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異次元旅行の映画たち(2)

前回に続き、電影と少年CQの曲の題材となった映画を解説していきます。(全3回)

★『タイムトラベル(モンキー)ビジネス』

題材映画:『12モンキーズ』(1995/アメリカ作品/テリー・ギリアム監督)
作曲:yellosuburb / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:Rikako / MV監督:小川賢人

MVはこちらをクリック

電影と少年CQはMC代わりに芝居で曲間をつなぐライブスタイルが多いですが、芝居に使いやすい曲が一つくらい欲しいなと思いyellowsuburbさんと作り上げた曲が『12モンキーズ』(やその元ネタ『ラ・ジュテ』(1962/クリス・マルケル監督))を題材とした『タイムトラベル(モンキー)ビジネス』です。
『12モンキーズ』の監督テリー・ギリアムはイギリスのコント集団モンティ・パイソンのメンバーであり、電少の題材映画候補には常にモンティ・パイソンの映画が並んでいるほど長田は大ファンなのですが、モンティ・パイソンの真似をすると大体スベる。
この『12モンキーズ』は基本的にコメディではありませんが、モンティ・パイソンのユーモアのエッセンスが詰まった作品であると思い、題材映画にこれを選びました。
時間旅行モノの作品に普遍的に存在するのは、クールで残酷で正確でカミサマみたいな“時”という概念と人間の信念の対決だと思います。時に翻弄される人間が持つちっぽけな信念(それは例えば愛だったり憎しみだったり正義だったり)を貫く物語。そういうのをこの曲で表現すべくyellowsuburbさんには散々苦労をかけました。
他にも曲中には『12モンキーズ』が持っている奇妙なユーモア、『ラ・ジュテ』やモンティ・パイソンのネタも散りばめております。
映画冒頭の雪に埋もれたシカゴを猛獣たちが闊歩するシュールで哀しくて壮大なシーンを基本的にイメージしております。お気に入りは終盤でサルをはじめとした猛獣の鳴き声がこっそり聞こえてくるところ。悠久なる時を前にして人間なんてサルと一緒であるという哀しさが現れているんじゃないかと。

★『s.f.草双紙』

題材映画:『AKIRA』(1988年/日本作品/大友克洋監督)
作曲:吉良ナム / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:Rikako

日本のアニメ映画の代表的な作品。30年経ったいまでもカルトなファンを増やし続ける伝説的な映画です。
この時点で日本映画題材が一つもなかったため、何か欲しいなと思い、作曲家の吉良ナムさんと作った曲です。
電影と少年CQとしては珍しい、他のロック系アイドルグループがやってもおかしくない、わかりやすく攻撃的な曲なのではないかと。

電影と少年CQの最大の弱点は『ROOKIES』的な熱血ヤンキー臭さがないことだと思っており、アクション映画やスポ根映画を題材
とした曲が作れません。言い換えると単純な攻撃性がある映画が苦手。
題材映画となった『AKIRA』やその原作漫画にも目を覆うような残酷な攻撃性があります。けれどそこに哀しみが必ずつきまとう。敵役の鉄男が超能力を使用して主人公の金田たちを攻撃するとき、そこに哀しみが必ずある。一つ一つの攻撃に正義が単純には存在しない。
また『AKIRA』は1988年という時期に作られた作品です。それは物質的に豊かになるだけで、どんどん息苦しくなっていく時代。少年たちはやがて超自然的な暴力と薬物などに依存していき、哀しく破滅していく(まるでオウム真理教のように)。
危険極まりない破天荒な暴力を振るう不良少年たちが、やがて暴力につきまとう哀しみという代償を知っていく物語として『AKIRA』を読み取るならば、これは電少がやっても構わない“攻撃性”だと思います。

★『雨月物語』

題材映画:『雨月物語』(1953年/日本作品/溝口健二監督)
作曲:yellowsuburb / 作詞:長田左右吉 /ダンス振付:宇佐蔵べに(亞卍Qヴァージョン)・Rikako(電少ヴァージョン)

まずあヴぁんだんどさんとコラボユニット亞卍Qを作ろうという計画があり、最初に思いついたのがあヴぁんだんどの名曲『西鶴一代女』のカヴァーだったのですが、カヴァーするより新曲として何か作った方がCDを出すときに権利関係とか単純化されて良いということになり、急遽作ることになった曲です。
あヴぁの小鳥こたおさんが受験間近ということもあり兎に角時間がなかったので、アンサーソングとして『西鶴一代女』を組み立て直そうというところから曲作りがスタートしています。
なので『西鶴一代女』と同じ溝口健二監督作品の『雨月物語』が題材映画として選ばれました。
『雨月物語』の中でも個人的に印象に残るのは、なんと言っても京マチ子の存在感。
京マチ子演じる女幽霊の美しさ、色気、幼さ、狂気、恐ろしさ、哀しみ、怒り、愛、したたかさ、浅ましさ、醜さーーそういったものが全てその演技に含まれていると思います。
亞卍Qならびに電影と少年CQの『雨月物語』はそういった女幽霊の豊かな表情を押し込めた楽曲にしたつもりです。

★『Strange Lovers』

題材映画:『博士の異常な愛情 また私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964年/イギリス・アメリカ作品/スタンリー・キューブリック監督)
作曲:久徳亮 / 作詞:長田左右吉 / ダンス振付:宇佐蔵べに(亞卍Qヴァージョン)・Rikako(電少ヴァージョン)

前述の亞卍Qのデビューライブには最低でも2曲オリジナル曲が欲しく、たまにいくバーのマスターに相談したらその場で紹介された久徳亮さんがキューブリック作品モチーフをやりたいとおっしゃって、『博士の異常な愛情』モチーフの曲を久徳さんと作ることになりました。
亞卍Qのテーマはエロスです。エロスといってももちろんアダルトビデオ的な直接的なエロではもちろんなく、洒落たエロス。そして『博士の異常な愛情』という核兵器の恐怖をブラックコメディで描いた映画は、どこかにセクシーさを隠した作品であると思います。
「死」とか「破滅」って概念は生物が無生物へと変化していく背徳的なエロスを内包していて、そんな死や破滅を、この映画のようにニヒルに笑い飛ばすのはちょっぴりセクシーな行為なのではないかと。
色気あるユッキュンにピーター・セラーズ扮するマッドサイエンティストを演じてもらい、ルアン、宇佐蔵べに、小鳥こたおの3人に水爆を演じてもらい、水爆を無闇に愛してしまった悪の科学者のエロティックなラブソングを作りました。
ナンセンスな言葉の繋がりを色気出して歌うのが『博士の異常な愛情』っぽくてお気に入りの歌です。