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Steven Wilson新作を発売前に分析してみる

2020年6月12日リリース予定のSteven Wilson新作『The Future Bites』について、一体どのようなアルバムになるのか考証してみようと思います。

本作についてははっきりとした情報が現時点であまり出されておらず、ゆえにこの記事は私の勝手な予測でしかないため実際はまったく違うということも十分ありえますが、まあそれはそれで。

なおその新作のコンセプト的な部分(メッセージ性、物語性、主張・思想面)については、全曲の歌詞を読んだり発売後のインタビュー読んだりクリステン・スチュワート主演の2016年公開映画「パーソナル・ショッパー」をちゃんと観たりしないとさすがに何もわからないので、この場では触れません。音楽的な部分にフォーカスして考えます。


まず結論から書くと、我々Steven Wilsonファンは「後期Porcupine Treeの存在をいったん忘れるべきではないか」ということです。

現在のSteven Wilsonは明らかに、No-Manで自身がやってきた音楽寄りの方向性へ再びシフトしています。

●新曲"Personal Shopper"

去る3月12日、新作『Future Bites』の収録曲として"Personal Shopper"が公開されました。

おもいっきりエレクトロポップ/ダンスミュージックなこの曲を聴いてまず感じるのは、

・2019年リリースのNo-Man最新作『Love You to Bits』の継続/拡張

・ソロ前作『To the Bone』でもみられた70's〜80'sディスコミュージックへの憧憬

が本作でも展開されるだろうこと。そしてポイントは、この路線がSteven Wilsonにとってまったく新しい試みではないという点にあります。


●David Kostenとは何者なのか

Elton JohnやGuillemotsのFyfe、妻のRotem Wilsonまで参加しての豪華メンツで制作されている"Personal Shopper"ですが、それ以上に重要な人物がこの楽曲には携わっています。プログラミング担当としてクレジットに名前を連ねているDavid Kostenです。

このDavid Kostenは楽曲に対する単発参加ではなく、アルバム『The Future Bites』全体の共同プロデュースをも務めることが、先日Steven Wilson自身のInstagram投稿にて明らかになりました。



ではDavid Kostenとは一体何者なのか。

実はこの人、25年前からSteven Wilsonと一緒に仕事をしている人物です。

No-Manが1995年にリリースしたリミックスアルバム『Flowermix』にて、収録曲"Natural Neck"と"Why the Noise?"のプロダクションおよびリミックスをDavidが担当。

そして同じくNo-Manの4thアルバム『Returning Jesus』(2001年)収録曲"Only Rain"でも、David Kostenは作曲含め名前を連ねています(この曲は先述の"Natural Neck"と同じ音が使われ構成されている)。


つまりNo-Man文脈での関連人物を、Steven Wilsonは今回のソロ作で招聘しているわけです。ここで視点をNo-Manに移すと、前作『Love You to Bits』よりも注目すべき作品が2枚存在していることがわかります。

No-Manの1st『Loveblows & Lovecries - A Confession』(1993年)、そしてFaultlineの2nd『Your Love Means Everything』(2004年)です。


●No-Man『Loveblows & Lovecries - A Confession』


Steven WilsonとTim Bownessにより1987年にスタートしたNo-Manは、キャリアを通じ絶妙にカテゴライズ不可能な音楽を展開しているプロジェクトで、3rd『Wild Opera』(1996年)以降はプログレッシヴロック/ドリームポップ/アンビエントな雰囲気が顕著であるものの、それ以前の初期の段階ではかなりシンセポップ/エレクトロ/トリップホップ的な音を展開していました。

特に1stフル作を聴き返してみると、『The Future Bites』の源泉はここにあるのではないか?との推測もあながち間違いでないような気がします。

今回の新曲"Personal Shopper"のノリは、『Loveblows & Lovecries - A Confession』収録の"Taking It Like a Man"と非常に酷似しているのです。

※"Taking It Like a Man"に関してはこの曲にフォーカスしたEPも1994年に発売されており、そちらに収録されている同曲のリミックスバージョンを聴くとよりいっそう"Personal Shopper"と通じる点を感じます。


Steven Wilson新作に対して私は先ほど「No-Man最新作『Love You to Bits』の継続/拡張」と書きましたが、実際はむしろ初期No-Manへの再訪が行われている可能性が高いのではないか?と、考え直し始めるに至っています。


●Faultline『Your Love Means Everything』

FaultlineとはDavid Kostenの別名義です。

彼はFaultlineとしてこれまでに2枚の作品をリリースしています。

1999年の1st『Closer Colder』はノイズやコラージュ音で占められた実験的な前衛作品だったのですが、続く2004年の2ndではColdplayのChris MartinR.E.M.のMichael StipeThe Flaming Lips等をゲストに迎えており、その「Voをフィーチャーしての陰のあるエレクトロアンビエント」な音像がNo-Manと非常に近いのです。


なおSteven Wilsonの公式HPでは昔から「お気に入りプレイリスト」が公開されていて、そのプレイリスト最新版では1曲目にFaultlineの2nd収録曲"Your Love Means Everything Part 2"(Chris Martin参加曲)が配されています。


これらのことを踏まえると、やはり新作『The Future Bites』の起点になっているのはNo-Manで展開してきた音楽性、かつ「27年前のNo-Manへの立ち返り+アップデート」を、現在のSteven Wilsonは図っているのではないかと思うのです。

Steven Wilsonプレイリスト最新版ではKanye Westのエレクトロヒップホップ曲"On Sight"がセレクトされており、一瞬意外な印象も受けるのですが、No-Manの1stには"Break Heaven"というおもいっきりヒップホップのリズムパターンをベースにした楽曲が存在していたことを考えれば、非常に合点がいくヒントになっていると言えるでしょう。


●後期Porcupine Treeの位置づけ再考証

Steven Wilsonは新作を出すたびになにかとPorcupine Treeの話題が出され、「後期Porcupine Treeと比べて今回はどうか」「プログレッシヴロック的にどうなのか」という視点で議論されがちなかわいそうな人でもあります。

確かにSteven Wilsonが爆発的に注目と人気を集めるようになったのは、Porcupine Treeとしてオルタナティヴメタル/プログレッシヴメタルな音を大きく取り入れた2002年の『In Absentia』が契機なのは間違いなく、ゆえにファンの大半が毎回その時期を引き合いに出してしまうのも無理はありません。

ですがSteven Wilsonのキャリア全体を俯瞰した場合、後期Porcupine Treeは彼にとって極めて特異な時期だったのではないかと思うのです。

そもそもSteven Wilsonは、もともとメタルがそれほど好きではない人間です。

先述のプレイリストページでは2012年2月〜2017年4月の「Steven Wilsonのお気に入り」も確認することができますが、その中でのメタルの割合はほぼ皆無です。例外的にOpethとAnathemaが入っていますがこれは身内のようなものだし、それ以外ではIron Maidenが2014年11月に一度だけリストアップされているのみ。

Steven Wilsonが唯一「積極的には聴かないジャンル」がメタルなのです。

※メタルに興味がないことは2005年のPorcupine Tree『Deadwing』リリース時のインタビューでもすでに発言しています。


そう考えると、

・我々リスナー側は後期Porcupine Treeに重きを置きすぎなのではないか?

・後期Porcupine TreeはSteven Wilsonの出発点ではなく、むしろキャリアにおける異端の時期でしかないのでは?

・Porcupine Treeと同じぐらい昔からやっているNo-Man(やそれ以外のプロジェクト)の音楽性にも今一度目を向けてみるべきではないか?

という意識が、新作『The Future Bites』と対峙する上で必要なのかもしれません。

No-Manの諸作品、特に1st『Loveblows & Lovecries - A Confession』を未聴の方はぜひこの機会に聴いてみてください。


6月に『The Future Bites』がリリースされた後、今回の私の勝手な予測が合っているかどうかも含めて再度考証してみようと思います。


【余談】

実は『The Future Bites』収録曲の"King Ghost"が、二週間ほど前に某ネットラジオ局で一度放送されています。リークなのかどうかは定かでなく、音源はすぐに消されているため今は聴くことができないのですが、聴いた方の感想として「Nine Inch Nailsをさらにトリップホップ化したような感じ」との評を見かけました。アルバム全貌が明らかになるのが非常に楽しみですね。


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