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性風俗のいびつな現場 書形夢醸55

マルサスは彼の最も有名な著作『人口論』で「第一に、食料は人間の生存にとって不可欠である。第二に、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する。」とし、等比級数的な人口増大を危惧した。

日本を見れば、マルサスのこの予言は半分当たっており、半分外れていることに気がつくだろう。なぜなら、日本は人口が減少していく傾向にあるが、かといって、性欲(主に男性の)が人々からなくなっていっているとは見受けられないからである。

坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』は、そうした男性の性欲を駆使した商売が、女性たちのセーフティーネットとして巧みに編み込まれており、性風俗を一方的に取り締まる側の人間が、いかに現場を理解していないかを明らかにしてくれる。

たとえば、2004年には東京都、警視庁、警察庁が一体となって繁華街の浄化作戦を行ったため、無届けで営業していた店舗型の風俗店がほぼ壊滅した。

取り締まる側は良かれと思ってやっているのだろうが、実際にはそれで俗に言う無店舗型の「デリバリーヘルス」が増えることになった。女性一人で男性客の元に出向しなければならないと言う状況は、女性にとって大きなリスクとなりえた。「本番」を要求される危険性が大きく高まったのだ。また、店舗がないということは、そこで働いている女性が連携を取ることができなくなることをも意味する。

これなどは、大きくて公的な団体が取り締まったことによる失敗という代表的な例だが、昨今の女性の権利伸長を目指すグループの主張にも、性風俗業界を一方的に悪しきものと決めつけ、弾圧しようとする向きがある。

確かに、性風俗で働く人の中にはシングルマザーや知的障害を持っていたり、DVの被害に遭われたり、借金を背負っている人も多く、激安価格店で働く人にはなおさらその傾向が強い。しかし、彼女たちが市や行政の世話になることを考えたことがないのかというと、全くそうではないことが本書でわかる。

彼女たちは誰かに助けを求めても受け入れられないという現状があるため、止むを得ず風俗で働くこともあれば、そこで一緒に働く人々との繋がりに救いを見出し、命を明日につないでいけることもある。

著者のいうとおり、風俗はアンダーグラウンドだと決めつけ、司法・福祉・風俗の有機的な連携を考えずにいる態度こそが怠慢であろう。

本書は風俗を「あちら側の世界」とせずに「こちら側の世界」=現代社会の鏡として捉えた点で、ただのルポルタージュでは終わらない、風俗の論理を描き出している点で間違いなく良書である。

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▼書籍情報
・タイトル:『性風俗のいびつな現場』
・著者:坂爪真吾
・出版社:筑摩書房
・出版年:2016年
・価格:820円(税別)

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