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灼熱・東京家出日記


金曜から土曜へと、日付が変わる頃でした


私は一人、自宅マンションから駅に向かって足早に歩いていました


この状況を二文字で言い現わすことのできる便利な言葉があります


「家出」

理由はくだらなさすぎて明記しませんが、私は怒る彼氏を残して突然家出をしたのである


薄手のカットソーにスカートにハイヒールという仕事から帰った服装のままでした。手には仕事用の鞄が1つだけ。その中には、財布と携帯と化粧ポーチと鞄の底でぐっちゃぐちゃになった磯丸水産のレシートと駅前でもらったポケットティッシュくらいしか入っていません


完全にノープランで家を飛び出した私は、とりあえず隣駅に移動するために電車に乗りました


まずは家出の拠点となる宿を確保したい


隣駅に降り立ち、すぐに駅前のアパホテルにて空室を確認するも満室で断られる


私は「アパ!」とアパのCMと全く同じ声色で叫びながら制止を振り払い無理やりチェックインしようかと思いましたがそんなことをしたら拘置所にチェックインすることになるので泣く泣くあきらめました


仕方がないのでスマホで別の宿を探します。週末なのでどこもバカ高。ちょっとしたテレビくらいなら買えるレベルの高さです


どうしようかなぁ、とあてもなく歩いていると、ひとつの看板が目に入りました


『女性専用カプセルホテル』


その看板を見つけた瞬間、恋の始まりみたいな感じで頭の中に「Tomorrow Never Knows/Mr.children (1997) 」のイントロが流れたよね


私は考える間も無く入店し、空室ありとのことだったので受付にて無事にチェックインの手続きを済ませました


そんでこのカプセルホテルが驚くほど快適で、綺麗で清潔感のある個室のシャワールーム(シャンプーやコンディショナーもある)、ドライヤーやティッシュなど必要なものが整った洗面台、しっかりとした部屋着やアメニティ、貴重品管理のためのロッカー完備など…「突然家出したけどアパホテルに断られた人用のやつなのかな?」と思うほどにすべてが整っていた


またカプセル部分(寝る空間)がめちゃくちゃに広い。頭上に充電器をさせるようになっていたり、照明の微調整も可能で快適に過ごせるような工夫がすごく感じられた


なんかもう、私ここで暮らそうかな? 


そう思った時である


『…ズンチャ ズンチャ ズンチャ Fuuuuuu!!!!Yeah――――!!!!!』


下の階で外人がめちゃくちゃ盛り上がってる


下の階で外人がバイブスをブチ上げてる音がめちゃくちゃ聞こえてくる


私の泊まったカプセルホテルは扉が薄いロールカーテン式で、どうしても遮音性が弱いのです。だから自分のカプセルの前を人が通るときにガンガンに足音聞こえるし、隣のブースの寝返りの音とかも全然聞こえる


私自身としては、実家時代に姉と同部屋だったときに「姉がRADWIMPSを爆音で流している明るい部屋で快眠できる」という特殊技能を身につけているため全然寝られるのですが、私自身の発した音で誰かを起こしてしまうのでは……という緊張で全然寝付けない


やばい、これはもう―――


「究極に眠くなるまで飲む」という選択肢しかない―――


ということで私は「いつ声をかけてもだいたい来る」でお馴染みのチョロい友人に連絡をすると「え、今近くで飲んでるからそっち行くよ!」とチョロみある返事をくれた


そして朝4時まで友人と飲みました


その時の感情を歌詞にしました


本当にKANSYAしかないけど 私のスマホに入っている全部のアプリを起動されるのがすごい嫌だった でも基本はKANSYAしかない でも私が欲していない酒を 全部濃い目で勝手に頼まれるのがすごい嫌だったけど  基本的にはKANSYAしかない (Wow…)


(本当に感謝しています)


そして朝方、友人は爽やかにタクシーで帰っていった


フットワーク、軽石くらい軽い


私も極限のベロベロだったのですぐにカプセルホテルに戻り、眠りに落ちました



朝―――


洗面台を占拠する外人のみなさんをかいくぐりカプセルホテルをチェックアウトした私には、行くアテがあった


実家である


私は東京生まれ東京育ち メンタルが弱そうな奴はだいたい友達 なのでいつでも帰れる距離に実家がある

ではなぜカプセルホテルに泊まったのか? 頭のいいみなさんはそう思うだろう

実は私はお父さんとお母さんを絶対に心配させたくない「ザ・親想いファイターズ(市民球団)」のエース投手なので絶対に親を悲しませたくないのだ

だから家出したなんていう平和な実家の空気感を壊すようなことは絶対にばらさずに穏やかな時間を過ごしたいのです


しかしこの「家出をバラさない」という一見簡単な条件をかなえるためには、超えるハードルが3つほどあることに気づきました


① コンタクトレンズがない

私は死ぬほど目が悪い。いつもコンタクトをしていますが、それを取るとすべてが「片岡鶴太郎が描く牡丹の絵」くらいぼんやりしてしまう

コンタクトはこの前日いつもの癖で捨ててしまって「ヤッベ!」となっておりホテルを出たとたん「すごい霧…!?」となったのですが目が悪いだけだった

目が見えないことには何もできないしどうしても目つきが悪くなるのでこんな目つきで帰宅したあかつきにはお母さんが「娘が反抗的な目つきを…!」とショックを受けて寝込んでしまいます

手元には眼鏡もありません

眼鏡もねえ、コンタクトもねえ、そもそも視力がグッズグズ と私の中の吉幾三がすごい煽ってくる

架空の幾三に苛立ちを覚えつつ、一番近くのコンタクトレンズ屋さんを調べると今いる隣の駅に即日購入できるお店があるようでした(通常、処方箋などを求められることが多い)。

炎天下の中、店にたどり着くとなんと定休日

ブチ切れながら別の店舗を探し出し、ようやくコンタクトを購入しました

視力が戻ったときの感動を忘れられない ヘレンケラーがWaterってはじめて言った時もこのくらい感動したんだろうと思います

これはごめんなさい


② 眉毛と肌質

化粧ポーチの中を見ると、メイク直しのために必要な最低限のコスメしか入っていない。肝心の眉毛を書くやつと肌質をアレするやつがない

一旦、最低限のメイク道具でメイクをしてみたものの明らかに肌質がアラサーのそれだし、眉毛がないのでもうドンキホーテ駐在のヤンキーです

あとね、スッピンの私の顔って明らかな「面」なんですよね

私の顔ね、明らかな「面」なのよ(二回言う)

こんな顔をお父さんに見られたら「顔が『面』すぎる、これはうちの娘じゃない」と顔が「面」すぎて入室を拒否される可能性があります

というわけでドラッグストアに行き、眉毛と肌質をちゃんとするアレを購入しました

この日、どっかで花火大会があるかなんかで駅のトイレは浴衣を着たカワイイ女子たちであふれかえっていました。家出した翌朝に顔が「面」だからメイクを直している女は私だけだったのだろうと思います


③ 服装

仕事終わりでそのまま家を出てしまったため、私は完全に「花金のOLの服装」でした

いくら眉毛と肌質と視力をどうにかしたところで、これでは聡明なお母さんに「どうして土曜なのに花金のOLの服装なの? もしかして…昨日0時ちょうどくらいにその服装のまま家を飛び出してカプセルホテルに泊まったんじゃない…?」と完全に見破られてしまう…

そこで私はみんなの味方・UNIQLOで下着と洋服を買い、ショッピングモール内のトイレでカジュアルな服装に着替えをしました

トイレ近くの店舗の店員さんは「あの人、トイレに入った時と出てくる時で服が違うけど排便の時に服が変わるシステムなのかな!?」と困惑したことだろうと思います

店員さんを戸惑わせてしまったのは申し訳ないですが、これで全ての準備が整った…


準備が整い「実家に帰るね」と親に連絡をすると「待ってるよ~(カワイイ絵文字)」という返事をくれました。最寄駅までお父さんが車で迎えに来てくれて、お母さんが昼ごはんにお寿司とお蕎麦を用意してくれていて、たまたま甥っ子も実家にいてウルトラ可愛くて、太ってる猫と痩せてる猫が1匹ずついて、もうなんか実家最高…この世に生んでくれてありがとう…ただ1つのHOME…と思っていました


また、最近姉が実家近くに家を建てたらしいのでその新居を見に行き「広い!!!!」と叫びながら広さを生かして反復横跳びをしていたところそれを見ていた姉も「それ私もやりたい!!!」と言って2人で反復横跳びをするなど幸せなひと時を過ごしました(※アラサー2人)


リビングのソファでアイスを食べてだらだらしていると、母が言いました

母「今日は彼くんは?」

私「エーット…仕事してるよ」

母「家で?」

私「う、うん」

母「いっつも大変ねえ」


うちのお母さんはミラクル優しいのでこの場にいない彼にも常に気配りを見せてくれます

私と喧嘩しているなどとは到底思っていないでしょう

そんな図ったようなタイミングで、彼から連絡がきました


(大丈夫?)ってなんだろう? 

(大丈夫?)はコーラス隊のパートか?

そうツッコミを入れざるをえない連絡でしたが、丸1日連絡もなく帰っても来ないのでさすがに焦ったのでしょう

そんな連絡を見て私も少しだけ心の余裕を取り戻し「実家にいます」とだけ返事をしました

どちらにしろ、このまま実家にいることはできない


ご飯を食べたら家に戻ろう… そして、冷静に話し合って仲直りをしよう…


このときの私はそう思っていた


このあと、信じられないことが起こるとも知らずに


快適さを惜しみつつ実家を出て、どきどきしながら自宅のドアノブに手をかける


どんな顔して会えばいいんだろう


私が悪かったよなあ、明らかに…

「メンゴメンゴ! ちょっくら自分探しにインドまで行ってたわ!」というひょうきんパターンでいくか

「いや本当すみませんでした来世まで奴隷として仕えるので許してください(土下座)」と完全奴隷宣言をするか


色々な可能性で頭を巡らせていた


ついにドアノブに手をかける――――


「ガンッ!!!!」


あっ


チェーンかかってる


??????????


おかしくない?


おかしくない、みんな?!


みんなー!!!



チェーンかかってるよー!!!!


おかしくなーーーーーい????


ヤッホー!!!!


ヤッホー!


ヤッホー…


ホー…


私の突然のやまびこも空しく響きわたり、自宅のドアにチェーンがかかっていて開かないという事件が発生したことを悟った


一度許したフリをして私を実家からおびき寄せたが、実は彼氏はまだ私のことを許していなかったということか…


血も涙もない


私は22時になっても35℃あるとかいうクソ暑い東京でサバイブしていくしかないというのか


決意を固め、再びマンションを出た


かつてTRFが言ってたサバイバル・ダンスってこのことだったのかな


「No,no cry more 泣かない思い出作ったら?」とはよく言ったもんだよTK…


完全にcryしそうになりながらも私は持ち前の「友人がめちゃ多い」という能力を生かしてLINEを送った


すると


「思い出横丁で飲んでるからおいでよ!」


と言ってくれる友人が現れた


新宿まで急行する私


思い出横丁を知らない心の綺麗な方に説明すると思い出横丁とは新宿の中でも1,2を争うアレな飲み屋街で、なんかもう基本、煙。煙、かつ狭(せま)み。かつ、急な階段。そして煙。みたいなところです(雑)

そんな思い出横丁の飲み屋で、友人と、友人の友人と、友人の友人の友人が待っていた


友人以外は初対面でしたが、着いた瞬間「あー、家出の!」みたいな感じで迎え入れてくれてめちゃくちゃにいい人たちだった


「みんなで今日ケチャを踊りに行っていた」という嘘みたいな行動パターンだった


そのお店が0時くらいで閉店してしまうとのことだったので「これからどうするの?」と、みんな心配してくれて、全員終電がまだある時間だったにもかかわらず1人のメンバーが「いいところを知っているからそこに行こう」と、全員で歌舞伎町に向かった


歌舞伎町というのは毎晩誰かしらが殺されておりそこにいる全員がシャブをやっていることで知られている町(すべて偏見です)


ガタガタ震えながら進んでいくと、「黄泉?」ってくらいギラギラした店に到着した



あの世?


暑さで私死んだ? 


歌舞伎町の入り口で最初に殺されるモブ私だった?


と思ったけどちゃんとハイボールは美味しかった


私は生きていた


普段は数百人が収容できるであろうこの空間のソファ席を贅沢に使い、なんかもう人ん家にいるみたいなダラけっぷりで酒を飲みながらゲラゲラ笑って深夜2時まですごした


その時、私の携帯が鳴った


彼氏からである


私は店の端っこに移動し、友人たちに「ガンバ!」と遠くからエールを送られながら、1時間ほど電話で彼氏と話し合った


バックミュージックとして、ハナミズキのジャズverかなんかのしっとりしたやつが奏でられていた


最終的には冷静に話をし「今すぐに帰って来なさい」と言われる


みんなに状況を報告し、残っている酒を飲み干し、深夜3時、友人らにお礼を言って私はタクシーで帰路についた


自宅に着くと、しっかりと扉は開いた。チェーンは外れていた


2日ぶりの自宅…


出張して2日家を空ける時とはまるで「久しぶり感」が違うから不思議だった


そこから、久々に会った彼と話し合いをし、きちんと「ごめん」と言い、無事に和解をした


そして今は平穏な日々を取り戻し、noteを更新しています


色々と大変なことはあったし「家出するとかクソ面倒な女だな」と思う人もいるかもしれないけれども、私は実は今回家出をしてよかったと思っている


実家のありがたみ、友人たちのやさしさ、家がなくても意外と生きていけるかもしれないと思わせる世間の便利さ、東京という街の雑さ


そして望んでいたはずの「彼と離れる」ということが、すごく不安なことだと気付けたこと


今回の経験でそんな様々な感情が一気に押し寄せてきて、感受性がビンビンに過敏になり、なんかもう最終的に「あ、人生たのし」となってしまった


ただ、これから家出をお考えのみなさんは、少しお待ちください


最後にひとつだけ言いたいことがあります


真夏の家出は危険です


家出するなら春か秋にしたほうがいいです


以上


≪本日の一曲≫ ゆらゆら帝国で考え中 / ゆらゆら帝国


ありがとうイン・ザ・スカイ