見出し画像

小説「若起強装アウェイガー」第4話「強襲!白の館」

亜衣は白の館に戻っていた。父親であるドクターホワイトこと白河博士を説得し、政府転覆をやめさせるためだ。
廃病院を転用した白の館。白河博士はここでアウェイガーに関する研究を続けてきた。
亜衣「父さんの計画は荒唐無稽です。国会議員を皆殺しだなんて……そんなバカげたことを」

白河「アウェイガーの強さは、ずっとワシの助手をしてきたお前なら知っているだろう。アウェイガー数人で、数百人を殺すことができる。欲ボケの老害国会議員どもを全員殺せば補欠選挙が行われ、新しい政治家たちの政権ができる。実に民主的な革命ではないか」
亜衣「何百人も殺して、何が?!」

白河「いいか。この白の館に来てアウェイガーになった者たちは、無能な政治と冷淡な社会の犠牲者なのだ。就職氷河期世代でブラック企業に勤めざるを得ず心身を病んだ者。社会に適合できず引きこもり親に捨てられた者。貧困の蟻地獄に落ちホームレスになった者。みなこの白の館で新しい人生を得たのだ」

いくらアウェイガーが圧倒的な強さでも、国会議員数百人を皆殺しにするにはある程度の人数が必要だ。そのため、若起が可能になった者は、やはり社会に捨てられたような人間を“スカウト”し仲間を増やした。バインダーとカードを得てアウェイガーになった者は、自信と生きる気力を取り戻すことができた。

亜衣「人殺しが新しい人生ですか!」
白河「世直しだよ。この国の為政者たちは金と権力でガチガチに保身し、国や国民のことなど考えなくなっている。結果、社会は階層化し、活力は失われ、外国に周回遅れにされてしまった。これでは、今太閤の出てくる余地はない。ワシは若者に希望を与えたいのだよ」

取り付く島もない。
亜衣「治英を、どうするんですか」
何か話の取っ掛かりが欲しくて、亜衣は話題を変えた。亜衣にとって、治英はそういう存在だ。
治英はこの廃病院の一室に拘束具を着けられ監禁されている。たとえバインダー無しで若起できたとしても、動けなければ何もできないと判断されたのだ。

白河「ン……あれは興味深い。遺伝子をじっくり解析せんとな。どうやらネコ科の猛獣の力に目覚めたようだが。バインダーもカードも無しで若起とは、通常はありえん。やはり突然変異か……」
その時、廃病院が大きく揺れ、入口の方が騒がしくなった。見張りに立ってるアウェイガーらの悲鳴も聞こえる。

亜衣は白河と話してた院長室を出て、ロビーに向かう。
ロビーでは何人ものアウェイガーが謎の侵入者と戦っており、その中に勇もいる。だか他の者はほぼ倒されていた。
相手は西洋人の男二人。トリアと同じような服装をしている。 CIAか。あいつの仲間か。
亜衣は治英のいる病室へ向かい走る。

病室で、亜衣は治英の拘束を解き、バインダーブレスと治英のゲノムカードを渡す。
亜衣「CIAが襲ってきたの!急いで」
それだけ言うと亜衣は急いで病室を出た。
ひとりになった治英はしばし考える。なんで俺は戦わなきゃなんだ。トリアはアウェイガーじゃなかった。あのまま死んだんじゃないのか。

そもそも、亜衣と治英はなんの関係もないのに、恐ろしい相手と戦い、痛い目して、助けてって言うから助けたのに、感謝の一言も無くこんなところに閉じ込められて拘束されるなんてひどい話だ。
何もかも投げ出して逃げたい。本当は仕事だってそうすればよかったんだ。そしたら自殺なんて考えなかった。

治英「でも……」
今、亜衣は戦ってるのだろう。守りたい。彼女を守ってカッコいいところを見せて感謝されたい。そして……。
中年男が女子高生をこんなふうに想うのは気持ちの悪いことなんだろう。でも、心が動いてしまったんだ。こんな自分を頼ってくれた彼女に。
下心と呼びたければ呼ぶがいい。

治英はバインダーブレスを左手首に着け、自分のゲノムカードを挟む。
どうせ死んでも悲しむ人などいない。なら、自分の好きな人のためにやりたいことをやろう。自分を頼ってくれる人のために、この命を使おう。
治英「若起!」
強装に覆われた姿で、治英は戦ってる音がするロビーへ急いだ。

ロビーでは亜衣と勇が二人のCIAと戦っている。
治英はそこに割って入りパンチをしかけた。だが一人は素早く攻撃をかわし、もう一人はしっかりガードをした。
アジーン「フフフ……このアジーンにとってはそのパンチ、蚊にくわれたほどにしか感じぬぞ、小僧」
治英は自分が若返ってることを思い出した。

治英が攻撃をしたことでできた間隙を縫って、勇はもう一人のCIAに猛スピードの体当たりをしかける。
勇「『猪突猛進』!」
しかしこれもかわされる。勇は素早く逃げた相手に蹴りを入れるが、それもまたかわされる。
イスナーニ「それで速いつもりか。このイスナーニにスピードでは誰も勝てんよ」

亜衣「勇、ここは私たちが食い止めるから、父を、博士を安全な所へ」
勇「おう、そうだな」
院長室に向かっていく勇にCIAの二人が攻撃をかけようとする。
亜衣「トリアを倒したのは私たちよ。かたきを討ちたくないの」
驚いた治英は、あわてて叫んだ。
治英「トリアを殺したのは、この俺だ!」

治英にとっては覚悟の叫び。自分が人殺しだと認め、宣言したのだ。
亜衣と治英の言葉を聞いたアジーンとイスナーニは動きを止める。
アジーン「そうか。わざわざ名乗るとはたいした度胸だ」
イスナーニ「ジャパニーズのナニワブシに興味はないが、トリアを殺したと知っては見逃すわけにもいかんな」

イスナーニが亜衣に対し素早く攻撃をはじめた。亜衣は若起しており、鳥の高い視覚能力を得ているはずだが、その亜衣でも動きがつかめないほど素早く動き、ナックルダスターを着けた拳で一ヶ所を正確に殴りつけてくる。亜衣は宙を舞ってかわそうとするもその前にイスナーニの拳が命中する。

亜衣「こいつ、一発一発はそれほど威力はないが、こうも正確に一ヶ所を攻撃されるとじわじわと効いてくる。まさに雨垂れ石を穿つといったところか」
イスナーニ「フフフ、どうやら私のスピードについてこれないようですね。それも当然。私はあらゆる技術を使い人間のスピードを超越してるのですから」

一方、治英の前にはアジーンが立ちはだかる。CIAの二人は似たような背格好だった。だが、いかにも線の細いイスナーニに対し、アジーンは筋肉の塊のようで、治英には実際の体格より大きく見えた。
治英「クッ、隙がない……まるで壁だ」
アジーン「どうした小僧。来なければこちらから行くぞ!」

大きいモーションで殴りかかってきたアジーンを、治英は俊敏性を活かしてかわす。アジーンもまたナックルダスターを着けており、振り下ろした拳は床にめり込んでいた。
治英「なんてパワーだ。いくらアウェイガーに強い自己治癒力が備わってても、あんなんで頭砕かれたら死ぬんじゃないだろうか」

治英は攻撃に転じる。相手を撹乱するように素早く動き、腹へのパンチを直撃させた。だが……!
アジーン「言ったはずだ。お前らの攻撃など蚊に刺された程度のものだ」
再びアジーンの拳が治英を襲う。動きが大きいのでかわせているが、一瞬でも相手の動きを読み違えたら、おそらく一撃で即死だ。

亜衣は焦っていた。敵の攻撃で確実にダメージをくらっているのに、こちらの攻撃が当たらない。
イスナーニ「そろそろ倒れたらどうですか。楽にしてあげますよ」
どうにか突破口を開かねば!
亜衣「『フライングフィン』!」
全ての羽根でどんなスピードでも逃げられない広範囲を攻撃した。

イスナーニ「チッ!」
無数の羽根攻撃を受けたイスナーニは逃げ場なく動きを止めた。
亜衣「今だ!」
飛翔能力を失った亜衣であったが、体をねじらせながら跳び、キックの体勢となり、脚部の強装にある蹴爪を使って、無数の蹴りをイスナーニに浴びせる。
亜衣「『ガリフォルメビリオンショック』!」

その衝撃でイスナーニは吹っ飛び、全身から血を流し倒れる。
亜衣「……やった!」
そこに油断ができた。イスナーニは素早く立ち上がると、それこそ亜衣に見えぬほどのスピードで今までの攻撃と同じ箇所にとどめとも言える拳をぶち込む。
亜衣「ガッ!」
今度は血を吐いた亜衣がその場に倒れた。

イスナーニ「フフフ……私の身体能力はスピードに特化しており、攻撃力は決して強くない。だから正確に一ヶ所を狙うことでそれを補っているのだ。それと、このコークスクリュー。非力でも大ダメージを与えられる。私にコークスクリューを使わせた敵は君がはじめてだ。称賛に値するよ」

治英「(亜衣さん!)」
亜衣が倒されたことに気を取られた治英を、アジーンは見逃さなかった。ハンマーのような強力な攻撃で治英の体を大きく飛ばし、床に叩きつけた。
その治英を繰り返し蹴りつけるアジーン。スピード重視のイスナーニと違い、アジーンは靴にもスタッドを仕込んで武器としていた。

アジーン「オラ!オラ!オラ!」
ガッ!ガッ!ガッ!
絞られたレモン汁のように、何度も血を吐く治英。
イスナーニ「そっちは終わりそうか」
アジーン「ああ。もう終わる」
とどめとばかりにアジーンは治英を踏みつけグリグリしはじめる。アジーンの靴と床に挟まれて治英の体はちぎれんばかりだ。

その時、縞縞シャツに白い半ズボンというラガーマンのような体格の良い男が突然アジーンにタックルをし、床にねじ伏せた。
突然の出来事に、アジーンもイスナーニも一瞬戸惑う。
治英「(うぅ……亜衣さん!)」
この隙に治英は立ち上がった。少し遠くだが真正面にイスナーニが見える。

今だ!
治英「『ダイナマイトフィストー!』」
倒されていたアウェイガーたちや自身の強装のチリによる粉塵爆発で推力を得た治英のパンチが猛烈な勢いでイスナーニに向かう!
イスナーニがそのスピードでかわそうとした瞬間、倒れていた亜衣は落ちていた羽根を拾い、イスナーニのアキレス腱に投げた。

イスナーニ「痛ッ!?」
動けないことにイスナーニが戸惑っているうちに、治英のダイナマイトフィストが命中した。距離があったので威力は落ちたが、それでも防御に弱いイスナーニは吹っ飛び、壁に打ち付けられ、床に倒れた。
アジーン「イスナーニ!」
助けに行こうとするが、ラガーマンが離さない。

ラガーマンはタックルした姿勢のままアジーンの胴を締め付けている。防御力を強化してるはずのアジーンも苦しみだすほどのパワーだ。
アジーン「グッ……CIAを、なめるな!」
そういうと、ラガーマンとアジーンの間で何かが爆発し、ラガーマンは吹き飛ばされた。アジーンにたいしたダメージはない。

自らのボディに仕込んだ爆発物の威力で攻撃を弾き飛ばす。爆発反応装甲の一種だ。これでアジーンはラガーマンから離れた。自らも多少は傷つくが、肉体を強化しているアジーンにとってたいした問題ではない。
アジーンはイスナーニを連れ急いで去った。イスナーニの手当てが先だと考えたからだ。

治英は亜衣を手助けしようと駆け寄ったが、それを拒否するように亜衣は自力で立ち上がる。二人はラガーマンに戸惑いの視線を向けた。
ラガーマンが言う。
蒼狼丸「俺の名は蒼狼丸[セイロウマル]。黒の館の人間だ。ドクターホワイトに用があって来たのだが、CIAの方が早かったか」
亜衣「黒の館って?」

治英「(亜衣さんにも知らないことがあるのか……)」
蒼狼丸「お前は?」
亜衣「博士の娘よ。黒の館って名前ははじめて聞いたわ」
蒼狼丸「そうか……博士に話があってきたのだがな」
勇「博士には安全な所へ避難してもらった。話なら俺が取り次ぐ」
博士を避難させた勇が戻ってきた。

勇「どこの誰だかわからん奴を博士に直接会わせるわけにはいかん」
治英「でも、俺たちこの人のおかげで助かっ……」
勇「お前は黙っていろ」
蒼狼丸「ふん……そういうことならやむを得ん。CIAの動きが予想以上に早い。俺も黒の館へ戻らねば。博士には、黒の館の人間が話があると伝えてくれ」

亜衣「ねえ!あなたCIAが私たちを襲うって知ってたの?」
蒼狼丸「博士に訊け。黒の館のこともな」
そういうと蒼狼丸は立ち去った。
勇「我々も邪魔が入らんうちに計画を進めねば。俺は第2陣で出る」
亜衣「第2陣?」
勇「第1陣はすでに出たということだ」
ドクターホワイトの政府転覆計画が始動した。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?