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お茶をしながらシャーロック・ホームズを囲む会 グラナダTVドラマ『四人の署名』

やってきました!『四人の署名』の放送です!
原作の改変が最も大きいエピソードの一つであり、筆者が個人的に「グラナダ版三大珍場面」に数えているシーンが含まれる回でもあります。

この記事ではNHK・BS放送で再放送中のグラナダテレビ制作「シャーロック・ホームズの冒険」の『四人の署名』に関して正典(原作)との違いや、視聴中に気づいた小ネタなどを語りたいと思います。
正典ファンが個人の目線で、ドラマをもっと楽しく視聴できるようなポイントをご紹介できればと思います。

☆ネタバレ注意☆
正典『四つの署名』、グラナダTV版『四人の署名』、そのほか、放送済みのグラナダTV版エピソードのネタバレが含まれる可能性があります。


お茶の準備

こんにちは、こんばんは。
前回の『空き家の怪事件』視聴前とは打って変わって、テンションが平常に戻った針井です。(『最後の事件』の衝撃で気が動転していた前回はこちら:https://note.com/siptea_readbooks/n/n384fdf41651e)

本日も視聴中にいただくお茶の準備をしていきたいと思います。
この記事をご覧になっている方も、よろしければお好きな飲み物をお手元にご用意ください。
飲み物を用意できる状況にない方は、次の見出しの「グラナダ版『空き家の冒険』」からどうぞ。

筆者の本日のお茶

筆者の本日のお茶は、バシラーティーのホワイトマジックというお茶です。

今日は『四人の署名』に出てくるシーシャのイメージでこれを選びました。
口にふくめばウーロン茶の味わいの中からミルクの香りが漂うこのお茶で、インドの怪しい夜に思いを馳せるのもいいかと思います。

ちなみに、なぜか昔から筆者は登場人物の中でもサディアス・ショルトー氏が好きです。

グラナダTV版『四人の署名』

1.ワトソンと依頼人の距離感


この記事を書こうと考えたきっかけの一つが、原作を知らずにグラナダ版ドラマを見た友人から伝えられた感想でした。
その友人は冒頭を見てすぐに、「なんだこれは」と言ったんです。

グラナダ版『四人の署名』では、エピソードが始まるとメアリー・モースタンという女性が依頼のために221Bを訪れます。
ワトソンが窓からやってくる依頼人を眺めてあれこれとコメントを述べるのはいつものことですが、居間に入ってきたモースタン嬢の後ろで彼女をじっと見つめるワトソンのカットが入ります。もちろん画面のピントはモースタン嬢にあるのですが、確かに背後にいるワトソンの視線が気にになるような……
さらに次のシーンでは、彼女が座るソファの背もたれに腕を置いたワトソンがモースタン嬢の方へ身を乗り出すようにして、それもほぼ彼女に腕が当たっているんじゃないだろうかというぐらいの距離にいるんです。
人物を画面内に収めなくてはいけないという都合があったとしても、これでは初対面の依頼人との距離が近すぎて視聴者が違和感を覚えてしまう、というのが知人の指摘でした。

筆者はメアリーと結婚するワトソンというものを見慣れすぎてなんの違和感も感じていなかったのですが、確かに初対面の女性に対する距離ではないかもしれません。

思い返してみれば、ワトソンはこれまでのエピソードにおいて確かに依頼人と一定の距離を保っていました。
『第二の血痕』で221Bを訪れたホープ夫人にも同情的な反応をしていましたが、特別彼女の近くに寄るということもなく。『美しき自転車』のヴァイオレット嬢にも、ワトソンは推理のために手を確認する時ぐらいしか近づいていませんね。

一方でメアリー・モースタンに対しては、ワトソンは長く視線を送ってみたり、ソファで彼女の真横に座って妙に熱心に話を聞いてみたり、モースタン嬢がソファから立ち上がると後を追いかけて、すぐ横の位置をキープしていたりします。さらには、去っていくモースタン嬢を再度窓から眺めて、笑いかけ、言ったセリフが『What a very attractive woman.(なんて魅力的なひとなんだ)』 
以上のことから、前述の友人からは「女好きでもこの反応はちょっと気持ち悪くないか」とのコメントをいただきました。

原作の『四つの署名』では、事件解決後にワトソンとメアリー・モースタンが結婚します。(注1)

そのため筆者としては、エピソードの最後で馬車に乗るモースタン嬢を名残惜し気に見つめるワトソンも含めて、「二人が結婚する原作の名残だなぁ」と思えて面白かったのですが...
皆様はどう思われたでしょうか。

注1)『四つの署名』では、前半からワトソンが美しいモースタン嬢に心惹かれている描写があるものの(第二章の最後など)、作中であまり二人の交流は描写されません。
そのため、物語の最後になって唐突に恋仲になり結婚している印象を受けます。シャーロック・ホームズシリーズがヴィクトリア朝時代の物語であることを考慮すると、当たり前なのかもしれません。これが急に距離の近いワトソンとメアリーを見てもあまり違和感がなかった理由の一つのような気がします。

2.グラナダ版三大珍場面の一つ(※個人調べ)


冒頭でも触れましたが、このエピソードには筆者が個人的に「グラナダ版三大珍場面」としているシーンがあります。
それがドラマの最後、事件を解決したホームズとワトソンが221Bで話をしている場面です。

ワトソンが結婚しないため、ここでホームズが言う有名なセリフ『'For me, (中略)there still remains the cocaine bottle.’(僕にはコカインの瓶がある)』(注2)は『For me, the pleasure of having solved an interesting case almost single-handed, and… (後略)(僕には、興味深い事件をほとんど自分一人の手で解決した喜びがある。それに…)』に変更されています。

さらに、この改変によりワトソンはモースタン嬢について『What a very attractive woman.(なんて魅力的な女性だ)』と冒頭と同じセリフをもう一度呟くのです。
それに対して、返すホームズの言葉がこちら。
『Was she? I hadn't noticed…(そうだったかい?気付かなかったよ)』
そう言いながらいながら、けだるげにベッドに横になります。

そして、なんということでしょう!

ホームズが寝転ぶベッドの横に置いてある船の模型が、どう見てもワトソンのなんですよね……
『入院患者』のエピソードなどでワトソンの寝室を確認していただくとわかりやすいかと思います。ワトソンのベッド脇にあるつくりかけの模型です。
ホームズに模型製作の趣味はないはずですし、ワトソンが自室に置いていたものがなぜホームズの部屋にあるのか?ワトソンからもらったのか?
小道具ひとつの考証にも拘っているとされるこのドラマですから、なぜワトソンの船の模型をわざわざホームズの部屋に置いたのかが非常に気になります。

以前からネット上では「そもそもここはワトソンの寝室では?」「ワトソンのベッドではないか?」との意見を目にしましたが、居間から直結している部屋であること、グラナダ版『修道院屋敷』で映るワトソンのベッドとはベッドヘッドの形が異なること、などからこの説はないと思います。

もしこの船の模型の意味をご存知の方がいらっしゃいましたら、針井までお知らせください。

以上、『四人の署名』中で一番不思議な「急にホームズの寝室に登場するワトソンの模型」でした。
ちなみにそのほかのグラナダ版三大珍場面は、「『犯人は二人』でのワトソンの謎のセリフ」「『悪魔の足』の名シーン」です。どちらもまだ放送されていないエピソードのため、放送時にまた語りたいと思っています。

注2)Conan Doyle, A. “The Sign of the Four”, in A Study in Scarlet & The Sign of the Four. Pan Macmillan, London, 2016, p.317.

それでは、短くなりますが本日はここでお別れです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。

良いシャーロック・ホームズライフをお過ごしください。

針衣

☆以上で取り上げたドラマの台詞・本からの引用で日本語訳がなされている場合は、筆者の自訳になります。


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