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『1人の100歩より、100人の1歩ずつ』 英治出版 上村 悠也さん

学生の頃から社会貢献を積極的にされてきた上村悠也(かみむらゆうや)さん。
"夢中な人を応援したい"そう語る上村さんご自身に、どんな想いでお仕事をされているのかお伺いしてきました。

プロフィール
出身:東京都
活動地域:東京都
経歴:小学生の頃からサッカーに夢中になる。大学時代、1冊の本をきっかけに国際協力に関心を持ち、世界の飢餓と肥満の同時解消に挑むTABLE FOR TWO (TFT) の活動へ参加する。その後、途上国で移動映画館を展開するWorld Theater Project (WTP) の活動に携わり、現在は英治出版にて、主にウェブメディア「英治出版オンライン」の運営に奮闘中。

『小さな1歩でも、踏み出すことから変化が始まる』

Q.今の仕事の活躍に繋がった心の在り方の変化、認識の変化はどんなものがありましたか?

上村    大きな転換点は『戦場から生きのびて  ぼくは少年兵士だった』という本を読んだときでした。アフリカのシエラレオネにおける内戦で、子ども時代にしてすべての選択肢を失い、人を殺さなければいけない立場におかれた少年の話です。それを読んだときに、自分は好き放題サッカーをやってきたけど、好きなことがあってもそもそも選択肢がない人たちがいるのだということを痛感しました。

人の可能性が理不尽に閉ざされてしまうことは悲しいし、逆にそれが開かれていったらいいなと思いました。そこからいろいろと自分にできることを探すようになって、大学のときにTABLE FOR TWO(TFT)の活動と出会いました。

TFTは、先進国で20円の寄付つきのヘルシーメニューを食べると、途上国の子どもたちに1食の学校給食が届くという仕組みです。これはどっちも健康になれるwin-winの仕組みで、日々の食事の中でできるということは、誰にでも「いま、ここ」でできる社会貢献なんです。それがすごくビビッと響きました。

この活動は、多くの人の小さな1歩ずつを引き出す仕組みで、1歩を踏み出せる人が多くなれば世の中はよくなると思いました。そのとき、「1人の100歩より、100人の1歩ずつ」というキーワードが生まれたんです。

目の前の1人が「自分にもやれることがあるんだ」と気づけて、その1人の可能性が開花したら、今度はその人が周りの人に影響を与えていく。1人ずつの可能性が開けば、その周りの人たちの可能性も開いていくんじゃないか、と思ったんです。

今の仕事は、ウェブメディアや本を通して「言葉の力」で人の可能性を開いていける。いろいろな分野の著者と読者を応援し、あちこちの1歩ずつが引き出されていく、そんな絵を思い描きながら仕事をしています。

記者    小さなことでも「いま、ここ」でしようという姿勢が素晴らしいと思いました。1つ1つの積み重ねで現実は動いていくんですね。

上村    逆に、「10億人の飢餓」とか「2万人の被災者」とかって大きい数字だけを見ると麻痺しちゃうんですよ。その中にあるのは「1人ひとりの空腹」や、「1人ひとりのものすごく尊い命」なのに、大きい数字でまとめた瞬間にそれが見えなくなってしまう。1の苦しみとか1の喜びって実はものすごく大きくて、だからたった1人にでも何か手助けができたら、それはすごく大きいことだと思うんですよね。実は小さくないんですよ。

記者    確かにそうですね。1があるからこそ、そこから2,3があって、大きな数字になっていきますよね。

『繊細な表現は人間にしかできない』

Q.AIが普及してますがAI時代にどんなニーズがあると思いますか?

上村    出版の仕事をしているからか、「翻訳」に関して考えさせられることが多いです。特に印象深かった話が2つあります。

ジェイ・ルービンというアメリカの翻訳家が、村上春樹の『1Q84』という作品を英訳しています。『1Q84』では、主人公が「月が2つ見える世界」に迷い込みます。ただ、周りの人たちにはいくつに見えているのかが分からないんです。頭のおかしい人だと思われることを恐れ、人に聞いて確かめることができません。

そんななか、別の登場人物が主人公に「今日は月がきれいだ」と語りかけるシーンが出てきます。ここから生まれる会話も、「彼には月がいくつに見えているのかわからない」という設定が重要なポイントになっています。ここでもし"moon"と単数形で訳してしまうと、彼には月が1つしか見えてないことになってしまう。逆に複数形で訳してしまえば、彼にも2つ見えていることが確定してしまう。

ジェイ・ルービンはこの難しい部分を、"It's a nice night for moon-viewing."と訳しました。「月がきれいだ」ではなく「月見に良い夜だ」とすることで、この単数形・複数形の問題を解決したんです。こういう物語の中心軸やスリルを失わない翻訳ってすごいなと思いました。

逆に、海外作品の日本語訳で感動したこともあります。シェイクスピアの『ヘンリー六世』という作品を読んでいたときのことです。

僕が読んだのはちくま文庫版で、翻訳者は松岡和子さん。ロンドン塔に訪問してきたグロスター公爵に対して、看守が無礼を働くシーンがあります。そこで公爵の従者が「それが摂政(せっしょう)閣下への返答か?」と脅します。この「摂政閣下(グロスター公爵のこと)」と訳された言葉は、元は"The Lord Protector(護国卿・保護職)"となっています。

この脅しに対し、もう1人の看守が許しを請うて"The Lord protect him(主よ、彼を守りたまえ)"と返します。ここは「The Lord Protector(摂政)」とかけて、いわばダジャレにしているシーンです。だけど、そのまま日本語に訳してしまうとこの言葉遊びは伝わりません。

松岡さんは、ここのセリフを「そんな殺生(せっしょう)な」と訳したんです。意味を失わずに、言葉遊びまで翻訳してしまう…これは天才的だ!と大感動してしまいました。

こういう素晴らしい例に触れると、AIにはこのクオリティの翻訳はできないんじゃないかと感じます。機械的な翻訳で情報を届けることはできても、著者のユーモアとか、翻訳者の思いやりとか、繊細な部分は人間にしか表せないのでは、と。

翻訳だけに限らず、そういう心の通った繊細な表現はまだまだ人間にしかやれない領域で、それを失わないように大事に育てていくべきだと思います。編集の仕事に携わる身としても、著者のこういう繊細な表現をどこまで磨き込むお手伝いができるか、という意識を持っています。

記者    その翻訳はほんとにすごいですね!きっとAIにはできないと思います!心のこもった仕事や、繊細な仕事をよりできるようになるように育てていきたいですね!

『1人ひとりが夢中になること』

Q.この時代をどんな美しい時代にしたいですか?

上村    多くの人が夢中になれるものを持てる時代にしたいです。単純に、人が夢中になっている姿って美しいなと思うからです。小学校サッカーのコーチをやっていたときに見ていた、周りが一切見えなくなってボールだけを必死に追いかけている子どもたちの姿。カンボジアで移動映画館を開催したときの、頰にハエがとまっても気づかないで映画の世界に没入している子どもたちの横顔。

あんな風に何かに夢中になれる人たちが増える世界は、きっと美しいんじゃないでしょうか。そのためにも、人の可能性が閉ざされずに開花できるチャンスがあることが大切。そして、そういう世の中をみんなでつくっていくために必要なマインドが、僕にとって「1人の100歩より、100人の1歩ずつ」という言葉なんです。

記者    確かにみんながみんなそのように可能性を引き出すことができて没入・集中できる世の中になったら、今よりも活気あふれて美しい世の中になりますね。

上村    そうですね。それと、僕が尊敬するようなリーダーシップを発揮している人って、一途な想いをしっかり持ってるんです。だからその人自身にできないことがあっても、「そこは私が何とかしますから!」みたいな感じで、周りに協力者が集まってくるんです。みんなを引っ張るリーダーというよりも、その想いに賛同する人を引き寄せてしまうリーダーですね。だから、一途な想いに夢中になれる力は絶大だと思います。

記者    そんな風に人に協力したいと思わせる人は魅力的ですね。ありがとうございます。

『想いは最強の論理』

Q."夢中になること"や"想い"という言葉が出てますが、それらを大切にされる理由を聞かせてください。

上村    想いがあれば自分に力がなくても人は集まってくるけど、想いがなかったらたとえ力があっても人は集まらないんじゃないか、と思うんです。1人でできることは限られていますよね。だから力よりも想いのある人に多くの力が集まって、最後には大きなことができるんだろうなと思います。

「想い」と対比で語られがちなのが「論理」だと思います。最近、著者をはじめとした色々な方のお話を聞いているなかで、想いって「最強の論理」なんじゃないかと感じています。

一般的な論理は「AだからB」「BだからC」「Cだから…」って進みますが、その繋がりは見る人によってはそうは思えないこともあります。突っつきどころがあるんですね。でも想いは、「私は好きだ、だからやる!以上!」みたいに、もう誰にも突っ込めないんですよね。だから最強の論理なんじゃないかと。そういう想いを持った人に憧れますし、応援していきたいなと思うんです。

記者    好きだからやる!以上!は確かに誰も突っ込めないですね。上村さんが夢中になることや想いを大切にされる理由がわかりました。

今日はどうもありがとうございました。

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上村さんに関する情報はこちら
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■編集後記
インタビューの担当をしました岸本です。上村さんとお話しさせていただいて受けた印象は、とても愛嬌があって感情豊かな方だなということでした。想いもあって人を惹きつけるような魅力を持っていらっしゃいます。これからも1人ひとりが1歩を踏み出せるようなサポートをしながらご活躍されることをお祈りします。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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