何が生まれるか分からない「音楽と笑いのびっくり箱」~あきっすんの土曜パームトーン劇場 2020/1/11

パンドラの箱。ゼウスがあらゆる災いを入れ、人間界に来たパンドラが禁を犯して箱を開け、悪が地上にあふれ出て急いでふたをしたが、希望が箱の中に残ったというお話しである。

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ふと逆のことを考えた。あらゆる笑いや希望に満ちた箱をひととき開ける存在がいて、人々の苦しみや悲しみをしばし封印せしめたとしたら。

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「逆パンドラの箱」とも呼べてしまいそうな時に抱腹絶倒させ、時にハートウォーミングに包んでくれる予測不能のびっくり箱。そんな箱のような2人組の音楽ユニットがパームトーンに存在する。

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あきっすん。ほぼ全ての楽曲のソングライティングと、伝統的な昭和の笑いからその場の思いつきまでとにかく隙あらばわちゃわちゃと笑いをステージに盛り込んで行くギター&ヴォーカルのまっすん。そしてキュートさ元気さ溢れる歌のパフォーマンスの魅力に加えて愛のあるツッコミ(?)でまっすんをビシバシと鍛え続けるヴォーカルのあき。

そんなあきっすんの2020年最初のワンマンライブが木屋町イベントスペース・パームトーンで行われた。

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新年最初で和装を予感させる中、「はいからさんが通る」に登場するような大正ロマンなファッションに身を包むあき。和傘を携えて登場する。

普段から季節感は感じさせないもののネクタイとセミアコが赤で、ちょっと新年に華を添えてるかも知れない(?)まっすん。

「ウタヒメ」、昨年からお馴染みとなったあき作曲のナンバーで本年はスタート。傘で手が塞がりアクションは付けられないもののあきの余裕のステージング。

2曲目は傘を置いて「あなたとよろしく」。BBガールズのカナ編曲による明るいミディアムテンポの曲。今回はまっすんのセミアコのウォームな音色のコードがこの曲に合っているように感じた。

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新年の挨拶代わりの最初のMCのはずが、あきの和傘に一瞬で食らい付いてクルクルと往年の海老一染之助染太郎のように回し始めるまっすん。通常運転である(笑)。そして軽く、かつ強引に漫談で次の曲へとなだれ込む。こちらもあきっすんの見慣れた光景だ。

昨年後半は聴けなかったカヴァーが復活。ECHOESの「ZOO」。フォークの弾き語りの形でも広く愛されている同曲をこの2人が聴かせる、それだけでも非常に嵌っていると常々思っていた。シンプルなギター1本のバッキングで歌われるハートウォーミングな時間。

昨年ラストのワンマンで披露された「VOICE」が今年も聴けた。「あなたとの出会いは…私の思いは…」と感情の余韻を残す歌詞が印象的だ。

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「コーヒーだけに、豆知識」と逆にキレイに決まってもドカンと行かない漫談の難しさの中、「今君に」が始まる。素直でまっすぐな思いを乗せた、心にじわっと沁みる歌。この曲はこれからも「ギター1本の歌」のパートでは軸になっていて欲しいところ。

「手をHの形にして!」これは同じパームトーンのアーティスト、伊藤直輝【Hello!】でお馴染みのコール&レスポンスの合図なのだがイントロのドラムが似ているため、まっすんが毎回拝借しているフレーズだ。その曲の正体は「蒲生四丁目」。大阪のピンポイントなフィーチャーだけに留まらないロックンロール魂溢れるハードナンバー。かつての志村けんの「東村山音頭」は「いっちょめ、いっちょめ」がお馴染みのフレーズに対してこちらは「よんちょめ、よんちょめ」という秀逸オマージュどころか本家を凌駕する破壊力を持ち合わせている。

続く「アスノテンキ」は、ライブではお馴染みの曲だが初めて聴いた時は衝撃が走った「その(ライブの)翌日の全国の明日の天気をお知らせする曲」で、故に「毎回天気や降水確率の違う」歌詞となり、時にロンドンや上海という日本を飛び出して予報する顛末、途中の立て板に水のようなあきの予報読み上げパフォーマンスも含めて「世界を見渡してもここにしかない」であろう唯一無二の曲である。

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2人がステージに再登場。あきの扇子、サングラス装着のまっすんも何やら小道具を持ち込んでいる様子。「あきっすん出禁」からリスタート、「実際にライブ会場での体験談を自虐的にラップに乗せる」とんでもない発想の変化球ナンバー。「気持ちいい」「悲しくも笑える」「悔しいけどカッコいい」色んな感情が交錯して湧き上がる楽しさ。後半の「Uh…」が何とも言えない切なさのピークだ。

そんな自虐的ラップの変化球があきっすんにはもう1球種存在するのだ。恒例行事・第8回fm GIGアカデミー賞にも楽曲賞でノミネートされている「まっすんラップ」である。ラップと銘打った往年のパラパラをフィーチャーしたダンスナンバーである時点でもう面白い。何故かこの日は会場の荷物カゴを頭に被り、虚無僧のような姿になってマイクを握るまっすん。時事ネタでゴーン被告のニュースが席巻していたこの頃なので「(被ってた)カゴに乗って国外逃亡を図る」パフォーマンスに出るも、そんなまっすんをカゴごとステージ下に転がして落とすあき。冒頭で形容していたまさに「音楽と笑いのびっくり箱」の最たるモデルケースをまざまざと見せ付けていた。

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あきっすんのライブでは必ず漫才を披露するタイミングがある。大枠の台本は決めているがほぼ毎回、アドリブでネタを足しにかかるまっすん。そしてほぼ毎回冷ややかにあきがスルー。お馴染みの流れである。新年らしい初詣のネタにキャッシュレスのお賽銭のアイデアなど、漫才の骨組みはなかなかに強いのだ。

漫才の後の「そんなアホな」の締めの声で同曲が始まる。まっすんによるリードヴォーカルをあきのアクションと合いの手で盛り立てるコミックナンバー。今回はカッチリと進むも、時に収拾のつかないわちゃわちゃの展開にもなる看板曲のひとつだ。

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MCで「知識経験を更新すれば日々成長して行ける」と語ってくれたあき。とてもいいお話の後にはそれもフリになっているかのように「ミックスナッツ」が流れる。感動的なBBガールズ・カナのピアノに、それとは裏腹すぎるサビの歌詞。ライブ初見の人は「まんまと」聴かされるあきっすんならではのバラードナンバーである。

オールド・ロックンロールを踏襲するあきっすんの懐を感じさせる「あなたへのありがとう」。往年のロカビリーツイスト的なドライブ感にドゥーワップのアレンジが織り重なる一曲。歌詞はとてもストレートな感謝の心を綴っている。

イベントスペース・パームトーンでのパームトーン所属アーティストのライブは毎回生配信が行われている。そこに寄せられたコメントの確認をする少しの時間が各ライブで存在しているのだが、一度確認を始めると止まらないまっすんと急かせるあきのやりとり。こちらも一連の流れで、今年も健在である。

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ラジオのコーナーでやりとりしていた音楽の四方山話から今年は「新曲を出す!」と宣言同然の流れに。「あきっすん用のストックの中から色々持ち込む」というまっすんの話は何故か「BBガールズみたいに1回のライブで2時間近くやったりせえへんし、うちはどうせ1時間15分であっという間に終わる」と自虐的な方向へ。

そんな話に夢中で次の「CASUAL」の曲の入りのタイミングを損ねるまっすんのご愛嬌。昨年度のレポートでも頻繁に書かせて貰っているが心癒される「名曲」である。まっすんのピュアなメッセージを乗せた歌詞に飾らない、まっすぐなあきの歌声。そしてプロデューサー・冴沢鍾己による珠玉のポップアレンジ。あきが「にゃ!」と合いの手を入れるも「わん!」と隙あらば入るまっすん。

続いても人気曲「Sunday」。16ビートにメジャーコードが響く「雨が上がって晴れた日曜日の爽やかさで心も前向きにさせてくれる」こちらもポジティブなメッセージに癒される名曲だ。

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先程にも挙げたfm GIGアカデミー賞でプレゼンターは「アメリカンジョーク」を込めたスピーチで受賞者を呼び込まないといけないルールがあり、そこでブラックユーモア(ジョーク)を盛り込んでやりたくて仕方ないらしいまっすん。しかもまっすんがそのプレゼンターの立場でないと気づいて崩れ落ちるあき。ラジオのフリートークを聴いてる時の楽しい展開がここにも。ラスト前にまだまだ喋り足りないまっすん。漫才師のオール阪神・巨人が売れるまでに十何年掛かったという苦節の話を、10年目を迎えるあきっすんに投影して持ち込もうとするも「SEKAI NO OWARIと一緒がいいよ~」と拒否してしまうあき。

ラストナンバーは代表曲「まつげボーン」。ライブ初見でも長年のファンでも誰でも楽しめる明快なアクションと、ラストであきのハリセンがまっすんに炸裂する「あきっすん名物」は今年も健在。間奏で場外戦を展開したり暴れたい放題暴れまくるこの曲も、今年最初はタイトなパフォーマンスで発進した様子に映った。

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アンコールの拍手の代わりに挿し込まれる「わたしだけのミックスナッツ」。哀愁溢れる(?)ギターで空気がリセットされてゆく。

何事も無かったように「逆ララバイ」が始まった。ライブ初見だとうっかり安心してしまう一曲だ。声のボリュームもコンセプトも驚きのロックンロールナンバー。恐るべき絶叫で畳み掛けた後YURINAタオルを何故か広げるあきと、その声をうるさがるまっすんのコミカルな表情の対比が見られる。

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オーラス1曲のみを残す所でこちらも恒例「(パームトーン内輪ネタのイントロ)おふざけコーナー」ボケ放題のコーナーなのでこの箇所のみツッコミ口調で。

①籾井優里奈【生意気ファニーボーイ】肝心の歌の出だしからトチってるがな!アクションだけで逆に手持ちぶさたになってるやん!

②山下圭志【アリバイのA】KCさんの雰囲気をハットとムーンウォークだけで表そうとしてるやん!ムーンウォークやなくてそれは後ろ歩きやし!

③BBガールズ【平成ガール】歌い出しまでが長いのに逆にキッチリ歌い出すんかい!替え歌にせえへんのかい!

④伊藤直輝【SUMMER HUNTER】真冬やし!ここぞとばかりにモノマネ入れてるやん!歌詞もイジり倒してるがな!

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ようやくオーラスの「感動をください」が始まる。昨年からワンマンのラストに定着した高速ナンバー。公式の「ミックスナッツ大作戦タオル」を振り回し突き上げ、「オイ!」の掛け声で会場全体が最高潮になる。ステージの2人も観客も一緒に汗をかいて爽快にフィナーレを迎えた。

昨年までに見せたパフォーマンスの自由度はそのままに、年度最初という事もあってタイトな印象のライブだった。今回のようにカヴァーや耳慣れていない楽曲が前半でも後半でも1曲リストに加わると、ライブそのものの印象も自在に変化してゆくのだろう。バリエーションへの期待も出来そうだ。

「(ZOZO前社長が大金をばら撒く位の)ビッグな事をやる」(まっすん)

「動画配信などであきっすんの存在をもっと広めてゆく」(あき)

今年やりたい事、という今月の質問に力強く答えてくれた2人。何が起こるか、何が生まれるか分からない「音楽と笑いのびっくり箱」に2020年もびっくりさせられてゆくのは必至のようだ。

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