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建築確認申請は許可申請ではない

1、建築確認申請とは

建築確認申請
と言う言葉を聞いた事のある人も多い言葉だと思います。
姉歯建築士の構造計算偽装事件、旭化成建材の基礎杭改竄(かいざん)によるマンション沈下事件など、建築に関わる事件等でよく出てくる建築用語です。
この建築確認申請、と言う言葉ですが、自宅を建てられた経験のある人であ御存知だと思いますが、住宅をはじめ、あらゆる建物は、建築する前に確認申請を提出し、役所の審査を受けなければいけません。

その審査の過程で書類、図面等に不備があれば訂正し、すべてが建築基準法に合致している事を確認されて、晴れて建築確認済証の発行をもって「建築して良いですよ」という事になるわけです。

一般的に建築確認申請と言うと、大多数の人が許可申請 だと思われていると思います。今でこそ建築確認審査機関と言う、行政ではない民間の機関で確認申請の審査ができるようになっていますが、それ以前は、お役所の建築課で提出された書類、図面を審査し、建築して良い、と言うお墨付きをもらうわけですから、建築関係者でない人が建築確認申請を役所からもらう許可 だと思うのは当然の事です。

ですから、お客さんや、下請業者の人たちは「確認許可がいるんでしょ?」「確認許可を申請して欲しい」「許可はまだ下りないのですか?」と言う言い方をします。
しかし、その言い方は間違いなので、訂正すると

許可がいるんでしょ?
 → 確認申請を出さないといけないのでしょう?
             または、確認済証がいるんですよね。

確認許可を申請して欲しい → 確認申請を提出して欲しい。
               建築確認の手続きをして欲しい。

許可はまだ下りないのですか? → 審査はまだ終わらないのですか?

と言うような言い方になります。(他にも言い方はありますが)

とは言っても素人さんを相手にとわざわざ訂正なんてしません。言わんとする事はちゃんとこちらに通じているので、違和感はありますが、大抵そのまま話しています。
それでは建築確認申請とはなんでしょうか?

建築基準法第6条の規定

建物を建築するには、建築基準法(その他関係法令)に適合していなければなりません。その事を謳っているのが建築基準法第6条第一項です。

建築主は、(中略)建築物を建築しようとする場合(中略)おいては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(中略)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない」              抜粋

と定められています。
「建築主事」は、申請書の内容が「建築基準関係規定に適合するかどうかを確認」しなければならないことになりますが、この「建築主事」の行う「確認行為」を 覊束行為/きそくこうい と言います。

覊束行為とは?

覊束行為を簡単に言うと、
行政庁の行為のうち、自由裁量の余地のない行為。法の規定が一義的であって、行政庁はそれをそのまま執行しなければならない行為。裁量の余地がないものです。
逆に、裁量の余地のあるものは、裁量行為と言われ、行政庁の行為のうち、法規が多義的なため、行政庁に一定範囲の裁量の余地があるもの。
多義的とは、多くの意味を持ったり、多くの解釈ができたりする事で、その時の状況で行政の判断に委ねられる事があるような法の場合です。

建築基準関係規定の内容は、建築物の敷地や構造に関して、その大きさ、高さ、設計強度、用途等がすべて一義的に定められているもので、上記「確認」行為は、申請書の内容がこれらに適合するかどうかを照らし合わせる行為、まさに「確認」するだけの行為であり、そこに裁量の余地はありません。

一義的とは、意味が一つに限られており、誤解の余地がない法律であり、建築主事の解釈で変えられるものではありません。
法に適合しているかどうか?だけを確認する作業で、建築主事の裁量の余地は無い、と言う事から、行政だけでなく、民間でも確認申請の審査をできるようになったという事が納得できます。

2、じゃあ許可って何なのよ?

確認という意味はなんとなく理解してもらえたと思いますが、それじゃあ許可 って何なの?と言う事になりますよね。

例えば開発行為許可申請というものがあります。
確認申請を行う前に、建てようとしている土地が、一定規模を超える広さだったり、切土や盛土、擁壁を造ったり、道路を造って側溝を入れたりと、宅地造成をする場合に申請しなくてはならない、開発行為 というものがあります。
この開発行為は、確認申請とは違い、開発行為許可申請 と言う許可を受ける行為になります。

開発行為は各県の知事が許可する、許可申請行為であり、許可とは

本来は誰でも享受できる個人の自由を、公共の福祉の観点から一旦禁止しておき、個別の申請に基づいて特定の場合に解除する行政行為である。禁止の解除であると言われています。

建物を建てたいけど、禁止されている規模の広さより広いという場合、確認申請を出すまえに、その土地に建物を建てても良いと言う許可、禁止されている行為の解除をしてもらう、例外を認めてもらう、これが許可申請です。

どうして禁止しているかと言う理由のひとつに、工事費用の問題があります。確認と同様に法に適合しているからと言って、樹木を伐採し、切土などのある造成を始めたとします。しかし途中で資金が無くなり、辞めた!と言ってほったらかしにでもされたらどうでしょうか。周囲に大きな危険を及ぼす状態で放置される可能性もあります。そういう事を防ぐため、開発許可申請の提出書類の中には、資金計画書や収支計画書と言った、多義的な書類が含まれています。昔は、申請地の隣接者の同意も必要でした。確認申請は大きな建物であっても、工事中断によって美観を損ねるくらいで、周囲に多大な悪影響を与える事は少ないと思われます。

しかし、ここでまた新たな疑問が湧いてくるはずです。

確認と許可、どっちも定められた規定に適合していれば良い、と言う意味では同じじゃないか?

そうです、適合していなければいけない、と言う点では同じです。
しかし、確認と許可では大きく違う点があるのです。

確認業務を行う行政もしくは民間機関、許可を出す行政、と言う扱う機関の違いもありますが、

確認申請の場合は
建築基準法に適合していれば、誰でも建物を造って良い。言い換えれば、法に適合している申請に対して、建物を建築してはいけないと言う事はできません。わかりやすく言うと、建築確認申請は建築基準法と消防などの建築の関係法令に適合さえすれば確認申請は下ります
例えば、民放では、建物の外壁面と敷地との境界線までの距離は50cm以上離さないといけない。と言う規定がありますが、建築基準法にはそんな規定はありません。建築基準法に適合すれば境界ギリギリでも建築可能であるし、確認申請も下りるのです。また、その事で紛争になっても、建築基準法に規定がないので審査した建築主事には責任は及びません。民放で争うだけです。ただ、審査の途中で、「お隣の承諾はもらってますか?」と聞かれる事はありますけどね。でも、承諾がないからと言って、ダメですと言う事は主事は言えないのです。民法には抵触していても、建築基準法に不備が無ければ、建物を建てても良いという、確認済証を発行せざるを得ないのです。
また、申請者は誰でも良くて、建物とは一切関係の無い、第三者の名前で申請したとしても確認は下ります。もちろんそんな事する人はいませんけどね。

一方許可の場合は、
いくら法や規定に適合している申請でも、許可する義務はないのです。言い換えれば、行政側(知事)の判断で、適合していても許可しなくて良い、と言うものです。まあ、それなりの理由があればの話ですけど。
先に書いた、資金面とかの問題です。法の規定には適合しているけど、資金計画や収支計画に問題有り!疑義有り!とみなされると許可されない場合が出てきたりするわけです。
その代わり、許可した場合でも、許可しかなった場合でも、何か問題が発生すれば許可者には責任が及びます。

確認と許可の違い、なんとなく理解してもらえたでしょうか?

3、最後に

確認とは、法に適合しているか確認するだけの作業、許可は禁止事項を解除する、しない。と言う事ですね。確認に比べて、許可は確認より厳しく、許可者の判断で許可、不許可を決定できるという性格を持っていると言えます。

正直言って、私自身、確認申請についてまだモヤモヤしてる部分はたくさんあります。
建築主事に裁量は無い、と前述しましたが、実際の業務では、建築主事の判断による部分もあって、申請する行政や審査機関によって法の解釈の違いがある事は少なくありません。
「A市に申請した時、そんな指摘は受けなかった!」と反論しても、「ここはA市ではありません」と主事に言われれば従うしかない、のです。
些細な事ならそれでも良いのですが、主事の見解の違いで高額な費用が生じたり、大きく変更をしなくてはならない、と言うケースもあります。

また、ごく、まれにですが、明らかに審査する側の解釈が間違っている場合もあります。徹底して反論し、打ち負かす事が出来たとしても、相手もプライドを傷つけられた分、他の事で露骨にいじめられる事もあります。

確認申請と言う業務をやっていて感じるのは、いくら法に適合しているか、いないかの審査を受けるだけ、と言っても簡単な事ではないので、やはり、お役所なり審査機関の許可をもらう、と言うイメージですね。
建築確認申請の意味を知らない人が 許可 だと思ってしまうのは当然だと言えるでしょう。

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