アフターコロナの医療資源の準備はIT業界に学べ(クラウドコンピューティングにはヒント満載)

今の時期に言うことではないのかもしれませんが看過できなかったので記録しておきます。

危惧すること

「平時のムダが有事に役に立つ・武器」という主張が目にはいりました。

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4/11 追加

日本の人口あたりの集中治療病棟がイタリアの半分、独の6分の1しかない。さんざんDisってケチってきたんだからいまさら文句言うな!的なツイートも。いずれも多くの支持を集めているように見受けられました。

「文句言うな!」はそのとおりだと思いますが、これが「平時の無駄を削減(効率化)することを否定」する論拠になったりムードになるのは怖いと思いました。

理由は簡単です。平時に有事のピークにあわせた資源を維持するには莫大なコストが必要だからです。将来世代に負担を残すだけです。看過できません。

非効率な投資を正当化する口実とされてしまいます。危機は利権や影響力の拡大を狙う政治家、官僚にとっては絶好のチャンスです。(規制/規制団体=>天下りという構図) 「安全」という反対しづらい大義をつかって実現しようとします。そこにあるのは「私(欲)」であり公益にかなうものではありません。

ただし、有事に必要な資源が足りなくなってしまったのは確かです。救命に直結するので対応しなければいけません。平時にも有事にも対応できるそんな都合の良い方法はあるのでしょうか?

あります。実はIT業界ではこの問題をここ10年で解決済です。

「仮想化」と「クラウドコンピューティング」

IT業界はこの問題を解決済です。「仮想化」と「クラウド」です。

まず「仮想化」。例えば10台のサーバで動作していたアプリケーションを2台のサーバに集約します。
資源を共有することで、利用効率があがります。さらにサーバ台数が減ると、設置スペースも減り、サーバの保守に要するコストや周辺機材も減ります。素晴らしい。一大ムーブメントとなりました。

ただし、仮想化には、まだ以下の課題も残っていました。

事前見積作業が必要・・・サーバにどれくらいの性能・資源が必要かを見積もる。余裕を持つので過大になってしまう。将来の変化に追従できない。
機材の調達・設置に時間を要する・・・1ヶ月とか
仮想化できる人材が必要

この問題を解決したのが「クラウド・コンピューティング/Cloud Computing)」(以下、クラウド)です。

巨大なデータセンターに多数のサーバを配置します。ここまでは珍しくありません。大手企業であれば自社データセンターを持っています。
クラウドが単なるデータセンターでないのは、その資源をインターネット経由で利用したい企業やユーザに「オンデマンド/必要なときに必要なだけ」利用できるようにしたことです。

これは革命でした。このイノベーションを主導したのはAWS(Amazon Web Services)です。(この成功によりAmazonはテクノロジー企業としての地位を揺るぎないものとして一兆ドル企業になりました)

クラウドにより調達に1ヶ月を要したサーバをわずか「数分」で利用できるようになりました。また、「利用状況に応じて資源を増やしたり減らしたりできる」ので「事前見積」という非常に難しい作業も不要になりました。

さらに中小企業や個人では雇用が不可能な「世界レベルでみても極めて優秀」な「技術者」や「セキュリティ専門家」が設計したサービスを利用できます。

極めつけはこのような極めて価値あるサービスを「安く」利用できることです。安く提供できるのは規模の経済が働くためです。このためIT業界では雪崩をうってクラウド・コンピューティング対応がすすみました。

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アフターコロナ時代の医療資源の考え方

アフターコロナ時代の医療資源は前述したIT業界のイノベーションに学ぶべきです。

キーワードは「Elastic(伸縮性)」「所有から利用/シェアリング」「ICTフル活用(AI含む)」「規模の経済」といったあたりです。

今回の危機でも既に実現されたものもあります。

(ICT活用例)まもなく初診からのオンライン診療が可能になります。これはICT活用です。効率があがるのは間違いありません。通院に要する時間・お金、待ち時間、院内感染リスクもありません。

新型コロナでオンライン診療加速 薬の配送までネットで完結

(伸縮性)東京で溢れた人を周辺自治体で受け入れてもらっています。軽症患者用に宿泊施設を提供してもらうことも決定しました(宿泊施設にとっても収入になるのでメリットがある)。韓国では、いち早くテントに軽症者施設つくるとか、ウォークスルー施設つくって需要に対応しています。収束すればすべて撤去できます。平時からすべて用意しておく必要はないのです。(このオペレーションを柔軟かつ迅速に対応できるように法律や協定、仕組み・マニュアル、情報システム等を整備しておけばいのです。)

(規模の経済)CTとか高額な機材も各病院におかずに、どこかに1箇所に大量に設置するとどうでしょうか?規模の経済効果がはたらいて、調達、保守、運用に要する費用を劇的に下げられるかもしれません。技師は施設に常駐すること無く遠隔で対応できるのではないでしょうか?(素人なのでテキトーです。デジタルと違ってリアル/アナログな世界で難しいことは承知しています。アイデアの触媒として。)

また、昨年、私は医療系ビッグデータ活用プロジェクトのプロトタイプ開発に携わらせてもらっていました。このプロジェクトの目論みが実現できれば医療の質・効率が向上できます。が、プロトタイプ後に行き詰まりました。

問題は技術的問題ではないです。主に以下のようなものです。

・データのフォーマットがまちまちで名寄せが難しい
・個人情報の壁
・病院が手放したくない。囲い込みたい

以下の記事では「空き病床を探すのが一番たいへん」という保健所の声が紹介されています。現場で奮闘される職員のみなさまには敬意しかありませんが「それ電話でやってるんですか?検索システムないんですか?」と感じてしまいます。

■新型コロナ対策の隠れた最前線 保健所の悲鳴を聞いて
  https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-hokenjo
『私たちは探すためのシステムを持っていないので、片っ端から、個々に電話をするしかありません。~中略~ 区内で病院が見つからないと、多摩地域の病院まで送り届けたこともあります。断られながら一軒一軒当たっているのです。これがかなりの業務量になり、時間を使っているところ』

さらにもうひとつ。以下では厚労省のドタバタぶりが明らかになっていますが、ここでも「100人以上の職員がメールだけでタスク管理している」という驚くべき極めて非効率な業務のやり方を行っていることが読み取れます。

厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-mhlw
『コロナ対策本部があり、そこに常に100人程度が常駐している状態』
『メールで全部やっています。平時でメールは100通ぐらい来ます。さらに、今はさらに何百と膨れ上がっている人もいます。』

保険医療にはまだまだ無駄があります。(あとは教育とか政治とか)

危機は利権政治屋と天下り先を確保したい官僚の絶好のチャンス

「平時のムダが有事に役立つ」というような短絡的な考え方は危険です。政府が非効率な投資を行うことを正当化してしまいます。

たとえば東日本大震災後に「国土強靭化」という名目で莫大な税金が古い業界に投入されて自民党(特に前時代的な長老政治家)の利権・集票マシンとなりました。復興予算が被災地以外で流用されていたことが批判されましたが流れは変わりませんでした。

多くの住民が望まない巨大なコンクリートの塊(防潮堤)の建設が「命を守るため」という名目で強行され地域コミュニティの分断を招きました。被災地で続々と「箱モノ」が建設されました。

耐用期間を迎える30年・40年後に付加価値の低い莫大な維持コストいわば「負の遺産」として国民や地方に重くのしかかることが確実視されています。それこそ空家問題とは桁違いの負担感になるはずです。(被災地で活躍する若者に聞いてみてください。ほとんどの人から懸念する声が聞けると思います)

投資対象を間違えた結果

費用対効果の低い古い業界を温存して、ITやAIなどハイテクへの投資を軽視してきた結果が今回の危機で可視化されました。

韓国や台湾では徹底した情報公開とICTによる情報収集とビッグデータの活用、そこで得られた知見を迅速に通知することで感染を制御下におき、国民に安心を届けています。

台湾のコロナ対策が爆速である根本理由「閣僚に素人がいない」 ポストを実力本位で振り分けている

その一方、日本のCOVID-19対応の中心となっているクラスタ対策では、泥臭い作業を必要とするクラスタサーベイランス要員が枯渇・疲弊して戦略が遂行できなくなるのが見えてきた今頃になってICT利活用をいいはじめている残念な状況です…。

世界中で進行中のCOVID-19対応は、日本の劣化具合・後進性を容赦なく可視化してくれました。(誤解ないように申し上げておきますが、現場で治療にあたる保健医療従事者のみなさまには感謝と尊敬しかありません。人的資源への投資~待遇向上と環境整備~は賛成です)

最後に

繰り返しになりますが「平時のムダが有事に役立つ」というような短絡的な考え方は危険です。政府が非効率な投資を行うことを正当化してしまいます。

「安全」を理由に何かを要求されると、反対するのが難しくなります。「危機」は古い政治家の利権と官僚の天下り先を増やす絶好の口実となります。同じ過ちを繰り返してはいけません。非効率な投資を許してはいけません。

これ以上、将来世代に負債を残してはいけません!

利権に阻まれてすすまなかった「初診からのオンライン診療」が「その気になればすぐにもできること」も可視化してくれました。

技術的な問題はないのに既得権益層や変化を拒む声の大きな古い世代にはばまれて改善されない非効率は無数に存在します。これは医療だけでなく教育、政治にも言えることです。

「有事に必要なピーク資源」を平時から維持しておく必要はありません。
IT業界を劇的に変えた「クラウド・コンピューティング」からそのヒントが得られると思います。

今度こそ、賢く備えて欲しいものです。

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