6月5日 Yシャツにアイロンかけようとしたら精子ついた

 大変お恥ずかしい話なのですが、職場に向かう10分前にYシャツにアイロンをかけようとしたらYシャツに精子がついてしまいました。こんなことを言ったところで理解を得られないだろうということは私も重々承知しております。もちろん、たったこれだけの文章では状況の説明が不足してるという事情もあるでしょうが、そんなことよりも、これは人間の習慣の問題であると思うのです。

 例えば昔ツイッターで「親が来る前に部屋の掃除をしたが、キッチンにペペローションを置き忘れていた」という旨のツイートをしたことがあります。

この時、私は見ず知らずの人に「これは仕込みだな」ということを言われたことを覚えております。私はどちらかと言えば、ローションを入れたオナホールを電子レンジで温める方の派閥に属している人間でありますので、ペペローションをキッチンの空いたスペースについつい置いてしまうという現象が頻繁に発生いたします。もちろんその後は温めたオナホールでオナニーをして賢者タイムで何もできなくなるのですから、そのままペペローションをキッチンに置き忘れたままにしてしまうという可能性はかなり高いことは理解して頂けると思います。いや、もっと正直に言いましょう。そういったことを繰り返していたところ、「ペペローション、最初からキッチンに置いてあった方がええやん」という思考に完全に陥ってしまい、ペペローションがキッチンに常駐していた時期すらありました。こういった習慣がない人にとっては、キッチンにペペローションが置かれていること自体が作り話に見えてしまうのも仕方のないことです。私が『習慣の問題によって理解されない』と言うときに想定しているのは、こういったタイプの無理解なのです。

 これと全く同じ理由で私は、職場に向かう10分前にYシャツにアイロンをかけようとしたらYシャツに精子がついてしまったということも、ほとんど理解されないのではないかと考えております。それでも私ができることと言えば、まずは自らの習慣について話し始めることでしょう。

 私は、オナニーをしないと眠れない夜があります。それはどんな時かと言えば、風俗に行かなかった日です。つまり、私はオナニーをするか風俗に行くかをしなければ、眠りに至ることができません。この2つの具体的なエピソードを、SHOWROOM代表の前田祐二が常にそうするように一段階上に抽象化してみるならば、つまり私は『射精をしないと眠れない』という状態にあることを抽出することができます。これは私にとって衝撃的なことでした。私の父は「酒を飲まないと眠れない」と言って毎晩かかさず焼酎を飲んでおりました。私は子供の時分からそういった父のことを少し軽蔑していたのですが、いざ自分が大人になってみると、私は射精をしないと眠れないような人間になっていたのです。いや、実のところ事態はもう少し深刻なのかもしれません。『射精をしないと眠れない』と気づいたのは、抽象化して物事を考えることができるくらいに成熟した今だからであって、そうした今の視点から過去を振り返ってみるならば、私は思春期の頃からずっと射精をしなければ眠れない日々を過ごしていたことに気づかされたわけであります。そういったわけで、私は風俗に行かなかった日は寝る前にオナニーをするということは理解して頂けたのではないかと思います。もっと細かいことを言わせて頂くと、「寝る前にオナニーをする」という表現をすることにすら躊躇を覚えているのも事実です。「寝る前にオナニーをする」よりも、「寝るためにオナニーをする」と表現した方が真理に近いわけでありますから。

 私たち男性はいざオナニーをし始めると『どこに精子を出すのか』という問題が眼前に立ち現れます。こんなことは学校では教えてもらえないことでありますし、『どこに精子を出すのか』という話は政治と宗教の話と同じくらいに男性同士でも滅多に話題に上がらないものでありますから、もうこれはどうしたってオン-ザ-ジョブ-トレーニングで学んでいくしかありません。『オン-ザ-ジョブ-トレーニング』と言ってしまえば聞こえがいいかもしれませんが、実際のところは教育係もいない中小IT企業が新人に対して「うちはオン-ザ-ジョブ-トレーニングだから」と言って無理して仕事させているのと変わりないことは注視するべきでしょう。では実際に私がいつも精子をどこに出すのかというと、部屋のそこら辺に散らかっている紙の上に出すことがほとんどであります。それは、時には飲食店の広告チラシ、時には水道料金の明細、時には仕事で使った書類であったりします。なんでも、私が小学生や中学生の頃というのは現代社会や総合学習の授業で『環境問題』が重要な1トピックとして取り上げられていた時代なものですから、そういったバックグラウンドもあって、ティッシュよりもそこら辺に散らかっている紙の上に射精する習慣が私には根付いたのだと考えております。これは俗に言うところの『3つのR』の『Reuse(リユース:再使用)』に当たります。飲み終わった牛乳パックをしっかり畳んでリサイクルボックスに投函するかのように、そこら辺の紙に射精している毎日であります。

 さて、私はその日もいつも通りに寝る前にオナニーをして、最後は近くに落ちていたクレジットカードの請求書をReuseしたわけでありますが、夜寝る前というのは少し動くことですら本当に面倒臭く思われるものですから、Reuseしたクレジットカードの請求書をゴミ箱まで持っていくというのが非常に煩わしく思え、私はごみ箱よりも1m近いところにあったアイロン台の上にReuseしたクレジットカードの請求書を置いておきました。

 夜が明けて、朝がやってきました。私はいつも通りにシャワーを浴びて、髭を剃り、歯を磨きました。それからドライヤーで髪を乾かして、洗濯されたYシャツを取り出し、アイロンをかけようとアイロン台に向かったところ、そこには昨夜に私がReuseしたクレジットカードの請求書があり、その上には、もう時間が経過して透明になってしまった精子が静かに佇んでいました。こんなことは私にとっては日常茶飯事でありますから特に何も動揺することなく、昨夜面倒くさがった自分のツケを払うように、Reuseしたクレジットカードの請求書をゴミ箱に持って行きました。それからアイロン台の上にYシャツをセットしてアイロンをかけようとしたところ、Yシャツの胸のところに1つの大きなシミができているのを見つけました。そのシミは、Reuseしたクレジットカードの請求書が先ほどまで置かれていたところの真上にできていて、私は瞬時に、Yシャツに精子がついてしまったということを悟りました。おそらくゴミ箱に持っていこうと持ち上げた時にこぼれてしまったか、そもそもクレジットカードの請求書に出すという判断がよろしくなく、浸透して下のアイロン台に精子が染みてしまっていたのでしょう。しかしもうあと10分で家を出て職場に向かわなければならない時間だったので物事の原因に目を向けている時間などなく、目の前にあるYシャツに付着した精子に対してどう相対すればよいのか考える他ありませんでした。もしかしたら、そのままアイロンを掛けてしまえば蒸発して全てが無かったことになるのではないかとは思いましたが、やはり物事というのは事前にある程度は調査をしてから取りかかる方が良き結果をもたらすものでありますから、私は残り10分しか時間がない中で自分ができることを考え、デスクトップPCで開きっぱなしだったChromeの検索ボックスに『Yシャツ アイロン 精子』と入力して検索を試みました。参考になりそうな検索結果は何一つHitしませんでした。この国の男性の家事意識の低さ、それに付随する家事に関する集合知の蓄積の無さにはほとほと呆れるばかりでした。もう残り時間はどんどん減ってしまい、私は今度こそ精子の付着した部分にアイロンを掛けるしかないと真剣に思いはじめました。結局のところChromeで情報を探す前と同じ結論にたどり着いてしまいましたが、たとえ外形的な行動が同一であっても、何かを調べる前にそれをやるのと調べた後にそれをやるのとでは、やはり行動の質において歴然たる差があるのは疑いようのないことでありましょう。私は一か八か、どうか精子よこの世から無くなってくれ!と、声にならない叫び声をあげながら精子の付着した部分にアイロンを当てたところ、一瞬でそのシミが綺麗な黄色の焦げ跡へと変化しました。季節が冬から春へ移り変わる時間を、ほんの一瞬のうちに凝縮したような映像でした。もうその頃には家を出なければ遅刻してしまう時間であったものですから、私は四の五の言わず、精子の根性焼きのついたそのYシャツを着て家を飛び出しました。「26歳にもなって、こんな生活をしていてごめんなさい。生きていてごめんなさい」会社へ向かう道すがらそんな罪悪感に苛まれましたが、そういった罪悪感が生じたことと今回の私の過ちに精子が関係していたことは、それはそれでまた別問題であり、決して罪悪感の引き金の原因は精子ではないということ、そういった正しい分別ができる程度には私も大人になったのだということに気づいた朝でありました。

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