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古本(新):ゴッドファーザーの血

序文

どうも、slaughtercultです。
読書感想文の最後の1冊は、謎めいた男の自叙伝。
著者はシチリア出身・日本在住のエミリオ・マリオ・ルチアーノ氏。

『ゴッドファーザーの血/The Blood of Mafia』
定価1,500円/売価1,075円。値段が高いのは新書だからでしょう。
タイトルを目にして、数ページ立ち読みした瞬間購入を決意しました。

奥付。丁度1年前くらいの出版。時間的にかなりリニアですね。
著者は現在、東京・茅場町でシチリア料理店を営んでいるのだそう。
ヤクザ稼業の行き着く末が、出身地の料理店とは映画のような人生です。


"しんのおとこ"の謎めいた生き様

凄いです。読み進めるうちに内容に熱狂し、1日で読破しました。
これらの出来事を1人の人間が体験したなど、到底信じられません。
良く出来た創作と穿った見方をしても、なお心惹かれる魔力があります。

血縁社会のシチリアで、ルチアーノ家の女を見初めたギリシャ人の男。
望まれぬ結婚、母親と離れて旅立つ父子、そこから始まる流浪の日々。
少年は流される先々で様々な人々に出会い、俗悪の世界に身を染めていく。

その時の少年こそ、御年53歳(2018年出版時)のマリオ・ルチアーノ氏。
シチリア人とギリシャ人の混血で、真の男となるべく父の背中を追います。
現在はほぼ一家離散状態と書かれており、人生の悲惨さが窺えますね。

(以下引用、5~6ページ『プロローグ ラッキー・ルチアーノの血』より)
”すでに記したように、私の一家はラッキー・ルチアーノことサルバトーレ・ルカーニアの血を引いている。ここでは親愛の念を込めて、サルバトーレと呼ばせてもらう。私の母方の祖母・テレーザには、ロザリアといういとこがおり、このロザリアの息子がサルバトーレ・ルカーニアである。サルバトーレの血はテレーザから母・トカーニャ、そして私へと引き継がれた。もっとも、私がこのことを知ったのは17歳とずいぶんのちのことだったのだが……。”

この思わせぶりな言い回し、少しどうなんだろうとは思います。
”ルカーニアの血を引いている”という言い回しはちょっと……(;´∀`)
私、最初はラッキー・ルチアーノの子孫と勘違いしてましたからね。

ともかく、父子はシチリア島を離れ、アメリカのニューヨークへ。
映画『レオン』冒頭部でも描かれた、”リトル・イタリー”に居を定めます。
母系の祖父と伯父が、当地で『組織』の一つを動かしていたのです。

結局、ギリシャ人の父親は最後まで『組織』に受け入れられなかった様子。
実権を握る祖父が病死し、伯父が殺され、『組織』の統制は完全に崩壊。
そこからマリオ少年の、厳しく険しい流転の日々が始まります。


悪に魅入られた男

リトルイタリー移住後より、本文中では生々しい犯罪描写が描かれます。
『組織』の使い走りの片手間に違法露店、小遣い稼ぎに車の部品を略奪。
フィリピン移住後は拳銃密売、日本移住後は右翼の付き人かつ集金人。

よくもまあこれだけ、行く先々で悪い仲間と巡り合うものですね(笑)
悪人たちの心を惹きつけるカリスマめいた何かを持っていたのでしょうか。
数奇な巡り合わせは、折に触れて彼の窮地に手を差し伸べます。

パイロットを志し、17歳で単身パキスタンに行った辺りからして凄まじい。
まあ入国審査をパスできず、空港警察に拘束されるわけなのですが。
”世界一安価なパイロット養成学校”が、何とPLOの関連施設だったという。

パキスタンの件に限らず、全編に渡って耳を疑うような話のオンパレード。
何というかもう、マフィアの血筋がどうこうというレベルの話じゃない。
マリオ氏の生涯は力道山に通ずるものがあります(人柄は正反対ですが)。

全体を俯瞰すると、彼の存在はマフィオーソらしからぬ異質なものです。
生きるために渡り鳥めいて組織を移り、国境さえも自由に飛び回る。
その人生はあたかも『GRAND THEFT AUTO』のストーリーめいています。

強いて言えば、彼にとってのマフィアは血の繋がった『家族』。
しかしその『家族』も最後には崩壊し、彼の人生は混迷を極めます。
そして彼は、世話になった先達たちの死を一人また一人と見送っていく。


この話、信じるか信じないかはあなた次第だ

(以下引用、7ページ『プロローグ ラッキー・ルチアーノの血』より)
”私が考えるファミリーにとって重要なものは4つある。
trust(信用)
loyalty(忠誠)
respect(敬意)
love(愛)
このうちひとつでも欠けていれば、その組織はファミリーとは呼べない。
4つが紐帯となって初めて家族はまとまり、誇るべき存在になるのだ。

帯紙にも記されたこの文章が、後々ズシンと重みを伴い効いてきます。
犯罪、成功、成り上がり、抗争、裏切り……そして破滅
完成されたエンターテイメントのように、そこには全てがあります。

自分は何のために生まれてきたのか。自分は何に忠義を貫いてきたのか。
混沌とした生涯は、どこまでが誇張で、どこまでが真実か判然としません。
ともかく、その本にはある一人の誇り高き男の半生が綴られていました。


From: slaughtercult
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