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考えたこと。(エッセイ)

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記事一覧

なぜ人は笑うのか / 笑いとはどのような行為か。

 演劇を見ていて、時折不思議に思うことがある。生で劇を鑑賞しているときに、私は特定のシーンで (ほかの観客と同じように) 笑う。しかし、映像化された同じ劇を見ても、劇場で笑うのと同じようには笑えないのである。生で見たときは確かに笑えたものが、一人で見るときには笑えなくなる。少なくとも、一人で見ているときの「クスクス笑うような」笑いと、劇鑑賞中の観客の笑いは、どこか異なる質を持っている。もう少し一般

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【雑文】『トイ・ストーリー4』の飲みこみがたさ。あるいは今日のディズニーがはまり込んだ難しさについて。

 本編のストーリに触れるものではないが、ほんのりとネタバレあり。

 思ったことを書きなぐったので、大した結論などはない。

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 先日『トイ・ストーリー4』を見てきた。近年のディズニーらしく、「Where you are (いるべき場所、いる場所)」、そして「Who you are (誰であるか、誰であるべきか)」をテーマにした良作であった。思えば近年のピクサー・ディズニーは、『シュガ

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「面白くないなら、無理して笑わなくていいよ。」

 忘れられない一言についての小話をする。

 もう8,9年前のことになったのだろうか。ゼミの飲み会でのことだった。私はいつも通り普通に酒を飲んで、楽しく会話をしていた。飲み会は取り立てて大好きというわけではなかったし、会話に困る場面もあったが、嫌いというわけではなかった。

 だが、その会の途中で、正面に座った女性に、「面白くないなら、無理して笑わないでいいよ。」と言われた。その一言は本当に唐突で

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「理解」という概念では捉えられない、コミュニケーションにおける微細なズレ - 『プリキュア』『アイカツ』のシーン分析のための準備。

―目次―
序 なぜ、相手の頭のなかを覗くことなどできないのに、コミュニケーションが成り立つのか。
1節 本稿における問い。:「理解できる / できない」という概念で捉えられないことについて。
2節 「理解」という概念の分析。:そこで前提となっているものは何か。

 この記事は、本当なら1つの記事になるはずだったものの、前半部分を「準備編」として公開したものである。なぜ前半だけを切り離して公開したの

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小話:「自分に厳しく、他人に優しく」というのはいかにして可能か。

 書いているものが行き詰ってしまったので、気分転換に全く違う小話をしてみる。「他者は私には理解できない」と考えることがなぜ大切なのか、という話。

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 社会を生きるうえで基本的に求められる格率は、「自分を律しながら、他人に寛容であること (しかし、無関心ではないこと)」であろう。こうした態度が排除ではなく包摂をもたらす。しかし、このように「自分に厳しく、他人に優しくあること」はいかにし

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本の自炊環境を整えることを全力でおススメする記事。自炊はいいぞ!

本の自炊環境を整えることを全力でおススメする記事。自炊はいいぞ!

〈目次〉
 0. いま、猛烈に、人に自炊をおススメしたい!
 1. 最初に確認!自炊は誰に向いているのか。
 2. 技術に驚き!紙と同じように書けるんです。
 3. ただし、健康被害もある。
 4. で、何を揃えたらよいのか。
 5. とにかく、自炊はいいぞ。

0. いま、猛烈に、人に自炊をおススメしたい!

 夏に、自宅の本を電子書籍化する環境 (いわゆる自炊環境) を整えた。

 ドキュメン

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「社会を語ること」の難しさについて:「社会学」は何が難しいのか。②

3. 社会学の困難① : 「社会学で社会がわかること」 それ自体に既に問題がはらまれている。

 (1) 私たちには何が見えていないのか
 さて、以上の内容を引き継ぎつつ、以下の二節では 「概念と観察」「内部記述と観察者の観察」といった視点から社会学の困難を記述していくことにしよう。
 まず、本節では 「概念と観察」 というところに焦点を当てる。先に社会学の第一歩は 「ある特定の概念によって、ある

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「社会を語ること」の難しさについて:「社会学」は何が難しいのか。①

「社会を語ること」というのは、なぜ難しいのだろうか。この記事では、山本泰「社会がわかるとはどういうことか?社会学がわかるとはどういうことか?」(国際社会科学 64 1-15 2016年3月) という文章を元にしながら、そのことについて考えていく。

1. 社会について語ることの難しさ :「社会について語ること (社会学)」の難しさを考える。

 私の専門は、(たぶん)「社会学」だ。専門とい

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わたしとあなたとの深淵を越えていく想像力 ― 谷山浩子「きみの時計がここにあるよ」について

 前回に引き続き、谷山浩子さんの曲について手短に。

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 「きみの時計がここにあるよ」を初めて聞いたのはライブにおいてであった。卓上にある置時計から思いがけぬ形で広がっていく世界に感嘆したことを覚えている。自分にはない想像力に触れた気がして、とても強く印象に残った。

 真夜中の置時計 机の上で時を刻む  文字盤の上には 頬杖ついた天使

 ふと僕は考える この天使の図案を描いた誰かが

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『プリティーリズム』『プリキュア』『アイカツ』という3つの女児向けアニメと「人間」について書いてみて。 - そこから何を書くことができたのか。

 この数ヶ月で自分が何を書いてきたのかを振り返る小話。『プリティーリズム・プリパラ』『プリキュア』『アイカツフレンズ』を題材に、一応一連の記事のつもりで3つの記事を書いた。そこで書いたことと、なぜそれを書いたのかについて、振り返ってみたい。おさらい&整理の記事として。

 (本当は、「社会学において何が書けるのか (陳腐化に抗うこと)」「アニメを題材に何を書くのか (どのような距離感でそれを語るの

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「救われるためにお金を払う」とはどういうことか。 ー 宗教と支払いのコミュニケーションについて

 半年くらい前だっただろうか。知人から、鬱になり、それを治すために私財を投げ打ってお金を作り、遠方の新興宗教の集会に参加している人がいるという話を聞いた。

 それなりに重要な私財を売ってまでお金を作ること、鬱を治すためにそのお金を宗教に使うこと。このことを意識しながら、「救われるためにお金を払うことは奇妙か?」ということについて手短に考えていきたい。

 ただし、先に言っておくと、この記事はなん

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砕き染み渡るもの。

 続けてもう一つだけ。当時「未完」としているが、1段落目で書かれていることがそれなりに自分の感覚を表していると思ったので。

 お題:シンプルな感覚。制限時間15分。文字数652文字。

* * * * *

 あの日の、もう顔も思い出せないようなあの女の一言が、再浮上してきて、吐きそうになる。気持ちが悪い。あの女でなくてもいい。あの男、あの子供、あの本、あの番組の、あの本当に何気ない一言が、発せ

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他者と共にあることの孤独

 数年前に即興小説というものが流行った。15分という制限時間のなかで何かを書くのは割りと面白くて、自分もそれなりの量の小説を書いた ( http://sokkyo-shosetsu.com/author.php?id=450838468 )。さっきふと数年ぶりにそれを見直してみて、この文章は残しておいても良いかなと思ったものがあったので、noteにあげてみる。

 お題は「ナウい孤独」。制限時間1

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私とあなたの間のすきま ー 赤江達也論文についてのコメントの補論

 人はコミュニケーションの主体たりえるのか。ここから、「主体」と「近代」というものを考えてみたい。なお、この記事は以前書いた以下の記事への補論となっている。

 まず、コミュニケーションの定義を「情報の伝達」だとしよう。その上で、やや極端だがわかりやすいある具体例を元に、コミュニケーションについて考えてみたい。

 例えば、とある読書会の最中、人の報告中に、私があくびをしたとしよう。おそらく報告者

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