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『固定化を解いて、一人ひとりを幸せに、社会をしなやかに』 流動創生 荒木 幸子 さん

生きる中で行き詰まった時に、他の可能性を見られないことが危ない。ご自身の経験からそう語る荒木幸子さん。彼女はどのようなことを経験して、そこから何を学んで今の生き方を選択したのでしょうか。生きることに真剣に向き合ってきた彼女の歩みについてお伺いしました。

プロフィール
出身地:横浜市
活動地域:神奈川、東京都、福井県
経歴:1985年、横浜市出身。大学にて歴史学・文化人類学を学び都内Sler企業にてコンサルティング部隊に5年間所属。3.11で社会システムの脆弱性に危機感を抱き、それまでの環境を一転。2013年から3年間、福井県南越前町にて地域おこし協力隊に着任。2015年より、自らが地方創生業として提案した「流動創生事業」をスタートし、2016年より個人事業として南越前町の委託を受けて、同事業を推進している。現在、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に所属し、地方の人口流動と都市企業の人材流動を紐づける、社会流動について研究を行う。
座右の銘:人事を尽くして天命を待つ

記者 本日はよろしくお願いいたします。

荒木  幸子(以下、荒木  敬称略) よろしくお願いします。

「社会の固定化の呪縛を解く」

Q .    今、荒木さんの目指されている夢を教えてください。

荒木 「移動」「変化」といった社会の中での流動性を高めることによって、現代の固定的な社会で行き詰まっている人や物事の問題を解決、解消したいと思っています。例えば、職場や家庭だけに自分の居場所が固定されている人は、そこで行き詰まってしまうと、八方塞がりになってしまう可能性があります。その結果、自己否定に走ったり、病気になったり、自殺してしまったりする人もいます。社会全体で、転職・転勤・転居、さらには結婚・離婚など、ライフスタイルを柔軟に変えられるといいのですが、今の世の中はそれを許しづらい仕組みになっています。だから働き方や暮らし方、生き方に流動を許す文化や仕組みをつくっていきたいと思っています。

記者 確かに一箇所しか居場所がないのに、そこで行き詰まってしまうと大変ですね。

「流動創生事業で環境を変えること」

Q.    ではその文化や仕組みをつくるために、どのようなことをされているのですか。

荒木 今は、福井県南越前町にて、流動創生事業を行っています。流動創生事業とは、地方創生事業として、今よく地方で取り組まれている人口減少対策としての移住定住促進や、お金を落としてもらうための施策としての観光とは異なり、南越前町をはじめとする地方と都市の間の人の動きをつくる事業です。去年から認知され始めている、関係人口の1つとよく言われています。流動創生は4年前からやっているのですが、その時から考えていたのは、ある地域の人が増えて人口減少が解消されると、その裏ではどこかの地域で人口が減っているということです。今ではよく言われる地方同士の人口の奪い合いです。じゃあ東京にたくさんいる人たちを引っ張ってくればいいじゃない、という流れがまだ主流ではありますし、それも策の1つではあるのですが、豊島区がすでに人口減少と戦い始めているように、いずれ東京の人口も減少していきます。地方の問題は最先端であり、都市部の未来と言われているように、長い目で見ると東京のマンパワーも無尽蔵ではないのです。このように、特定の地域の人やお金の数にだけ注力しても、国全体で良い方向に向かうことはできません。みんなが幸せになるためには、国全体で地域維持の危機や資源喪失といったダメージをなるべく避ける必要があります。そのためにどうしたらいいのかと考えると、人材をシェアすること、要するに人1人が色々なところで活躍していくこと、かつ1人ひとり持てる力や才能を最大限に発揮できるようにしていけることが必要なのではないかと思います。これが流動創生の考え方です。

記者 なるほど、地方創生事業に対する鋭い指摘ですね。でもそういった考えが、なぜこの流動創生事業に繋がったのですか?

荒木 そうですね。私は「旅」や「移動」という概念に救われたことがあり、恩義を感じています。そして、それらが私や多くの人に開いてくれる可能性を、社会に残したいと思っているのです。

会社員時代の苦しかった時に、たまたま引き寄せられるようにマルタ共和国に行ったのですが、そこに住む人たちはみんな気楽そうで、仕事をしているのかしていないのかわからないというような感じだったのです。美術館の警備のお兄さんがプラプラしていたり、たまたま出会ったおじいさんが町一番の教会に連れて行ってくれたり。人生の流れ方、時間の流れ方、仕事の捉え方がまるで違っているように見えました。私の目の前を真っ暗にしている仕事という巨大な壁が、ここの人たちにとっては暮らしの要素の1つでしかないんだと感じました。そしてその時に、会社や東京の暮らしが、全てのように私が思い込んでいただけだったんだということに気づきました。同時に、物理的に場所を変えて、自分の日常を相対化させることの大切さを知ったのです。

このような原体験がベースにあって、3.11で社会システムの脆さに直面したときに、一度これまでの人生、私が積み重ねてきた当たり前や思い込みを相対化したいと思いました。そのためにまずは場所を変えるということをしたくて、地方への移動という選択に行きつきました。福井県を選んだのはたまたまです。当初は学生時代に関心のあった建築や町並みの保全の取り組みに参画しましたが、地方の様々な実態を目の当たりにしていくにつれて、地方と都市の様々な課題の根底にある、コミュニティ、取り組み、仕組み…あらゆるものの「固定化」という呪縛に思い至ったのです。この社会の中には、それまでの私と同じように、一つの場所でしか生きられないと思って苦しくなっている人たちがいると思います。そのような人たちが固定化の呪縛から解かれて、失敗を恐れず、再選択をしていける社会にしていかなければならないという想いが流動創生事業に繋がっています。

記者 なるほど、海外に行くことで環境を変えることの価値が深く理解できたのですね。素晴らしい!そしてその経験から流動創生を提案されたのですね。

「やるべきことをやった上で運命が味方をしてくれる」

Q.    海外に行ったからといって、ただよかったなどとなって、そのような変化をしない人もいると思います。その中で、荒木さんは会社をやめて地方に行くという決断までされました。そこにはどんな背景があったのでしょうか。

荒木 マルタ共和国に行ったのは2009年ですが、その後、私は2011年にもイタリアに行きました。当時、私は社会人4年目で、ある程度仕事はできるようになり、やりがいも感じていたのですが、その後のキャリア形成はこのままでいいのだろうかと悩んでいました。その時にうっすらと私が憧れていたのがモザイクの修復士だったのです。ヴェネッツィアはガラス工芸とともにモザイク美術の盛んな街です。そこの工房に行けば、もしかしたら私は何らかの形で人生を切り開けるかもしれない。そのような勝手な期待をしてイタリアに行きました。ところがその工房の前まできて、私はその扉を叩けなかったのです。本気でモザイクの修復士になりたかったのなら、その扉を叩いたのだと思います。だからそのとき、自分で自分の人生を切り開く覚悟もないままイタリアに行ったことをすごく恥じました。それがあって、次に「扉の前に立つ」機会があったら絶対に「扉」を叩かなければならない、自分がアクションを起こさなかったら「扉」は開かれないんだと強く思いました。ただ移動して環境を変えるだけではダメ。"人事を尽くして天命を待つ"という私の好きな言葉があるのですが、やるべきことをやった上で、運命が味方をしてくれるのだと思います。

記者 なるほど!旅が自分を変えてくれると思っていたけど、そうじゃなかったと!とても納得、共感します!

荒木 はい。そしてその後日本に帰って、また仕事で紆余曲折あり、辞めるか辞めないかの瀬戸際で「これはイタリアで叩けなかった扉だ」と思い、会社をやめるという決断に繋がりました。

記者 とても真剣に向き合っていらっしゃったのですね。荒木さんの経験や決断が一本に繋がって理解できました。旅の途中で学んだことを日常で使っていくというのは、とても有意義でいいことだと思いました。本日はありがとうございました。

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荒木さんに関する情報はこちら
↓↓
●流動創生
http://ryudou-sousei.jp/
●facebook
https://www.facebook.com/profile.php?id=100004192931475

■編集後記

インタビューを担当しました岸本 & 土岐 & 片瀬です。荒木さんとお話してみて、ご自身の身に起こったことをしっかり受け止めて別の機会に活かしていたことから、生きることに真剣に向き合ってらっしゃるという印象を受けました。またその一方で、真面目な内容を話されるときでも、もっと聞きたいと思わせてくださる空気感があって、楽しい時間を過ごさせていただきました。
また、辛かったことも楽しかったことも、心オープンでお話してくださったのですが、それが彼女の魅力につながっているのではないかと思います。お話の中で、社会に還元していきたいという想いがあるとおっしゃってましたが、その想いを胸に積極的に行動されているところもとても魅力的でした。
今後のご活躍をお祈りいたします。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36



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