じゅんこさん

じゅんこさんは、88歳。この病院の特別室に来て、3年になるそうだ。

じゅんこさんは、器量よしではない。小さく窪んだ円らな目。低くて平らな鼻。色黒で、皺しわ。

じゅんこさんの笑顔には、何の邪心も思惑もない。笑いたい時、笑いたいよう、笑う。

じゅんこさんは、いつもロビーのテレビの前。車椅子に腰掛け、手を前に組んでいる。

じゅんこさんは、こことむこうの間にいる。しばらく話して、どちらにいるか、やっと分かる。

じゅんこさんは、遣り手のファーム経営者だったんだと。競馬中継を見る時は、眼の光が違う。

じゅんこさんと、毎日会う。みんなのゆるキャラだから、オレはいつも遠くから見ている。

じゅんこさんは、オレが好きだ。微笑みかけたら、どんなに険しい顔していても、微笑み返し。

じゅんこさんと話した。台風の話、本家(?)の弟の話、厩舎の修理の話、息子さんの話。

じゅんこさんは、入れ歯を外してる。昔の話を、一生懸命に聴く。勉強していて、よかった。

じゅんこさんの背中をオレは撫でて、話してくれてありがとうね、って微笑んだ。

じゅんこさんは、真っ直ぐオレの目を見つめて、無理すんじゃないよ、身体大事にね、って。

ダメだよ、それは反則だ。

オレは、やっとお母さんを見つけた迷子みたいに、涙があふれ出た。

ずるいぜ、じゅんこさん。さすが遣り手。

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しりん

スーパー素数歳/ 「むしゃくしゃして書いた、なんでもよかった」と述べ、「見えない力に書かされている」などと意味不明の供述を/ 重症筋無力症的 essay

コメント2件

出会いって何処にあるか不思議。
外連味なくていいなぁ
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