培われた強固なシンクロニシティの全て~BBガールズの日曜パームトーン劇場 2020/1/12

阿吽(あうん)。

「万物の始まりと終わりを象徴するもの」を意味する仏教用語である。

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その解釈は「対となるもの」、2体の像の形で表される事も少なくない。金剛力士像や、狛犬、沖縄のシーサーなどもそうだ。

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故に「以心伝心」をも意味するのである。

例えば双子が通じ合うそれとは違う、個性の異なる「対」のパラレル・シンクロニシティ。

そんな阿吽の呼吸、以心伝心のコンビネーションを圧倒的なハイパフォーマンスで魅せ付ける2人組のガールズユニットが、パームトーンには存在するのだ。

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BBガールズ。並外れた歌唱力と自由奔放な明るいキャラクターでキュートに、時に艶っぽく観客を魅了するヴォーカル・たじ(田嶋ゆか)。繊細で流麗な鍵盤さばきと美しいハーモニーで表情豊かに、抜群のインサイドワークでたじを支えるキーボード・カナ(万木嘉奈子)。

そんなBBガールズは2020年2月9日に京都MUSE HALLにて運命のワンマンライブを控えている。

その来たる日に向けた詰めの一手となるであろう、パームトーン劇場が1月12日に開演した。

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SEが終わり、2019年に発売されたファーストアルバム「LA BRAVA」の1曲目にイントロダクションとして収録されている「Fai La Brava」のドゥーワップのスキャットコーラスが流れた。「いよいよ登場」の合図である。

「もっとオールドファッションド」という、シングルにもアルバムにも未収録のナンバーでオープニングを飾るのがBBガールズのパームトーン劇場の恒例だ。手拍子と共に現れたのはキーボードのカナ。ギャラクシーなデザインの肩出しスタイルで、ゆったりしたフォルムの衣装に身を包んでいた。「カナー!!」の声援が飛ぶ。ピースサインを作りながらワンハンド演奏のパフォーマンス。

遅れてピョンピョン跳ねるようにヴォーカルのたじが元気に登場した。清楚なトップスにカナと対になるようなギャラクシーなスカート姿だ。「たじー!!」と声援が飛んでマイクを握り、臨戦態勢に入る。カナと同じくピースサインでキメた。シンプルで快活なサビのメロディとハーモニー。2人のコンビネーションで動き出した空気が会場を包んでゆく。

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2曲目は「人生はミラーボール」。たじ作詞、カナ作曲のナンバーである。「これがあたしたちよ!」とばかりにパワフル、コミカルに自己主張するBBガールズそのもののテーマソング。ゴキゲンな様子の2人、恐るべき高音で歌い通すたじのパフォーマンスは圧倒的だ。ダイナミックなグリスダウンとセブンスコードを多用するカナのキーボード、「Are you ready?」とカナが会場を指さすとたじもシンクロを見せた。「BBガールズ!!」と声を合わせると客席が一つになる。「まわせレインボー!!」でミラーボールが高速に回転、我が物顔でステージを掌握しているようだった。

続くは「それはウソじゃない!?」。スティービー・ワンダーを想起させるシャッフル16ビートで、恋心に翻弄される女子のワガママキュートぶりを押し出したナンバーだ。ハネるリズムに乗って軽快にたじの歌声は響き、16ビートのジャジーなカウンターフレーズをキメるカナ。間奏に差し掛かると冒頭の「Fai La Brava」のスキャットがAメロのコードに乗せて再びやって来る、このクレバーなアレンジのアイデア主もカナである。

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BBガールズのMCは女子2人が故に?ガールズトーク全開になることがほとんどだ。たじが「一週間インフルエンザでダウンしていた」と語る。ライブ直前に全快しているのだから強運だとも言える。「ご心配をお掛け致しました」と保護者のような口調のカナ。

「離れてもそばにいて」は恋心を抑えられない女性の甘いムードが際立つジャズ・ナンバーだ。カナによる作曲と編曲。作詞のプロデューサー・冴沢鍾己が押し出す世界は「コケティッシュ」。たじが極上のウィスパーでスウィートに歌い上げる。ジャジーなピアノのカナのフレージングはお洒落に、たじの歌声をキラキラと包む。ムードのいいジャズバーに居るかのような贅沢なひとときだ。

「クランベリージャム」は独特な魅力のダンサブル・ポップ。起承転結させずに未完成感のあるメロディをクラシカルなニューウェーブ・プログレッシブアレンジで疾走させているのだ。コーラスに徹したかと思えば華麗なフレーズをカウンターで打ち込むカナのプレイ。個性的な歌を繊細なアクションで演出するたじがクルリと回転してみせた。

「ひらいたトランプ」もクールなカッコよさが光る一曲だ。第8回fmGIGアカデミー賞の歌唱賞にノミネートされている。煮え切らない男に弄ばれながらヤキモキする女心の詞をシャッフルの16ビートに乗せるたじが、クールなサビを最後は情熱的に展開させた。この曲のソロのフレーズを昨年のライブから変え始めているカナ。3ヵ月ほど前と比べるとかなりの激変を見せている。アルバム「LA BRAVA」もこの「クランベリージャム」「ひらいたトランプ」の曲順で収録、その曲順が故の「タン、タン、タン」というカナの印象的なフレーズの「タイトに聴こえる」感覚が甦った。

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MCで前述のアカデミー賞の話と「そこでのキメの合言葉」、ラジオのリスナーしか分からないノリを押し出す2人。許可の返答を求められたPA席の冴沢鍾己からは「保留(=却下)」の判定が。

たじが「この流れでやっていけるかな?」と次の曲への不安を呈するもその心配は無用だった。「泡のないグラス」。極上のバラードナンバーが待っていた。筆者はこの曲を初めて聴いた時に「心のえぐり方が違う」と粗い表現ながらも賛辞を送った。救われない恋の終わり、グラスの泡が消えるまでの時間経過の正体は…?悲しいドラマが展開される。ひび割れる氷のような三味線のSE的アレンジ(正体はなんと、琵琶だそうだ)も個性が光る。最初は無感情に近く始まって後半にかけ段階的に溢れ出すように泣き出しそうなたじの歌声の、情感の界層が襲って来る。そしてドラマを最高に演出するカナの叙情的なピアノ。グラスの泡だけでない時間軸、甘い思い出ごとこの夜に凍えて行くような時の流れ、空気の流れ、全てを表現しているようだ。そしてライブでしか聴けない「この悲しみが、何も知らない夜空の星に溶けてゆくような」オクターブ上のピアノのエンディングで、ストーリーは幻となって終わる。

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先ほどの「夜空の世界の続き」かのような、聴き慣れないメジャーセブンスの耽美なフレーズが奏でられる。昨年末のライブまでは生演奏カヴァーコーナーが存在していたのだがカヴァーでも無いようだ。曲の正体は新曲「天界の雫」。いわゆる今の「アニソン」にほどなく近い、勇壮で美麗なナンバーだ。ファンタジックな世界にパワフルに芯を通すようなたじの歌声。イントロのメロのフレーズは印象的に、3度5度のコーラスが上に来たり下に来たりとカナの仕事ぶりも壮大である。BBガールズらしからぬ、また冴沢鍾己らしからぬ新たなコンセプト。2020年のBBガールズが未知の展開への布石を1つ打ちつけたようだ。

一旦退場する2人。照明が落ちても「お辞儀をしてステージを後にする」姿はグラウンドに一礼する競技者のそれのようだ。SEがしばらく流れ、照明がクルクルと回るパームトーン劇場の所謂「お色直しタイム」で会場の雰囲気がリセットされる。

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2人が再び登場した。衣装は白のトップスに、ファンには馴染みのある色違いのスカート姿だ。たじが赤系、カナが青系でBBガールズのベーシックなシンクロを感じた。ポップな「恋してオムレツ」でリスタート。和歌山県橋本市のご当地グルメ「はしもとオムレツ」応援ナンバーで甘くキュートなたじの歌声と振り付け、サビの終わりに「オムレツにため息」「オムレツも揺れたわ」「オムレツを並べた」のフレーズでカナによる「アクション3部作」がファンを魅了する。ライブで楽しさを体感出来る一曲だ。

「苦い林檎酒」でまた空気が一変する。伴英将の尺八のインストゥルメンタルだった曲で冴沢鍾己がストーリーとなる詞を加えてBBガールズの歌となった。さらにアルバム・バージョンとなってからそのサウンドが圧倒的に進化を遂げた、オトナのダンスナンバーである。流れるような艶めかしさを纏う哀愁のメロディ。紅い宝石の指環が転がり落ちるようなワンシーンがイメージの中で切り取られる。カナがメロをジャジーに崩しながらソロを奏でた。終始控えめな音色で、たじの「妖しさすら覚える」この曲での存在感を下支えしている。そのたじをディーヴァたらしめる圧巻はラストに待ち構えた「魅惑のスキャット」だ。真紅の照明に溶けるこのファルセットの恐るべき魅力を筆者は「無敵」と絶賛する。

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「新曲、アニソンぽいよねって話してて」と先ほどお披露目となった「天界の雫」のお話。プロデューサー・冴沢鍾己から「たじは(実戦で)戦い過ぎてる」「もっと神目線(目線を高く)で」という高度な講授の場面があったようだ。そして来たる2月9日に迫った京都MUSE HALLでのワンマンライブでサポートのバンドメンバーと色々楽しいアイデアを出し合っているという。運命の日まであと1ヵ月を切り、ファンの期待は一層高まっているのだ。

ガールズトークの後はピアノ生伴奏でのバラード「透明な水」。この曲が生演奏で体感出来るのは非常にレアな機会だ。美しく切ない情景がさらに澄んでゆくように感じられた。普段より一層、ささやくようにたじが歌う。サビのラストで「タメ」があった。カナのピアノはフレージングを大胆に引いたり、時に加えたり繊細な強弱も含め、透き通る世界をドラマチックに表現していた。

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「夜明けの月に」。歌詞、メロディ、サウンド、ハーモニーの全てが優しさで包まれた名曲だ。BBガールズの楽曲の中で一番フォークのアプローチを感じる。サビの美しいハーモニーの後、「la la la」とスキャットするたじ。優しいパターンフレーズを弾きながら2番から「la la la」と美しくコーラスを織り交ぜるカナ。「どこまでも心安らげる夜の情景」がそこに広がっていた。

たじが拳を握る。「風のファンタジスタ」が始まる合図である。サッカーがテーマの勇ましくも爽やかな、ミディアムテンポのナンバーだ。たじが拳を上げたり深く跪いたり、アクションも大胆に高音を力強く響かせる。カナがフレーズを弾きながら難易度の高いコーラスをキメつつ、しっかりと客席を見渡す。ブレイクのサビからは2人も会場も全員で拳を天に突き上げていた。

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「平成ガール」の攻撃的なイントロが一閃。たじ作詞作曲のロックチューンだ。サポートギタリスト・たかしによるギンギンの魔改造を施したモンスターサウンドが劇烈。平成時代を丸ごとプレイバックした歌詞をたじが高音で華麗に操る。カナはビートに合わせながら曲の要所で低音をサスティーン。疾走感に溢れながらもブレイクがあったり1/2テンポのチェンジがあったり、曲の展開は非常にスリリングだ。

「ガーディアン・エンジェル」は「LA BRAVA」の2曲目に収録の「=BBガールズのサウンドコンセプト」を印象付けるクラシカルでダンサブルなナンバーだ。80年代をインスパイアしたシンセベースが「あの頃のUKテクノロック」を想起させる。歌詞の世界にピタリと沿うたじの情熱的な歌声はAメロで驚くほど音程がアップする。カナは客席を眺めて余裕のコーラスからキーボードソロはここ最近即興的なプレイが凄まじく、恐るべきパフォーマンスを見せていた。最後のグリスダウンで今日の「ピースサイン」がキマった。

ラストは「まだまだGIRLでいいかしら」。ラジオ番組のタイトルにもなっているBBガールズのデビュー曲。オールドピアノロックでクラシカルに聴かせながらも完璧な曲構成で、それ以上にファンは盛り上がるライブのクライマックスに相応しいナンバーだ。会場全体がサビのたじのアクションに合わせる。ニコニコしながらカナがピアノでグルーブを支え、忙しいコーラスにも余裕で対応を見せる。ラストのインプロで、たじがマイクもお構いなしで観客に手を広げてくれた。

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鳴り止まないアンコールの拍手で2人がステージに戻って来た。「支えてくれるファンにMUSEで恩返しを」とたじが語った。BBガールズの歴史の集大成と新たなスタートの境界。今日のライブはそこへ収束してゆく為の詰めの一手と言うよりはスパートなのだ。

ピアノの生伴奏での「陽だまりの鳥」。今日のバラードのうち2曲が生演奏という流れになった。思い出だけが浮かんで消え、陽だまりで啼いて飛び立つ鳥にその哀しみの情景を投影する切ない世界を描いている。カナのピアノはそのドラマを引き立てるように繊細に響く。虚ろに歌い始めたたじがサビで泣きそうなロングトーンを聴かせて、カナの美しいコーラスに燦然と溶け合ってゆく。この曲にしかない感動は今日も息づいていた。

最後の最後に大団円のテーマ「境界線はいらない」で一つになる会場。たじの詞はどこまでも平和的なメッセージに満ちていて、カナはそれに笑顔で応えているようだ。「ラララ ラララ」のサビで手を振り、タオル持参のファンはそれを広げる。最後は会場全員で大合唱。「素晴らしいライブの終わりはこんなに清々しい」と心が覚えてくれるエンディングだった。

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2/9のMUSEはBBガールズの集大成でありながらスタートでもある、と前述したがそのスタートは新曲「天界の雫」に表れていたように「もう動き出している」のだと認識した。来たる日への期待と共に、新たなファンをも巻き込みながらその先のBBガールズの視界は良好なのだと、確信的な予測が出来てしまう理由は「このライブに感じた全て」だと言い切らせて貰いたい。

「2月9日はMUSEを満員にする」(たじ)

「今日がホップ、アカデミー賞がステップ、MUSEワンマンがジャンプ、そこから羽ばたいてゆく」(カナ)

余裕を見せながらも聞こえてくるのは力強い言葉だけだ。この日まで培われてきたBBガールズの強固なシンクロニシティは、冒頭の金剛力士よりも遥かに強大な「阿吽」となって我々を驚きの境地に連れて行ってくれる、そんな予感がしてならないのだ。




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