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キネマ旬報臨時増刊 海外TVドラマファイル 2006夏 シックス・フィート・アンダー

2005年、全米HBOは『シックス・フィート・アンダー』の5シーズン全6話の放映を終了した。 日本では現在第2シーズンの放映が終了したばかり。従ってこの極めてハイレベルなドラマのやっと3分の1を見た時点で、すべてを語ることは出来ないのだけれど、毎回毎回、心の底から揺り動かされるような衝動を覚えることをいったいどう言えばいいのか。
「アメリカン・ビューティ」でアカデミー賞脚本賞を獲得したアラン・ボールによって産み出されたこのドラマは、 ロス郊外で葬儀社を営む一家が主人公。 幕開けは一家の大黒柱ナサニエルが、空港に息子を迎えに行く途中、 交通事故で急死する場面である。葬式を生業とするこの一家にとって "死"は日常茶飯事だが、さすがに主軸を失った家族は、形骸を残しつつ一瞬にして砕け散る。
第1シーズンはその四方八方に飛び散った断片が、おずおずとうわべを取り繕いながら集まってくる序章、といったところか。
圧倒的高い評価を受けた第1シーズンに続いての第2シーズンは、視点を周辺に拡散させながら、再びじわじわと核心を炙り出す様相を示している。 ゲイであるアラン・ボールの視点が女に向かうのは皮肉なのか、必然なのか?
50代、30代、10代の母、ルース(フランセス・コンロイ)、恋人ブレンダ (レイチェル・グリフィス)、娘クレア(ローレン・アンブローズ)の“3人の女”の対比がより明確だ。伴侶を失い子育ても終え、拠り所を失って迷走するルース。ネイト(ピーター・クラウス)という最愛の人を得ながら、焦燥に駆られ暴走する性衝動を抑えられないブレンダ。 将来への不安を抱え、自己を探りもがくクレア。 激しく反感を覚えながら共感せざるを得ないのはアラン・ボールの手中に落ちたからなのか。 フランセス・コンロイとレイチェル・グリフィスの二人はゴールデン・グローブ賞受賞も当然の演技巧者ぶり。 新たに登場するルースの妹サラ(パトリシア・クラークソン)、ネイトの女友達リサ (リリー・テイラー)、ブレンダの母マーガレット(ジョアンナ・キャシディ)らが、3人の女に光と影を与える。 彼女たちに比べると長男ネイトはなんと平凡で誠実で、次男デイヴィッド(マイケル・C・ホール)はなんと純粋に恋人キース(マシュー・セント・パトリック)に愛を求め、エンバーミング(死体処理)の達人である従業員フェデリコ(フレディ・ロドリゲス)はなんと家族のために仕事に励むことか。とはいえ第1シーズンの終わりに発覚したネイトの脳の病は、確実に彼を死に至らしめようとする。葬儀社の日常業務として死に日々接するネイトは、ヒンズー、モルモン、ユダヤ、仏教などの葬儀を執り行いながら、 かつて関係したリサの妊娠に対峙し、図らずも自らが関与した無数の生と死に向き合う。
『サウスパーク』が好きだと語るアラン・ボールだが、このドラマにもやはり共通な残酷でシニカルな笑いが付きまとう。決して心地良くはないけれど、心の底のどこかに持っている衝動を、このドラマは叶えてくれる。
サバービア (大都市の郊外に住むライフスタイル)に潜む鬱屈した精神の発散。平凡で取るに足らない人生だけど、大声で叫びたいのだ。自分はここで生きていると。葬式とは壮大な生のフィナーレ。いかに死ぬか、は、いかに生きるかに繋がる。
トーマス・ニューマンのテーマ曲にマッチしたオープニングタイトルが素晴らしい。 Digital Kitchenによるこのタイトルシークエンスは、2002年エミー賞最優秀メインタイトルデザイン賞を受賞した。 美しき死体、陽光降り注ぐ墓石、一瞬にして朽ち果てる白い花、静観し飛翔する黒いカラス、大きな木の下6フィートに浮かんで消えるタイトルロゴ。毎回描かれるさまざまな死が幕開けとなって、約60分のチャプターが綴られる。
監督として名を連ねるのは「ハイ・アート」のリサ・チョロデンコ、「グッド・ガール」のミゲル・アルテタ、 「Go fish」のローズ・トローシュ、「彼女を見ればわかること」のロドリゴ・ガルシアなど、アメリカン・インディーズの俊英たち。日本の視聴者はまだ長編小説の第2部まで見終えたばかり。 この先に何が待ち構えているにしても、死という結末に向かう人生のドラマを見届けるまでは、絶対に死ねない。

SIX FEET UNDER
●製作総指揮: アラン・ボール、 アラン・プール 監督/ダニエル・アティアスほか 脚本/アラン・ボールほか
●出演/ピーター・クラウス、マイケル・C・ホール、レイチェル・グリフィス、フランセス・コンロイ、
ローレン・アンブローズ、フレディ・ロドリゲス、 マシュー・セント・パトリック、リチャード・ジェンキンス
●アメリカでの放送/第1シーズン:2001年6月3日~8月19日 第2シーズン 2002年3月3日~6月2日 第3シーズン:2003年3月2日~6月1日 第4シーズン: 2004年6月13日~9月12日 第5シーズン: 2005年6月6日~8月21日

キネマ旬報臨時増刊 2006年7月10日号  海外TVドラマファイル 2006夏
発行:(株)キネマ旬報社
http://www.superdramatv.com/line/six_feet_under/index.html
付記:この原稿を書いた時、最終話まで見ていなかった本作だが、主な登場人物の人生の結末が終結したドラマ史上に残る素晴らしい最終回をみてこそ、このドラマの真髄を語る資格があるのかも。改めて第1話から見直したい!(時間がないけど)

DVD 日本未発売
2024年2月現在、U-NEXTにて配信中

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