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小説「若起強装アウェイガー」第7話「悲愴!愛と憎しみの戦い」

治英と亜衣、勇、そして白河博士は白の館へ戻っていた。博士はあらためて三人に説明した。黒の館の黒田博士はかつて自分と軍で人間改造の研究をしており、その後黒田博士は天皇家乗っ取りを企てる一派の支援を受け研究を続けたこと。そして白河博士自身もCIAの支援を受け研究を続けていたこと。

白河「だが研究が……すなわちアウェイガーの技術が完成すると、CIAは支援を打ち切り、この白の館へ攻め入ってきた。秘密を知る私が邪魔になったのだろう」
亜衣「そんな……」
白河「黒の館にしたってそうだ。ナチスみたいな研究をアメリカが支援してたなどと明るみになっては大変なことになる」

勇「証拠隠滅か……」
亜衣「慧を使って技術だけ回収しようとしたのね」
白河「そうだな。そして、このような恐るべき技術が日本に存在すること自体、アメリカにとっては避けねばならんことだ。日本をこれからも隷属させるために」
治英「もうこんなのたくさんだ!」
急に大声を出したのは治英。

治英「なんなんだ、どいつもこいつもわけわかんない小難しい話ばっかりで、戦うのなんだの。なんで今のままじゃいけないんだ、みんな平和に暮らしてる。それでいいじゃないか!」
勇「そうやってお前は、その歳になるまで現実から逃げて生きてきたのか」
二人は中年男同士である。

治英「なんだ偉そうに。俺だって自分なりに必死に生きてきたんだ」
勇「そうだ。みんな自分なりに必死に生きてきた。それでも社会に捨てられたのが俺たちだ。俺はこの白の館に来て、ようやく生きる意味を見つけられた」
治英「それが大量虐殺かよ」

勇「この国の未来のためだ。世襲と既得権という悪の連鎖を断ち切るには、誰かが罪を背負わねばならんのだ」
治英「世直しのつもりかよ。そんなの、間違ってる……!」
それ以上言葉が出ない治英。
亜衣「私は治英と同じ考えよ。どうしてもというなら、私はあなたを倒すわ。父さん」

博士は目を閉じ、深く息を吐いた。
勇「もう止まらん。新たに数名のアウェイガーを派遣した。国会議員皆殺しは時間の問題だ」
亜衣「なんですって!」
勇「もう邪魔はさせんぞ。お前たち、ここから動くなら俺が倒す。お前たちは俺と一緒に博士をCIAから守るのだ。異存はあるまい」

亜衣「治英、東京行きの連中を追って!」
治英を守るように勇の前に立ちはだかる亜衣。
勇「行かせんと言っている!」
亜衣「なら私を倒しなさい。あなたにできて?博士の前で」
勇「ぐぅっ……!」
自分の今までしてきたことを呪うように歯ぎしりをする博士。
博士「これが、因果かっ……!」

白の館を出て、東京へ向かうアウェイガーらを追いかけるべく、駅に向かい走りだす治英。
治英は、亜衣が自分と同じ考えだと言ってくれたことがうれしかった。その言葉は治英にとって、亜衣から信じられ頼られているという証。
今はそれが生きるよすがであり、治英が戦うたったひとつの理由だった。

黒の館では、牛若丸から天子様の御動座という言葉が出た。それは、天子様とその兵隊が─すなわち蒼狼丸も白鹿丸も─皇居に攻め入って三種の神器を奪うということを意味する。今、天皇として皇居にいる一族は皇統にあらず、というのが、彼らが天子様と呼ぶ一派の言い分だ。

曰く、江戸時代最後の天皇こと孝明天皇は長州藩を嫌悪していた。それゆえ長州藩は次の天皇となるはずの睦仁親王を自らの息のかかった人間とすり替え、孝明天皇を暗殺し明治天皇として即位させたというのだ。だからこそ明治新政府より現代に至るまで、政権の中枢に長州山口の人間がいるのだと。

自分たちが担ぐ天子様こそ、孝明天皇の血を引く真の皇統であるとして、力づくでも皇居と三種の神器を奪い取り、天皇親政を復活させたい。ゆえにドクターブラックの研究を支援してきたという。
その研究で生み出された純良種[カタロスポロス]が、天子様に協力しないなどというのは許されない、と。

蒼狼丸と白鹿丸は父と慕うドクターブラックからそのような話を聞いて育ったから、いつの日か天子様のために戦うのは当然だと思ってた。しかしそのドクターブラックから、お前たちの好きなように生きよと言われ、動揺するなと言う方が無理だった。よもやドクターブラックからそのような言葉が出るとは。

だが二人とも天子様の顔も見たことない。思えば、牛若丸の言う天子様が本当に孝明天皇の血を引いているのか証明することはできるのだろうか。DNA鑑定など今さらやりようもない。
そんな、どこの誰だかわからない人間より、ずっと育ててくれたドクターブラックの言葉のほうが、二人にとっては重かった。

蒼狼丸「なるほど。確かに俺たちは天子様の兵隊として生まれ、育てられた。だが牛若丸、お前の兵隊になった覚えはない。俺の人生は俺が決める。誰の言うことを聞くかもだ」
牛若丸「フッ……。ドクターブラックの功績があればこそ、お前たちを天子様の兵隊にしてやってもよいと思うていたが……」

蒼狼丸「だったら、どうする?」
牛若丸「力づくでも」
蒼狼丸「そうかい!」
白鹿丸「蒼狼丸、いかん!」
制止する白鹿丸を振り切り牛若丸へ攻撃をかける蒼狼丸。だが牛若丸は横笛を吹きはじめ、床の上をスーッと滑るように動き、蒼狼丸の攻撃を難なくかわしつづける。笛の音は聞こえない。

蒼狼丸「一体、どうなってるんだ。幽霊みたいにスイスイ動いて、まるでつかみどころがない」
白鹿丸「あれは超音波だ。笛から発する超音波で体をわずかに浮かせ移動しているんだ」
牛若丸「そうか。白鹿丸、君はサングラスで視力を抑え他の感覚を鋭敏にしているから、ボクの笛のこともわかったのか」

白鹿丸「肉体を使って移動しているわけではないから、筋肉の動きで移動を予測することもできない……」
牛若丸「そのとおり。まして蒼狼丸、君のような直線的な攻撃では、ボクをとらえられないよ」
蒼狼丸「ヘッ。そうやって逃げ回ってるだけかよ。俺を腕づくで言うこと聞かせるんじゃなかったのか」

牛若丸「お望みとあらば」
そう言って牛若丸が横笛をひと吹きすると、強烈な衝撃波が蒼狼丸を襲い、その巨体は大きく後ろに弾き飛ばされた。ズサーッ。
白鹿丸は反射的に牛若丸の手元に気流攻撃を2発しかける。しかし何かが大きくはじける音がパァン!パァン!としただけで、牛若丸は平然としていた。

白鹿丸「空気の壁かッ!」
牛若丸「さすが気流攻撃を使う者だ。理解が早い」
倒れた蒼狼丸にかけよる白鹿丸。
白鹿丸「大丈夫か!」
蒼狼丸「心配ない……クッ!」
牛若丸「これでボクの言うことを聞く気になったかな」
蒼狼丸も白鹿丸も、全く言葉を失っていた。

牛若丸「わかったら、まず白の館を滅ぼしてくれ」
白鹿丸「白の館?!」
牛若丸「そうだ。彼らは我らの障害となる。早めに潰さねばならん」
蒼狼丸「CIAは、どうするんだ!」
牛若丸「ボクに任せてほしい。博士がここにいれば、ほうってもいてもCIAはここにやってくるだろうからね」

蒼狼丸「キサマ、博士をオトリに使うつもりか!」
牛若丸「探す手間がはぶけていいじゃないか。ボクの強さは、たった今身をもってわかったろう。博士の安全については心配しなくていいよ……フッ」
博士はただ黙って、諦めの表情をうかべていた。
蒼狼丸と牛若丸は、何も言わずに黒の館を出た。

白の館を出て東京へ向かうアウェイガーを追いかける治英。だが走ってるうちに膝がガクっとなって急に全身の力が抜けてきた。今すぐにでも横になりたいくらいだ。
治英「やっぱ歳なのか……亜衣さんには止められたけど、追いかけなきゃ」
若起する治英。心身ともに若返りまたすぐ走り出した。

元よりネコ科の動物すなわちチーターやジャガーやヒョウといった動物の遺伝子に目覚めた治英。若起すれば足は速い。たちまち先行するアウェイガーたちに追いついた。3人。手首にバインダーブレスをしている。間違いない。
治英「待て!お前らっ」
そう叫んだ時、治英の体は激しい衝撃に襲われた。

治英「グハッ!」
ズサッ!たまらず倒れる治英。
3人は気づかないテイで去っていく。
治英「何だ?!」
何もないところから足音が聞こえてくる。そして治英の眼前に急にアウェイガーが現れた。若起した絵須である。亜衣を恋敵として狙いっていた、あの絵須である。
絵須「フンッ、今日はひとりかい」

カメレオンの遺伝子に目覚めた絵須は姿を隠し治英を攻撃したのだった。
絵須「眉井の仇だ、死ねっ!」
右手首から伸びる強装でできた鞭で治英を襲う絵須。すんでのところでかわす治英。
治英「仇って、じゃあ……」
絵須「ああ、眉井は死んだ。お前が殺した!」
恨みに満ちた眼で攻撃する絵須。

眉井は絵須とともに治英たちと戦ったアウェイガー。カエルの遺伝子に目覚めており、ジャンプ攻撃で治英を苦しめた。亜衣と治英の攻撃を受けて重傷を負ったが、絵須が謙信の隠し湯へ連れて行った……と治英は思っていたのだが。
治英「アウェイガーは、簡単には死ねないんじゃないのか?!」

絵須「あの女がそう言ったのかい?!ふざけやがって。アウェイガーは不死身じゃない。血液の半分を失ったら死んでしまうのは普通の人間と変わらないよ!」
なんということだ。また人を殺してしまったのか。そう、治英の心が揺れても、絵須の攻撃はやまない。
ビシィッ!バシッ!ガッッ!

なんとか攻撃を防ごうとするも鞭に腕をとられ、逆に動きを封じられてしまう。
絵須「苦しんで死ね!『ショックウェーブ』!」
右手首から伸びる鞭状の強装を左手で振動させ、電気ショックにも等しい衝撃を与える攻撃。
治英「ガァアッッ!」
感電したように全身に衝撃を受けた治英はその場に倒れる。

バザッ!
激痛としびれで体が言うことをきかず倒れたままの治英。絵須はその上に乗り、治英の首に鞭を巻きつけ締めはじめた。
絵須「なぜ殺した。眉井はアタシと出会って、白の館へ来て、ようやく生きる意味を見つけたんだぞ。アタシだってそうさ。眉井がアタシを頼ってくれるのがうれしかったんだ」

治英「(それは……俺だって……)」
絵須「アタシも眉井も、白の館へ来るまでは何のために生きてるのかわからなかった。生まれてこなければ良かったって何度も思ったさ。白の館の連中はみんなそうだ。家族や社会に捨てられ、役立たずと呼ばれ、自分は要らない人間なんだって思ったさ!」

治英「(俺と……同じだ……)」
絵須「だけど白の館へ来て、アウェイガーになって新しい力を得て、ようやく生きる意味を感じることができた。眉井と出会って、お互いに頼り合って助け合って生きる相手と思えた。天涯孤独だった眉井は本当にアタシを信じ頼ってくれた。その眉井をお前が殺した!」

鞭がさらに強く治英の首を絞める。
治英「(嗚呼、俺は……アウェイガーになって人殺ししかしていない……ホントは自分が死ぬはずだったのに……待ってる家族も無く、愛してくれる女性[ヒト]も無く、仕事もできず、誰の役にも立てない社会の落ちこぼれ……俺こそ死ぬべきだったんだ……)」

首の鞭に手をかけ抵抗していた治英だが、その力がどんどん弱まっていく。
治英「(やはり俺はあの夜電車にはねられて死んでればよかったんだ……そしたら誰も殺さずに済んだ……でも亜衣さんと出会って……亜衣さんを守りたくて……女性に信じられ頼られたのなんてはじめてだったから……)」

絵須「そろそろ死ね!」
鞭を締める絵須の手に一段と力が入る。
治英「(そうだ……俺は亜衣さんの役に立ちたくて生きてるんだ……いつか笑顔を見せてくれるって……いつかこの手をとってくれるって……亜衣さんが俺を必要としてくれるなら……生きて、戦う!亜衣さんのために!)」

首に巻かれた鞭を握り直すと、治英は力を振り絞った。
治英「グォオオオオ!」
鞭を握る治英の腕関節に火花がバチバチとはしる。それは治英のふんばりとともに全身に広がり、治英は鞭を引きちぎった。絵須が最初に治英と戦ったときと同じだった。
絵須「クッ……死にぞこないのくせに!」

体を離し間合いを取る絵須。強装の鞭は次々に生えてくる。
絵須「これでどうだーッ!」
トグロを巻くように回転した鞭が治英に向かっていく。逃げても向かっていっても鞭に絡まれる陣形だ。
ならば!
治英「『ダイヤモンドフィストー!』」
絵須との戦いの間に強装がチリとなって浮遊していたのだ。

ダイヤモンドフィストにより治英の拳は爆発力を推進力に変え絵須に向かっていく。鞭を砕き、絵須の胸に直撃する。そのダメージは体を貫き、背中にも傷を与え出血した。絵須の強装は砕け砂となり崩れ落ち、絵須自身もその場に倒れた。治英が戦いに慣れたためか、勇の時よりも出血が激しかった。

倒れた絵須の姿に、治英はその出血量の多さに驚く。
治英「い、今救急車を!」
絵須「バカ……医者にアウェイガーの体……診せられるかよ」
治英「じゃあ、隠し湯へ……」
絵須「この出血じゃ……間に合わないよ……眉井の時と同じだからわかる……」
消え入りそうな声で絵須が話す。

自分のバインダーブレスからゲノムカードを抜き取る絵須。
絵須「たのむ……こいつをどこかに捨てておいてくれ……もう戦いとか……こりごりだ……」
カードを受け取り、頷く治英。
絵須「眉井……今、行くよ……」
それが絵須の最後の言葉だった。
治英は、また人を殺してしまったことを悔やんだ。

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