楽家というイメージは覆され、甲高い声で歌われるテンションの高いスキャットに僕の心は一発で鷲づかみにされてしまった。だから僕にとってルグランと言えばまずこのアルバムが思い浮かぶ。今も一番好きなアルバムだったりする。英太郎くんはもう一つXTCの熱狂的なファンでもあり、僕のXTC好きも彼に由来するところが大きいが、それはまた別の機会に。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?