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殺家道 -Write, Load, Kill, Repeat-

 パキャ。間の抜けた銃声の直後、四五口径の銃身がショートリコイルし、背高の照準器の向こう側にあるプリン髪の脳天から血が噴き出した。

「私は小説を書いていた。いや今でも書いている。人を殺す小説だ」

 パキャ、パキャ。銃声が続き、タンクトップの胸に血が滲む。

「だが、本当は小説が書きたいワケじゃなかったんだ。最近気付いた」
「うおおおおおッ!」

 背後から迫る絶叫と足音。人吉善一は冷静に振り返り、右手のドイツ製の消音拳銃USP45CTの狙いを定め、撃つ。パキャ。スキンヘッドから脳汁が溢れる。

「人の死そのものに興味があったんだよ、私は。その精緻なメカニズムに」

 床に散らばる白い粉末の小袋と、夥しい使い古しの札束。調味料のように振りかかった血と脳髄。それらを一緒くたに黒い革靴が踏みにじる。

「脳死と心臓死、君はどちらを人の死と信じるだろうか」

 机を引っ繰り返して崩れ落ちた金髪ピアスの男が、親指の千切れた左手でスマホを投げ出し、善一の構える消音器の銃口を見上げていた。

「手前……さっきから、一体何の話をしてやがるんだ!?」
「――おい、何が起こってる! 返事をしやがれ!」

 パキャ。スマホの通話画面に穴が開く。

「誰だ、と聞かれたから答えたまでさ。物書きだとね」
「ハァ……?」
「理解してもらう必要はない。君の興味深い死に様をただ蒐集させてくれ」
「のッ……キチガイめッ!」

 金髪男の叫びに、善一は怪訝な顔で首を傾げた。パキャ。頸動脈を銃弾が抜けると、噴水めいて鮮血がしぶく。善一は片手を翳して顔を庇った。

「興味本位で首を撃ってみたが、止めた方がいいな」

 呟いた直後、善一は耳元で震える骨伝導ヘッドセットに指を伸ばした。

「はい人吉、非番です。飲み? 今から? どうせ暇だろって、失礼な」

 血みどろの腕時計に視線を落とし、善一は溜め息をこぼした。

「生憎、今日は汚れてしまって。一時間ほど待たせてもよろしければ」


【つづく】

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