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ヘルヴァボスのオジーとフィズの関係性の元ネタ集め

※インターネットで調べられることを個人的に一覧としてまとめる目的で書いているので、実質Wikipediaのコピペだろ、って言われたら反論出来ません。考察とも言えない感想付き。

最近沼に沼っているのがヘルヴァボス。YouTubeで全話無料で見られるR-15ミュージカルアニメ作品。
キリスト教義的地獄が舞台で、メインキャラが全員悪魔。

私は夢女子で、基本的にキャラ単体を好きになるか作品全体の世界観設定を好きになるかが多いのだが、久々に推しカプが出来た。それも公式カプである。
それがオジーとフィズ。色欲の大罪アスモデウスと小悪魔インプの道化師フィッザローリー。

今まで天使だの悪魔だの、厨二が絶対楽しいだろうコンテンツにハマったことなかったので、七つの大罪とか罪の名前はわかるけど対応悪魔とか全然わかってなかった。
しいて言うならフォロワーが一番好きなのが色欲のアスモデウスだったな、くらいの認知。

こういう時に一番最初にお世話になるだろうWikipedia。
アスモデウスの項をふむふむわからんと読んできた時、ちょっと気になる記述を発見。

サン・ローランの定期市で1713年に初演された無言劇『目に見えないアルルカン』(Arlequin invisible, 一幕劇)は『跛の悪魔』の続編でもある。この劇でのアスモデはアルルカンに尽くす存在であり、アルルカンの頼みを受け帽子に羽根を付けることで彼を透明にする魔術を使う。羽根つき帽子の着脱により可視化と不可視化を切り替えられるようになったアルルカンが、北京の王宮を自由自在に行動する。

Wikipedia「アスモデウス#劇」

アルルカンに尽くす存在……じゃあそのアルルカンって何よ??

アルレッキーノ (Arlecchino) はイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテ中のキャラクターの一つで、トリックスター。ひし形の模様のついた衣裳で全身を包み、ずる賢く、人気者として登場することが多い。
国によっては、アルルカン(仏: Arlequin)、ハーレクイン(英: Harlequin)とも呼ばれる。欧米では道化役者の代名詞となっており、芸術作品の中では、ピカソの『アルルカン』、チャップリンの『ライムライト』、ロベルト・ベニーニの映画『ピノッキオ』のマリオネット、アンデルセンの短編小説集『絵のない絵本』の第十六夜、ブゾーニのオペラ『アルレッキーノ』などに登場する。

Wikipedia「アルレッキーノ」

……欧米では道化役者の代名詞。ふーむじゃあフィズってことかい??

外国語なんてさっぱりなので、実際にどれくらい一般的に使われているのかはわからない。
でもヘルヴァボス作中で使われているのはClownとJesterだ。

クラウンとジェスターとアルルカンの違いって何??

そう思ってざっくり調べたところ、

  • クラウン:サーカスにおいて曲芸と曲芸の間を埋める、曲芸と司会を行う役者。18世紀では曲馬ショーの間を埋める役割だった。

  • ジェスター:宮廷道化師。王侯に雇われた道化師。曲芸よりもジョークや風刺がメイン

  • アルルカン:18世紀の演劇(無言劇)に出てくる、軽業師。道化的側面を持ち、派手でアクロバティックな演技が特徴。基本的に喋らない

なるほど。そう言えばフィズが昔居たサーカスは馬しか居なかったような。

こうして並べてみると、フィズは全部の要素を兼ね備えているように思う。
サーカスでのクラウンもやってたし、オジーに雇われているという点でジェスターも正しい。それに、アルルカンのような、アクロバティックな演出もショーではやっている。舞台上の道化師という意味ではアルルカンの方が近いのか。

ちなみに、日本では道化師のことをピエロと呼ぶが、本来だとアルルカンと同じく演劇上に出てくる役柄の一つで、召使役(巧妙で策略家)だそう。
それが段々とアルルカンの役どころ(滑稽で愚か者)を乗っ取っていく形で広まっていったそうな。

では、何故日本でピエロとクラウン(サーカスの道化師)が混同されて広まっているかと言うと、原因は北原白秋の詩集と、フランス映画らしい。

北原白秋の詩集「思い出」にてピエロという言葉とビジュアルが登場し、そこから詩人たちによってピエロのイメージ(悲しげな表情だとか白い衣装だとか)が言葉と結びついて広まった。
あとちんどん屋のことを「街のピエロ」と呼んでいたそう。まだこの頃はサーカスと道化師は結びついていない。

そこから、1925年に日本で公開されたフランス映画「嘆きのピエロ(原題:La Galerie des Monstres、直訳では怪物たちの展示場)」がヒットしたことにより、本来はクラウンと呼ぶべきサーカスの道化師を、ピエロと呼ぶことが結びついた、らしい。

以上の日本の道化文化史については大島幹雄著「日本の道化師 ピエロとクラウンの文化史」を参考にしたので気になる方は読んでみてほしい。

では話を戻して、文学作品でのアスモデウス。

「目に見えないアルルカン(Arlequin invisible)」はアラン=ルネ・ルサージュというフランスの劇作家・小説家が書いた戯曲。
「跛の悪魔」(あしなえ=足を引きずっていること)は、スペインの劇作家・小説家であるベレス・デ・ゲハラの書いた同名の風刺小説を元にしてルサージュが書いた小説。ルサージュはスペイン語翻訳家でもあった。

この小説では山羊の脚を持ち、二本の棒で体を支えている悪魔としてアスモデウスは描写される。(故に英語でのタイトルは「The Devil on Two Sticks(二本の棒の上の悪魔)」)
瓶に閉じ込められていた悪魔アスモデウスをある学生が取り出して救い、アスモデウスはお礼に悪戯に協力する、というのが両方に共通するあらすじ。

この二つはアーカイブが公開されているのでスペイン語とフランス語がイケる人はリンク貼っておくのでどうぞ。私は英語すら無理。

ベレス・デ・ゲハラの「El diablo cojuelo」→Project Gutenberg →Internet archive
ルサージュの「Le Diable boiteux」→Project Gutenberg →Gallica
英訳「The Devil on Two Sticks」→Project Gutenberg

またルサージュの「跛の悪魔」は、邦題「悪魔アスモデ」として日本語訳があるので、近くに大きな図書館があればそこで紙を、もしくは国会図書館に直接行けるのであればデジタルで読める。
念の為国会図書館サーチのリンクを貼っておくので、読みたい方は行ける場所に取り扱いがあるか確認してほしい。

全部同じ本だと思うのだが、なんか別扱いされている。

この「跛の悪魔」の続編として書かれたのが「目に見えないアルルカン」という無言劇。
小説の方どう見てもアルルカン関係なさそうなのに続編なのか……
ルサージュはアルルカンが主体となる劇をたくさん書いている。そのうちのひとつがこれなのだが、まあ日本語翻訳はない。
こちらも原語版がアーカイブとして公開されてるのでリンク置いておく。
Gallica

これさらっとリンク置いておくとか言ってるけど探すのめちゃくちゃ大変だったんだからな!!!!原題の「Arlequin invisble」で検索してもろくに出ないし!!!!Wikipediaにページすらないし!!!!!書籍すら売ってないし!!!!フランス語わかんないし!!!!
Gallicaでアラン=ルネ・ルサージュ検索して出てきたアーカイブ片っ端から開いて探したので執念の勝ちです。まあヒントはあったんですけど。

2024/04/06追記
HathiTrustというサイトに鮮明なものがありましたので置いておきます。#101(P63)
これも執念です。

フランス語読めないので後々Google先生に泣きつく予定だが、ひとまず簡単なあらすじだけさらっておく。

奥香織著「ルサージュ初期作品にみるアルルカンの表象」という論文がインターネット上にPDFで公開されている。恐らくこれだけが「目に見えないアルルカン」について日本語で説明した無料で読める論文だと思われる。

そちらを参考にあらすじをまとめると、

中国の北京の王宮にいるアルルカンとアスモデ。アルルカンはアスモデに、王のお気に入りの女性を見てみたいから、自分の姿が見えないようにしてほしいと頼み、アスモデはアルルカンの帽子に羽根をつけることで彼を見えないようにする。この帽子の着脱によって存在の有無を切り替える。
アルルカンは王のお気に入りの女性が恋人と会っているところにお邪魔し、食べ物やお酒をこっそり頂いたり悪戯をする。

というかんじらしい。劇中でのアスモデのことほとんどわかんないな。あとアルルカンめっちゃ食べる。

余談なのだが、少なくともこの論文に取り上げられているルサージュの作品でのアルルカン、さらっと女装するし登場人物をメロメロにしてるので面白い。Look at This で見たな。そういうこと??

とまあ色々と調べてみたが、これをほんとに元ネタとして下敷きにされてるのか、と言われるとすごく微妙だと思う。元ネタだったら嬉しいな、と現時点では結論付けておく。
だって大元の作品の内容がわからないので。内容がちゃんとわかったらまた考えよう。

ちなみに。アスモデウスの劇の項目の最後の一文に「1938年、フランソワ・モーリアックは戯曲『アスモデ』を書いている。」とある。これは翻訳されているし国会図書館で読めるのだが(→こちら)、全然アスモデウスそのものは出てこない。比喩表現みたいなかんじだった。

まずは「悪魔アスモデ」を読んでみようかな。
今気づいたのだけど、オジーも山羊っぽい脚してるよな。ちゃんと歩けているけど。


と、ここで終わっちゃおうかと思ったんですが。もう一つ気になることが。

アルルカンのWikipediaの項目で、英語では「ハーレクイン(Harlequin)」と書かれている。

待ってくれこれ見覚えある。

アスモデウス他ざっくりと悪魔について調べようと思って読んでいた、ローズマリー・エレン・グィリー著「悪魔と悪魔学の事典」で見た。

ヨーロッパの民間伝承ではゴブリン(小鬼)の姿をとり、その名前はサタンすなわち魔王と同じ意味になることもある。
ハーレクィンの語源は不明であり、アールクィン、ハーレキン、ハイアーレキン、ヘレクィン、ヘネキン、ヘレキンなど、様々な書き方がある。ハーラケンは魔王と鬼火の名前に使われる。アルリカンはフランスの民間伝承で小悪魔インプといたずらっ子の両方を表す。ヘネキンはときに夢魔インキュバスと関わり、夜に十字路で踊る。

ローズマリー・エレン・グィリー著「悪魔と悪魔学の事典」ハーレクィンの項

は????小悪魔インプつった????

多分アルリカンはアルルカンの表記ゆれだと思うのだけど、待って予想外のところに着地したんだが????そっち????

小悪魔インプがサーカスやってる元ネタここなの??

じゃあそっちの方面にもアプローチ掛けてみよう。

英語版Wikipedia「Harlequin」に、名前の由来についての項目を見つけた。

The name Harlequin is taken from that of a mischievous "devil" or "demon" character in popular French Passion Plays. It originates with an Old French term herlequin, hellequin, first attested in the 11th century, by the chronicler Orderic Vitalis, who recounts a story of a monk who was pursued by a troop of demons when wandering on the coast of Normandy (France) at night. These demons were led by a masked, club-wielding giant and they were known as familia herlequin (var. familia herlethingi). This medieval French version of the Germanic Wild Hunt, Mesnée d'Hellequin, has been connected to the English figure of Herla cyning ("host-king"; German: Erlkönig). Hellequin was depicted as a black-faced emissary of the devil, roaming the countryside with a group of demons chasing the damned souls of evil people to Hell. The physical appearance of Hellequin offers an explanation for the traditional colours of Harlequin's red-and-black mask.The name's origin could also be traced to a knight from the 9th century, Hellequin of Boulogne, who died fighting the Normans and originated a legend of devils.

Harlequin#Origin_of_the_name

Google先生に訳してもらうと、

ハーレクインという名前は、フランスの人気受難劇に登場するいたずら好きな「悪魔デビル」または「悪魔デーモン」の登場人物から取られています。これは、11 世紀に年代記作家オーデリック ヴィタリスによって初めて証明された、古フランス語の用語HerlequinエルルカンHellequiエルカンに由来します。彼は、夜にノルマンディー(フランス)の海岸をさまよっていたときに悪魔の群れに追われた修道士の話を語っています。これらの悪魔は仮面をかぶった棍棒を振り回す巨人によって率いられており、ファミリア ハーレクイン(var. familia herlethingi ) として知られていました。このゲルマンのワイルドハントの中世フランス語バージョンであるメスネー・デ・ヘレカンは、イギリスのヘルラ・サイニング(「ホスト・キング」、ドイツ語: Erlkönig )の人物と関連付けられています。
ヘレキン は悪魔の黒い顔の使者として描かれ、悪魔の集団とともに田舎を歩き回り、邪悪な人々のいまいましい魂を地獄に追いかけた。ヘレキンの物理的な外観は、ハーレクインの赤と黒のマスクの伝統的な色の説明を提供します。名前の由来は、9 世紀のブローニュの騎士、ノルマン人との戦いで死亡し、悪魔の伝説を生み出したヘルカンに遡ることもできます。

英語版だと結構詳しく書いているのね。

アルルカンは民間伝承のインプの名前から転じたもの。
そして小説「跛の悪魔」では悪魔アスモデウスがアルルカンに尽くす。

うーん偶然の一致でも意図的でもどっちでもおいしいな。

私は原典厨ではないつもり。
原典は、原典。作品は作品。分けて考えるべきだと思う。
そもそもこれは本来の悪魔アスモデウスではないのだし。
でも元ネタを知っていたらより一層作品が楽しくなるかな、の精神でここまで色々集めてメモしてきた。

もし同じように元ネタ集めるのが好きな方の目に留まることが出来れば嬉しい限りだ。

今回はフィズ、もといアルルカンについてうだうだ書いたが、アスモデウスについても情報が集まったらまた書いていきたい。
悪魔アスモデをこれから読むつもりだし、多分必死こいて目に見えないアルルカンの文字起こしをすると思う。

最後に。

オジフィズ一生一緒にいてくれや……

(サムネイルは「目に見えないアルルカン」より。アルルカンとアスモデ。出典 gallica.bnf.fr / BnF)

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