カビの生えた鮎を食べた話

鮎は鮎でも魚ではない。
和菓子の若鮎のことである。全国区の和菓子らしいが、京都に来て初めて食べた。

去年の5月から京都のお寺で働いている。上司(住職である尼僧さん)は自分の考え方が絶対に正しいと思って疑わない、行動力のある方。半住み込みでの生活なのでこの人に気に入られなければ、と意気込んでしまい、つい最近まで上司の話には同意するばかりで自分の意見など何も言えなかった。(仏教の勉強をしていくうちに考え方が変わってきた、そこら辺の話はまた今度)

僧侶にとっての繁忙期であるお盆も終わり、ようやくお寺での生活にも慣れてきた8月下旬、私は初めてカビの生えた鮎を食べた。

冒頭でも言った通り、鮎は鮎でも和菓子の若鮎である。鮎に見立てられた生地の中に求肥が入っている。サッパリしていて美味しい。前にも一度頂いていたのでそれが若鮎だということはわかった。

しかしその若鮎には以前には見たことのなかった黒い点々が全体にある。『へ〜紅茶風味かな?』と思った。

こういう感じね。

バカなので紅茶風味だと思ったまま一口食べる。少し酸味のある味がした。茶葉の味だと思った。

一口食べた断面を見ると白いはずの求肥に緑の模様がある。もしかしてカビ、なのか?
これはオカシイ。よ〜く若鮎の全体を見てみる。食べるまで気付かなかったが白いフワフワとしたものを少し纏っている。カビだなぁ…。

カビにようやく気がつくと途端に鼻からカビが入り混じった息が抜ける気がした。鼻腔にうっすらとカビの幕が張っていく気もした。

「カビ生えてますよ〜!ヤバ!」なんて感じでスパッと言えばよかったものの、小心者&気を遣って?言えなかったのでさりげなくポケットの中に袋ごとしまって自分のお部屋でじっくりカビを観察してから捨てた。

今だったら言い出せるのになあと思いつつも、カビを紅茶風味だと思った半年前の自分を恨んだ。