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魔法鎖鋸少女✡平等院ひとみ 1話

(註:この文書はβ版となっております)

【推奨年齢・15歳以上】
【警告:過激な表現が含まれております】

ねえ知ってる?

京都って、実はキリスト教にとって、因縁深い土地なんだって。
私、宗教とかそういう難しいことって、良く分からないんだけど。
たっくんがそういうの詳しくって、正直驚いちゃった。
ああ、たっくんは私の幼馴染の男の子、大門寺泰人くん!
だいもんじ・たいと……だから、たっくん。
私たち、小学校からずっと同じ学校の仲良しコンビ!
二人が恋人同士なのは学校ではナイショ。
でもみんなが私たちの仲を囃し立てるのよ、一体どうして?
あっそうだ! 言い忘れたけど私、平等院ひとみ
府立八賀谷高校の1年生なの、みんなヨロシクね!
そう……これは私ことひとみと、たっくんの二人の物語。

二人の、愛♡と闘い⚔の物語! ズビシッ!

【魔法鎖鋸少女✡平等院ひとみ】
【第一話/冒涜! 魔法少女爆誕!】

私たちの街「八賀谷(やつがたに)」へようこそ!

八賀谷は小さな田舎町。
あるものといえば、山と川と、小さな商店街と、新興宗教の本拠地くらい。
北に聳える「天狗山」は、その名の通り天狗が住んでるんですって!
おかげで、街のあちこちには天狗の像が一杯。
どこもかしこも天狗、天狗……全くイヤになっちゃう。
ところで私、この前 Wikipedia で「天狗山」を調べてみたの。
……そしたらビックリ! 日本中、天狗山で一杯じゃない!
どっひゃー! 競争相手は山のよう!
八賀谷も、天狗にあやかった街起こしで天狗になってる場合じゃないわ!

――――――――――

さてさて、話は遡ること数ヶ月前!

場所は、商店街のカフェ「だいうす丁」のテラス席。
私はいつものように、学校帰りにたっくんとお茶してた所。
「ねぇねぇーキミたち、ちょっとお話いいかな?」
どこからともなく、短パンに水玉シャツのオニーサンが出現!
ハンディカメラを携えた長身ロン毛のオニーサンも一緒。
私は抹茶あんみつを一口食べて、ビビッと来たわ!
「ねぇねぇ、取材? 取材? テレビに出れるの?」
「ちょ、ひとみちゃん落ちついて!」
「イェーイ☆ みんな見てるぅ?」
ロン毛オニーサンのハンディカメラに接近してピース!
「アッハハハ! いいね、今時珍しいテレビっ子なんだね!」
やったわ! オニーサンたちに大受けよ!
こういうのは掴みが大事なのよ! 私は詳しいの!

「えっと……こんな天狗しかない田舎町で、どんなお話を?」
たっくんは優雅にティーカップを揺らして一言。
「うん。僕たち、いまちょっとキリシタンの歴史について調べてるんだ」
「キリシ……えっー宗教? 私、そういうの良くわかんない」
私は即座にギブアップして、抹茶あんみつをパクリ。
「ああ、それってアレですよね。伏見から逃げてきたっていう……」
話に食いついたのは、意外にもたっくん!
「あーそれそれ! 何か知ってることあるかな?」
オニーサン二人が、顔を見合わせてサムズアップ!
たっくんはストレートの紅茶を一口飲んで、パラソルを見上げたわ。
「話では、慶長19年の大禁教令で、伏見のキリシタンが大弾圧。信者たちは方々逃げ出して、山間の八賀谷にも沢山逃げてきたとか……」
水玉シャツのオニーサンは、うんうん頷いてちらっと背後をチラ見。
(おーい、カメラ回ってるか?)
(……OKっす!)
そんな感じでアイコンタクトして、ロン毛オニーサンがサムアップ!
「それで、暫くは隠れてたんだけど、結局キリシタンなのがバレちゃって。河原に引き出されて、キリシタンは女子供見境なく処刑されちゃったとか。教会も、焼き討ちされたって話ですよね」
「えっー、えっぐう」
私が抹茶あんみつ食べてる時に、火炙りとか磔とか、打ち首獄門の話なんかやめてよね! ぷんぷん!

「いいね! やっぱ俺の直観キテるぜ!」
ロン毛オニーサンがニヤリ!
「半日取材して成果0だったのに、良く言うよ……」
水玉シャツのオニーサンは、エッホンと咳払い!
「それで、教会の詳しい場所とかは知ってるかな?」
「あー……でも大体は、その時の大弾圧で燃やされたって話ですが」
たっくん、クールに肩を竦めて紅茶を一口。
「あーそっかぁ……何か残ってるかなぁと思ったんだけど……」
「……でもね。街外れに、なんか怪しい建物、残ってるらしいですよ?」
水玉シャツのオニーサン、にわかに興奮!
「えッマジで!? ウッソ、まさか半日で収穫! やるじゃんキミ!」
口調が素に戻ってるわ!
たっくんは冷静に紅茶を一口飲んで、通りの北側を指差し!
「三階建ての廃墟で……ぱっと見では民家みたいな建物なんですけど、本当は明治時代に再建された、キリシタンの教会だとか何とか……噂ですけどね」
(おい、ちゃんと撮ってるか!)
(バッチリっす!)
水玉シャツのオニーサンが、ロン毛オニーサンにアイコンタクト!
「詳しい場所、教えてくれるかい?」

――――――――――

それで、オニーサンたちがどうなったか、聞きたい?

答えは数日後の京都日報。
テレビ取材班 行方不明
郊外の空き地に、無人の車両を発見
一人残らず、忽然と姿を消してしまいましたとさ!
八賀谷は狭い街だから、暫くはみんながこの話で大騒ぎ!
警察も消防も、総出で行方を捜したけれど、結局見つからず仕舞い。
それから1月過ぎ、2月過ぎ……。
さしもの田舎町の八賀谷でも、その話をする人は居なくなっちゃった。

ところ変わって、府立八賀谷高校!
私は教室で、何気なく……本当に何気なく、その話を思い出したの。
「ねぇねぇたっくん、あのオニーサンたちどうなっちゃったのかな?」
「うーん……何だか気味が悪いね」
「ひょっとして、処刑されたキリシタンの祟り!?」
火炙りとか磔とか打ち首獄門とか!
「ボク余計なこと言っちゃったかなぁ……何だか後味悪いよ」
たっくんは思わず苦笑い!
「じゃあ、ここは一つ、私たちで確かめに行ってみよー!」
「え……えぇッ!?」
たっくんの美少年フェイスが思わず二度見!
そう、たっくんは女子も男子も振り返る、類稀な美少年なのです!
女子の制服を着させれば、みんなたっくんが女子高生だって信じちゃう。
ええ、絶対そうよ!
何たって、私が実際に試してみたんですもの! えっへん!
「思いついたがきちじちゅ……その廃墟とやらに、肝試しよ!
「エ―――――ッ! 冗談やめてよ、ひとみちゃん!」

――――――――――

というワケで、街外れの廃墟に到着!

庭には木々が生い茂り、雑草が生え散らかしてるわ!
蝉が夏を先取りして、意味深にミンミン鳴いててムーディ!
錆びた門扉を掴んだら、赤錆がボロボロ! ばっちい!
「エッヘッヘ……ここまで来たら、もう後には引き返せませんぜ」
ギギィ……門が開いちゃっ……たぁ!
「ちょっと待ってひとみちゃん! 何で僕は女子の制服着てるんだよ!」
たっくんがマグライトを振って抗議! カワイイ♡
「いいからいいから、ひとみちゃんに全部任せなさい☆」
私は肩にGoProを装着! よーし準備OK!
「これ絶対スクープよ。後でYOUTUBEにアップしよーっと」
「イヤイヤ、絶対ヤバいって……大体これって不法侵入……」
細かいことは気にしない! たっくん、男でしょ!
ああそうだよ! 今は女装させられてるけどね!
廃墟の門前で口論!
二人は深い仲だけど、たまの行き違いもまた一興ね!
「はーい、じゃあ今から肝試し行きまーす!」
私は嫌がるたっくんを無理矢理引きずって、廃墟探検レッツゴー!
「私……何か興奮して来ちゃった!」
この、嫌がるのを無理矢理ってところが……最高ね!
ねーホント無理だって! 帰ろうよひとみちゃん!」
「たっくんがが嫌がれば嫌がるほど……私はますます興奮するのよ!
雑草を蹴散らし、庭の飛び石を渡って、廃墟の入り口に到着!
「庭は結構広いのね……でもホント、どこ見ても草だらけ」
「なんか、太股の辺りがチクチクして痒いよ!」
「まだ早いわ! まだダメよ、たっくん……こんな人目につくところ!」
「何考えてんのひとみちゃん!」

―――――――――

正面玄関からお邪魔しまーす!

廃墟はどこも埃だらけ!
たっくんは咳き込みながら、マグライトを点灯!
「普通こういう所って、警備装置なんかがある筈なんだけど……」
立入禁止の立て看板なら、申し訳程度にあったけどね!
「えー何も無い廃墟に? どうして?」
たっくんは盗人みたいな猫背で、慎重に一歩、また一歩。
あーもうじれったい!
「それは、ボクらみたいに忍びこむ人がいるからでしょ!」
「あーあーあー、聞こえなーい!」
悪いことに使われたり、酷い時には放火されたり……」
マッチ一本火事の元でしょ☆ 私は詳しいのよ!」
「……ひとみちゃん、真面目に聞いてないでしょ?」
たっくんが立ち止まって、床板をライトで照らしたわ!
「見て、ひとみちゃん。足跡だよ」
「あのオニーサンたちも、入ってきたんじゃない?」
「まあ、そりゃそうだろうけど……」
私はこっそり先に進んで、開け放たれたドアにするりと侵入!
薄明かりに照らされた室内は、散らかり放題!
「やっぱ、ここって何かヤバそうだよ……ひとみちゃん、あれ?」
シッシッシ……たっくん、私が居なくなったことに気が付いたわね。
廃墟探検の醍醐味、ドッキリの種を早速仕込んでいくわ!

「ひとみちゃーん! ひとみちゃーん! どこ行ったのー!」
フフフ……たっくん、動転してる動転してるぅ☆
「もうー、そういうのいいからー! 出てきてひとみちゃーん!」
マグライトの光が、ドアの戸口を照らしたわ!
私は壁際に隠れて、笑いを噛み殺して待機!
「足跡は、こっちだな……うん?」
不意にライトの光が離れて、私はちょっとガッカリ。
「あれ、今……おかしいな」
たっくん、どこ見てるの! 私はこっちよ!
「誰かー! 誰か、そこに居るんですかーッ!?
私の背筋がビクリ。心臓ドックドク!
えッ、ちょっとたっくん! まさかたっくんがドッキリの仕返しを!?
「んんー? んんんー? 今、誰かに見られてたような……」
たっくんのわざとらしい呟き声……ええもう、白々しい!
可愛らしく小首をかしげても、私の目は誤魔化せないわよ!
勿論、今の私にその様子は見えないけど!
「はぁ、まいっか。取り敢えずひとみちゃんだな……」
ライトの光が再び、ドアの戸口から部屋の中に!
「もうー、ひ・と・み・ちゃん! いい加減にしないと、ボク一人で――」
部屋の中に、たっくんが入って来る足音!
一歩、二歩、三歩……。
「――あっれぇ、ここにも居ない? しっかし荒れ放題の部屋だなァ」
しめしめ、たっくん。
私は今、貴方の背後を取ったわ!
コ・コ・か・ら・出・て・行・けぇえええええ!
「あッあッあッ……アッヒェエエエエエエエエ!!!!!
埃だらけの床を転がり、たっくんがマグライトを振り回してるわ!
「ぶわ―――――ハッハハハ! ドッキリ大成功!」
ひとみ、大爆笑! たっくんが私の姿に気づいて手を止めたわ。
「ンン゛ッ……あ、あのさ。ひ、ひ、ひ……」
怒った顔もカワイイ♡ っていうか、ちょっとやり過ぎたかしら?

「ひとみぃいいいいいい!!!!!」

――――――――――

三軒隣りまで響き渡るような、大絶叫の後。
たっくんって、普段は臆病だけど、実はあんな大声が出せるのね☆
「ゴメンゴメン、ゴメンたっくん、ホント、謝ってるって!」
「ンン゛ッ」
あらら、顔を背けちゃった。たっくん、結構本気で怒ってるみたい。
「ゴメンゴメン、ゴメンって! 何なら謝罪の証に、ここで脱ぐから!」
脱ぐなッ!
たっくん、思わず私を振り返って大声!
「……全くもう、ひとみちゃん。今度やったら、ボク一人で帰るからねッ!」
「センセンシャル! センセンシャル、大門寺先輩!」
たっくん舌打ち! 大変、割と本気で怒ってるわね!
「一通り見て回った感じでは、がらくた以外は何もないようだけど?」
「何言ってんのたっくん! まだ二階も三階もあるじゃない!
たっくんはうんざりした顔で、木張りの階段にライトの光!
「ウッソでしょ……上の階に上がるつもりなの?」
「ホラホラ、階段に足跡、ついてますよ?」
たっくんはとっても嫌そうにウーンと唸ると、腕時計をチラリ。
「……十分だけだよ。あと十分したら、本当にもう帰るからね」

廃墟探検続行!
私とたっくんは、もはや堂々と廃墟の廊下を歩いているわ!
何たって、私に許された残り時間はあと十分!
この短い時間で、次はどんな悪戯を仕掛けてやろうかしら!
「何か、空き缶とか雑誌とか……生活の跡みたいなのがあるけど……」
荒れ果てた部屋に散乱するゴミを、たっくんが次々とライトで照射。
「そもそも、このお化け屋敷の持ち主って、一体誰なんだ……?」
「そんなことどうでもいいじゃない! ホラホラ、後が詰まってるのよ!」
私はたっくんの背中をプッシュ、プッシュ!
「もう、急かさないでよひとみちゃん――」
たっくんは言葉を詰まらせて、急にライトの光を逸らしたわ!
「んんー? まただ
「なあにーたっくん。ホラホラ、前進前進!」
たっくんは、背を押し続ける私に抗って停止!
「あのさひとみちゃん。今まで敢えて言わなかったけど――」
「なあにたっくん? もう我慢できない? 実は私もよ!」
「いや、そういうことじゃなくて――」
「ここで一発おっぱじめちゃう? いいわ、受けて立つわよ!
だから、真面目に聞けってば!
制服の裾に手をかける私を、たっくんが真顔で静止!
「何だか、この屋敷に入ってから、ずっと誰かに見られているような――」

ガタガタガタッ!

たっくん、咄嗟に私を庇って平手を差し出し、私の前に割り込み!
音の方向にライト照射。あっち、こっち、そっち。
二人は暫しの沈黙。
「フフフ……クックック……アハーハッハハハ!」
私はたまらず大爆笑!
「ほら、やっぱり誰も居ないじゃない! たっくんビビり過ぎ!」
たっくんは抗議の眼差しで溜め息。
「……じゃあまあ、3階に行こうか?」

――――――――――

場所は変わって、3階の大部屋!

無言で大広間に立ち尽くす私たち。
「何だ、これ……」
壁一面に書き殴られた、形容不能な文字や胡乱な図形!
床には、変な魔法陣みたいなのも書いてあるし!
「この赤いのって……まさか、血液?
たっくん、床にこびりついた赤い汚れを指でゴソゴソ。
たっくんたら普段は臆病なのに、そういうの平気で触っちゃうのね☆
「それに、見てよひとみちゃん……これ」
床に散らばる本の一つを、ライトの光が照らし出したわ。
再臨の時 ――モルゲンシュタイン教団監修』
それは、薄汚れた怪しげな本! 聖書みたいに分厚い!
「間違い無いよ。これって、この街の新興宗教の――」

ガタガタガタッ!

誰だッ!?
「ヒッヒッヒ……どうやら、気付いてしまったようだな」
静まり返った廃墟に、響き渡るオジサンの野太い声!
ギィ、ギィ、ギィ……。
足音と共に、大広間の戸口に浮かぶ人影!
「触れてはならぬ、この街の秘密に!」
人影は一人……いや、違う……二人、三人、四人……ずっと沢山……。
「ヤバいな」
思わずたっくんが一言。
マグライトの光が、影の集団を暴きだすわ!
「ヒッヒッヒ……茶目っ気でゴソゴソ嗅ぎ回っては、碌な事が無いなあ!」
ローブめいた着衣を来たでっかいオジサンが、私たちに指差し!
「もっとも? ……今となっては、後の祭りだがなぁ!」
オジサンの指差しで、顔を伏せた沢山の人たちが、ぞろぞろ進み出るわ!
真っ白い粗末な服を身にまとった、それは……。
「まるで、オウムだかパナウェーブだかの信者だ!」
「クッハハハ! そんなパチモン宗教と、我々を一緒にされては困る!」
オジサン、人だかりの向こう側で両手を開き、魔王のポーズで哄笑!
えっ、何これ、何これ――ちょっと、ヤバいかもッ!?
「お前たち……モルゲンシュタイン教団だなッ!」
いかにもッ! こんにちは少年少女、そして……さようなら
FLICK! 指パッチン一閃!
「クッククク……我らが再臨の儀式の……邪魔をされては、困るのだよ……」
そして――

AGHHHHHR! AGHHHHHR! AGHHHHHR!

「何てこった! 信者たちが……化け物にッ!?」
「ウッワー! えっぐう! 何あれ、悪魔!? ちゃんと撮れてる!?
私は咄嗟にGoProの状態を確認! うん……大丈夫!
カメラの心配してる場合じゃないよ、ひとみちゃん!
「無様よ喃! 撮れるのは、お前たちが生きたまま嬲り殺しにされる姿!」

GROWL …… BOWWOW! BOWWOW!

オジサンが連れた二頭のチワワが、巨大な双頭の怪犬に変身!
「さーて、私はここで高みの見物だ。行け、僕たちよ!」
「「「「「AGHHHHHR!」」」」」
怪物たちが、両手を広げて突然猛ダッシュ!
ちっ、くしょおおおおお!!!!!
アッ、これ本当にマズイかも――
誰か、誰か助けてええええ!!!!!

CRASSSSSSSSSSSSSSSH!!!!!

天井に大穴! 舞い上がる埃! 屋根を突き破って闖入者!
エエエエエイメン!
巨体が背を向けて、私たちの前に……着地!
床まで伸びた、袖なしのコートの裾がひらひら!
「「「「「AGHHHHHR!」」」」」
怪物たちも、驚いて咄嗟に足を止めたわ!
「「BOWWOW! BOWWOW!」」
狂ったように吼え猛る双頭チワワモンスターたち!
「「何だッ!?」」
たっくんと教祖オジサンのハモり!
闖入者のコートの袖から突き出す、丸太みたいに太い両腕!
筋骨隆々で、タトゥーだらけ!
フムン……ひとみの頭脳が高速回転!
導き出された、たった一つの冴えた回答、それは――
「間違い無いわッ! その人、変態よ!

「変態ではないッ!!!!!」

時化った大海原をも凪がせんばかりの、厳かな大声!
神は死んだ……民は信仰を失い……歪なる邪神を崇めた……
変態オジサンが両手を虚空に開くわ!
すると、ピッカーン! 何か変な光が両手に出現!
だから俺は地獄より蘇った……邪神を殺し……邪教を打ち倒す為……
「き、き、貴様……その顔は、まさか……」
変態オジサンの両手から光が消えると……。

天狗、だとッ!? なぜ、天狗なんだ!?

その両手には……何か、良くわかんない、銃みたいなもの!
「ええい構わん! 者共、そいつらまとめて喰い殺せ!」
「「BOWWOW! BOWWOW!」」
「「「「「AGHHHHHR!」」」」」
殺到する化け物たち!
「ウワーン、こんなはずじゃなかったのに――ッ!!!!!」
変態オジサンはフンと笑って、両手の銃みたいなものを構えたわ!
黙って見ていろ……お嬢さん方
その言葉に、おもむろに手を上げるたっくん!
「いや、ボク……男……」

BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!

空気が弾けるみたいな音が一杯! ヤバい!
「キャ―――――ッ!?」
「ウワ―――――ッ!?」
「「「「「AGHHHHHR!」」」」」
変態オジサンの背中の向こうで、化け物たちが断末魔と共に転倒!
ぶわぁっと舞い上がる埃!
たまらず咳き込む、私とたっくん!
征討! 神罰!『転向』せよッ! 邪神の輩ッ!
「何だと―――――ッ!? この数の魔物を、一瞬でッ!?」
教祖オジサンが何か喚いてる!
「ぐぬぬぬぅーッ、やりよるわい!」
俺こそ……神罰の代行者! エエエエエイメン!
変態オジサン、叫んで両腕を十字にクロス!
「まだまだぁッ! 行け、我が僕たち!」
「「BOWWOW! BOWWOW!」」
教祖オジサンがリードを解放!
猛スピードで襲い来る、二頭の双頭チワワモンスター!
くどい! 大人しく『転向』せよ……邪神の輩ッ!!!!!

BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!

「「YEEEEEEEEEEEEEEEELP!」」

もんどり打つ、二頭の双頭チワワモンスターたち!
神の御許に跪き……寛大なる許しを請えッ!!!!!
ひょっとしてこの変態オジサン……強いッ!?
「クッソー! 貴様ら、このままで済むと思うなよッ!」
教祖オジサン、捨て台詞を吐いて逃走!
私はたっくんの背中にしがみつき、舞い上がる埃に瞬きの連続!
エエエエエイメン!
袖なしコートの変態オジサン、絶叫!
そして、背後のゆっくりと私たちを振り返り――
迷える子羊たちよ……大事ないか……
口元をチャックで結んだ、メタルチックな天狗マスク!
袖なしのカソックコートの下は――オーバーオール!
裸の胸板を埋め尽くす、キリスト教的な夥しいタトゥー!
ジーザズは天におわし……世は全てこともなし……エイメン
胸に刻まれた磔のジーザズ・クライストの前で、厳かに切られる十字!
「何よッ! やっぱり貴方、変態じゃない!

「変態ではないッ!!!!!」

変態天狗ジーザズ刺青オジサンの両手が発光!
「それって、ネイルガン……釘打ち機、じゃないですか……」
恐る恐る問いかけるたっくん!
銃みたいなものが光ったかと思うと――
次の瞬間、パッと宙に消えちゃった!
うむ……聖別されし釘打ち機……それこそ俺が神より賜りし力……
厳かに頷き、告げる変態天狗ジーザズ刺青オジサン!
どんなに真面目ぶったって、あんたは変態天狗ジーザズ刺青オジサンよ!
そしてお嬢さん方……いや迷える子羊らよ……次はお前たちの番だ……
変態天狗ジーザズ刺青オジサンが、私とたっくんの肩にタッチ!
「嫌だ触らないで! 変態! 気持ち悪い!」
「いや、だからボク、男……」

FLAAAAAAAAAAAAAAASH!

私とたっくん、二人を包み込む光!
この出会いは必然……全ては神の啓示……エイメン
そして――
お前たちもまた神の尖兵となり……邪神を打ち滅ぼすのだ……
二人は唐突に、けばけばしいゴスパンク姿に変身!
顔だけは、なぜか天狗マスクだけど!
エエエエエイメン!!!!!
叫ぶ変態天狗ジーザズ刺青オジサン!
私は、たっくんの姿を見るなり爆笑!
「ぶわーハッハハハ! たっくん、たっくん! その格好何よ!」
「ウワッ何だこの眼帯! 何でわざわざ利き目を塞ぐように!」
ツインテールを振り乱し、狼狽するたっくん!
「でもたっくん! 天狗のお面を除けば――とっても可愛いわ!」
カ・ワ・イ・イ♡
ウオ―――――ッ! 何だか私、とっても興奮して来たわ!」
突然全身に漲る力!
私は訳も解らず叫び、右手を虚空に突きあげるの!
右手に収束する超自然の光、そして――
「な、な、な、ひとみちゃん……それ、チェンソー!?

GROOOOOOOOOOV!

ウーム……それがお前の力か……素晴らしいぞ子羊よ
「子羊じゃなくて、平等院ひとみよ! 覚えてらっしゃい!」
ウーム……そしてもう一人の子羊よ……お前は何が出来る……
「エッ!? エッ……エエッ!? ボク!?」
唐突に話を向けられ、困惑するたっくん!
そうだ子羊よ……お前の神から賜りし力……見せてみろ……

GROOOOOOOOOOV!

「おっほおおおおおん!!!!!」
私は有り余る力と性欲を持て余し、チェンソーを空回りさせて咆哮!
「アヒャヒャヒャヒャ! アッヒャアアアアアア!」

GROOV! GROOV! GROOOOOOOOOOV!

冒涜的な廃墟の大広間を、破壊、破壊、破壊!
「気持ちィ―――――! 超、気持ちィ―――――!!!!!」
「エッ! ちょっちょっちょっ、ひとみちゃん! 急にどうしたの!」
「止まんな―――――いッ!!!!!」

GROOV! GROOV! GROOOOOOOOOOV!

大広間の壁を三角にぶった切り!
壁の向こうには遠く、宵闇暮れなずむ八賀谷の街!
さぁ……見せるのだ……貴様の力……迷える子羊よ……
一歩、二歩、後退してよろめき、尻餅をつくたっくん!
恐れるな……さあ……あの自由に解き放たれた子羊を見よ……

GROOV! GROOV! GROOOOOOOOOOV!

切り飛ばされる木片! 残骸! 壁も柱もズッタズタ!
「ぶっ壊しちゃえ―――――ッ!」
「さ、さ、さっき、から……ひ、ひとみ、ちゃん……キミは……」
膝を震わせ、ゆっくりと立ち上がるたっくん!
「ひとみちゃん……キミは……」

GROOV! GROOV! GROOOOOOOOOOV!

「アヒャ―――――ッ!!!!!」

ひとみいいい! お前はなにやってんだあああ!

怒りの声と共に、たっくんの右手に光が収束!
たっくんの右手に生まれ、両手で構えたそれは――

FVOOOOOOOOOOOO!

「これはッ!!!!! 火炎放射器だッ!!!!!」
ターボジェットエンジンめいた高熱の旋風!
「クォラアアアア!!!!! ひとみいいいいい!!!!!」
たっくんは怒りにまかせ、私めがけて火炎を投射!

FVOOOOOOOOOOOO!

「アッツゥイ! アッツ、アッツウウウウイ!!!!!」
フッハハハハ! エエエエエイメン!!!!!
変態天狗ジーザズ刺青オジサンの哄笑と共に、廃墟が炎上!
「アッちょっとたっくん! なにやってんの!」
「ひとみいいいいい!!!!!」
「アッちょっと変態天狗ジーザズ刺青オジサン! 助けて!」
貴様らの力……とくと見たぞ!
燃え盛る炎を背に、満足げに叫ぶ変態天狗ジーザズ刺青オジサン!
「だから! そんなのどうでも良くって!」

「聞けええええい!」

唐突な大声に、私とたっくんは思わず追いかけっこを中断!
良いか子羊たちよ……これから街に……大いなる災厄がもたらされる……
変態天狗ジーザズ刺青オジサンは、私たち二人にゆっくり歩み寄る!
邪神の輩が現出した時……それらと戦えるのはお前たちだけだ……
変態天狗ジーザズ刺青オジサンの両手に、超自然の光が収束!
ゆめゆめ忘れるな……神への飽くなき信仰心と……邪神と戦う勇気……
変態天狗ジーザズ刺青オジサンは、私たちの手に何かを力強く手渡した!
それは……金の十字架!
「エッ何これ……ジーザズの、顔だけが……天狗に!?」
たっくん、思わず顔を顰めて一言!
あなや! オジサンは本当に狂っているのかしら!?
確かに伝えたぞ……神の力と御言葉……エエエエエイメン!

CRASSSSSSSSSSSSSSSH!!!!!

変態天狗ジーザズ刺青オジサン、大ジャンプ!
廃墟の屋根を突き破って、宵闇の空に消えちゃった!
私たちはゴスパンクに天狗マスクの姿で、呆然!

FVOOOOOOOOOOOO!

私たちの周囲全てで燃え盛る炎!
「アッそうだ忘れてた! ヤバいよひとみちゃん!」
「アッツ! アッツウウウウイ!」
「このままじゃ、ボクたち揃って黒焦げだッ!」
「もー! たっくんが焼いちゃうからじゃないッ!」
「その前に、ひとみちゃんも散々ぶっ壊してただろッ!」
その場にたたらを踏みながら、二人で口論!
「いや言い合ってる場合じゃない!」
「たっくん、あれを見て!」
私はたっくんの手を取って、三角に切り開いた大広間の壁を指差し!
「エッ? いやひとみちゃん……まさかとは思うけど……」
「律儀に一階まで降りてる暇なんか無いわよ、たっくん!」
「いや、だけど――」
「かくなる上はあああああ!!!!!」
私はたっくんの手を引いて、猛スピードで壁の穴にダッシュ!
「ねームリムリムリ! ホント無理だって! ひとみちゃん!」
「大ジャンプ、あるのみよおおおおお!!!!!」
燃え盛る壁と、穴の向こうの薄暮が迫るわ!

JUMMMMMMMMMP!

飛び出せ!
廃墟の三階から、フォールイントゥーザグラウンド!
「エエエエエイメン!!!!!」
「あっひええええええええッ!!!!!」
炎に包まれる、謎の廃墟……。
教祖オジサンと、怪物に変わった信者たち……。
双頭のチワワモンスター……。
そして変態天狗ジーザズ刺青オジサン……。
何より、私たちに芽生えたこの、新たな力!

私たちの愛♡と闘い⚔の物語が、この日から始まるの!
でも私たち、決して負けないんだから!


【魔法鎖鋸少女✡平等院ひとみ】
【第一話/冒涜! 魔法少女爆誕!】 ……終わり

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