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子供用発表会曲の定番?~ショスタコーヴィチのピアノ曲《アクロバット》の謎

X/Twitterで「ショスタコーヴィチのピアノ曲《アクロバット》の元ネタが分からない」というポストを見かけた。
「ショスタコーヴィチにこんな曲名のピアノ曲はないはずだが」と思ってユーチューブで"shostakovich acrobat"と検索すると、小学校低学年から高学年まで、子供が発表会やコンクールでピアノを演奏する動画がいくつも出てくる。
どうやら、これは日本独特らしく、英語で検索しているのに海外の動画は出てこない。

そして何故か、子供の発表会やコンクールの動画か、音楽教室の講師による演奏くらいしか出てこないのも謎で、とりあえずプロ演奏家(レッスン・プロではない)と思われるピアニストによる演奏がこちら。

そこで実際に聴いてみると、何のことはない、イントロ部分だけで何の曲か分かった。

この曲の元曲は《バレエ組曲》第3番の3曲目「ダンス(舞曲)」だった。

しかし、話はそれで終わりではない。
ショスタコーヴィチの《バレエ組曲》は第1番から第4番まである。俗にバレエ《ボルト》組曲が第5番と呼ばれることもあるが、それはまた別で。

だが、この組曲は、ショスタコーヴィチ自身によって制作されたものではなく、レヴォン・アトヴミヤン(1901~1973)という人物によって、ショスタコーヴィチの既存の楽曲から再構成・編曲されたものである。

アトヴミヤンについては別項を設けたいと思うが、戦前からのショスタコーヴィチの友人であり、彼の代表的な仕事は1950年代後半に出版されたプロコフィエフ全集の編集責任者で、プロコフィエフ作品の編曲もいくつか手掛けており、IMSLPでその楽譜を見ることも出来る。

ショスタコーヴィチとは、1931年2月、全ロシア演劇委員会評議会の幹部として、その総会でショスタコーヴィチとともにRAPM(ロシア・プロレタリア音楽家協会)を批判したことで知己を得た。

その後、アトヴミヤンはショスタコーヴィチの映画音楽の組曲など様々な編曲を手掛け、最近NHK交響楽団が定期演奏会で取り上げて話題となった《ステージ・オーケストラのための組曲》(第1番)を作成したのも彼である。

中でも、1949年から1953年にかけて作られた、前出の《バレエ組曲》第1番~第4番は、いくつも録音され、交響曲や弦楽四重奏曲での厳しいショスタコーヴィチの音楽のイメージを払拭してきた。

という訳で、ショスタコーヴィチの《アクロバット》の元ネタには、さらにその元ネタがある。

では、その《バレエ組曲》第3番の3曲目「ダンス」の元ネタは?というと、1930年代初頭に初演されたバレエ音楽《明るい小川》の35曲目、第2幕のフィナーレ/コーダ(Presto)である。
とはいえ、曲の構造やオーケストレーションは《バレエ組曲》とはかなり異なっており、音楽は二転三転していくので、これは「元ネタ」とはさすがに言えない。

ちなみに、中間部で転調される箇所は分割され、《バレエ組曲》の他の曲に利用されている。

ショスタコーヴィチには《人形の踊り》や《子供の音楽帳》という子供用のピアノ曲があって、こちらもちらほら演奏されているようだが《アクロバット》の方が人気は圧倒的に高いようだ。なお《人形の踊り》も《アクロバット》同様、最終曲の第7曲目を除いて全て《バレエ組曲》からのピアノ・アレンジである。

一般の多くのショスタコーヴィチ愛好者が知らないところで、ショスタコーヴィチの意外な作品が人気を博している、というお話でした。

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