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町が育む音楽。

平日の昼間に仕事に詰まって仕事場の近くにある浜松市楽器博物館に行った。静岡県浜松市は一昨年ユネスコの音楽の創造都市の認定を受けたが、地元民からすると音楽の町という印象は残念ながらない。しかしこの楽器博物館は県外の人に自慢したくなる。歴史的な弦楽器や管楽器の博物館然したものはもちろん圧巻であるが、個人的には電子楽器コーナーの充実が嬉しい。モーグシステム35やヤマハDX7など今の音楽に繋がる定番名機ももちろん良いが、国産初のリズムマシーン「ドンカマチックDA-20」やスピロンという電子アコーディオンの祖先のようなものなどに惹かれる。現役とは言えなくともその機材にしか出せない味わいのあるものに弱いらしい。ちなみに施設内には演奏コーナーも設けられていて、エイトビートくらいしか叩けないくせに電子ドラムを叩くのを密かに楽しみにしていたりする。周りの人に音が聞こえないのが良い。演奏する人が見れば一目瞭然でもごまかしきれてる気になれる。ストレス発散と“サボり”場所にもここは最適だ。こうした気軽に音楽を楽しめる場所が町中にあれば次第に音楽的に豊かな町になるのになとボンヤリと思う。

隣の芝生は青く見えるではないが、ここ1年くらいの福岡の音楽事情が青々しく茂っていて眩しい。前にもこのコラムで少し書いたドリンクバー凡人会議というラジオ番組がある。土曜日深夜4時というお世辞にも聴きやすいとは言えない時間帯にやってる音楽番組なのだけれども音楽関係者にもファンが多い。レコード屋PARKS店主の松尾さんによる鋭い音楽考察とレコード知識、レストランバーSTEREOのオーナーでありDJとしても活躍する渡辺さんによる我が道を行く独自の新旧の音楽探究、そしてメンバーの中では若手の30代の野村さんの張り巡らされた音楽アンテナによる新しい音楽への嗅覚のバランスがとてもよい。元々、松尾さんは90年代渋谷系(と言われるのは嫌がりそうですが)バンドのインスタントシトロンの元メンバー、渡辺さんはusen for Cafe Apres-midiの選曲者の1人でもある。アーティスト単体でなくその人達が影響を受けたと思われたり同感覚を持ったアーティストを並べて紹介し周辺文化も解説できる番組は大変貴重だと思う。

その凡人会議がここ1年くらい音楽制作チームをつくり楽曲提供やプロデュースにも乗り出している。浦郷えりかもその1人。ご当地アイドルなのにモータウン調ポップスで話題を呼んだグループ、世界遺産登録レディーMI6。MI6から選出された2人組デュオ、えりかとあすか名義による「さよならサンセット」は渋谷系以降の90年代ポップスの理想像を描きだした名曲であり、アイドルファンのみならずポップスファンの間でも話題になった。そして満を持してのソロデビューである。片岡知子さんが作詞の曲が入っていることに気づき1人でにやける。長瀬五郎さんは4人目の凡人会議と呼ばれ今作にも参加している。つまり松尾さん、長瀬さん、片岡さんとインスタントシトロンのオリジナルメンバーが久々に全員揃った作品になるわけだ。当時シトロンのファンだった身からするとにやけない方が難しい。リンゴ・スターの作品に元メンバー全員が参加している時のビートルズファンの心境を想像してというと大げさか。今年は松尾さんがデビュー前からライブを企画していた藤原さくらという才能溢れるシンガーソングライターがブレイクを果たした。藤原さくらが福岡インディーシーンの集大成だとすれば、浦郷えりかにもまた福岡インディーの濃いDNAが受け継がれている。そして太陽のようにひたすら明るい人柄とまだ何にも染まっていないその器だからこそキラキラと輝いている。


※この文章はル・プチメックのWebサイトに連載した「片隅の音楽」をアーカイブしたものです。初出:2016年10月

浦郷えりか「RACKET LOVE/CHEERIO!!!」(C.I.T.Y/2016)

凡人会議の音楽制作チームNEW TOWN REVUEが送る福岡発ガールズポップ。デビュー作にはインドネシアのシティポップバンドikkubaru、インスタントシトロン片岡知子らが参加。ジャケット写真は常盤響が担当している。福岡のみならず東京のインディーポップシーンでも早くも注目を集める。音楽だけでなくトークメインのイベントも数多くこなし、端整な容姿からは想像できない強力なキャラクターを持ち合わせ一部にそれも話題に。


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