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デンマークに故郷を見た

2020(R2)0528Thu

2週間ぶりに外へ出て、「ハマスホイとデンマーク絵画」展に行ってきた。上の写真は美術館の後に行った喫茶店。道に迷ったけど美味しかった。

大学の講義の関係で以前から展覧会の内容は知っていたのだけれど、その時からデンマーク絵画には、静謐さと、温かみを感じていた。実際に展覧会を観に行って、この温かみは「懐かしさ」なのだと分かった。これは私が完全なる田舎育ちということがかなり影響してると思う。だってデンマークの風景、地元の風景となんだか似てるんだ…。(ピーダ・クレスチャン・スコウゴー《ティスヴィレの森から望むフレズレクスヴェアクの風景》とか…この分厚い雲を遮るものが何もない感じ。めっちゃ見たことある。美術館の説明文に「北欧ならではの風景〜」的なことが書かれてて「えっ…私って北欧出身やったと…格好いい…」と思った。)だからこんなに好きなのか、と思った。19世紀末のデンマーク絵画は、当時ヨーロッパを席巻していた崇高さっていう価値観とは違って、身近な柔らかさがあった。ヒュゲ(hygge :くつろいだ、心地よい雰囲気)という価値観を大事にしていたらしい。なるほどなあ。なんか、デンマーク絵画はどれも丁寧な時間の過ごし方を描いてる気がする。instagramの#丁寧な暮らし みたいな一つ一つのことを丁寧にやる、って感じじゃなくて、日常の中に流れていく時間を丁寧に過ごしている、という感じ…。あと、スケーイン派と呼ばれる人々の描いた漁師たちの絵もまた違って面白かった。日常の中の力強い生命力のようなものを感じて、ぱっと見たとき「マーベル作品のワンシーンじゃん!」と思った。なんか色々怒られそうだけど、それくらいヒロイックに描かれてた。(ミケール・アンガ《ボートの漕ぎだす漁師たち》とか特に。手に汗握るワンシーンだよあれは…)スケーイン派の絵に描かれる人物は、ハマスホイと比べて輪郭がはっきりしている。背景と人物を明確に分けてる感じ。逆にハマスホイは、人物すらもモチーフと捉えて、シンプルな空間を作り出している。冷たいような気もするし、温もりがあるような気もする。ハマスホイは、肖像画を描くときその人のことをよく知ってから描こうとしていたらしい。だから風景画すら、旅行先の風景は少なくて地元の風景がほとんどらしい。(その土地のことをあまり知らないのでは描けないって思ったのでは?という説がある)うん、信頼できる真面目さだ。同じデンマーク絵画でもハマスホイやホルスーウの絵と、レングやクロイア達の絵とは全然違う。でも繋がってる部分もある。楽しい…。ハマスホイの絵は、本当に静かで、もし絵の中に入れたとしても音がほとんどしないと思える。シンプルな、光と空気。他のデンマーク絵画からは、人の声とか鳥の声、風の吹く音とかが聞こえてきそうな雰囲気があるけれど、ハマスホイの絵には、ただ空気の流れる微細な時間だけが存在している。落ち着いた色合いも関係してるのかな。「静謐」という言葉がよく似合う。

あとは個人的に印象に残った作品を記録に残しておこうと思う。

ヴィゴ・ヨハンスン《コーヒーを飲みながら》1884年

凛とした表情と日常的な雰囲気の漂う絵。なんというか、もし人生が終盤にかかったら、こういう時間の存在する人でありたいと思った。あと、おばあちゃんの家に飾りたいと思った。多分、描かれてる人物の雰囲気がな〜〜〜んとなく似てるから。おばあちゃんの家はザ・和式。いいやん。

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》1893年

大学の講義資料の中に載ってて、一目見て「めっちゃ好きだ…!」と思った作品。私は青色が好きなので…。実際に観てみると、全然色味が違った。いや当たり前なんだけど。今ポストカードを見返してみても全然違うなあと思う。ポストカードは、爽やかな水色で涼しい夏の日、という感じ。実際に観た印象は、もう少し紫がかった、包み込むような青色。そう、「夕べ」というタイトル通りだった。実際に観るってめっちゃ大事だな…と確認した絵。どっちにしろ好きです。

ヴィゴ・ヨハンスン《きよしこの夜》1891年

これも事前に見ていたのだけど、やっぱり印象が少し違った。彩度の高い明るめな絵だと感じたけど、実際はもう少し彩度は低めだった。でも一人一人の人物の表情がゆるやかにはっきりと描かれていて、この夜をおおらかに楽しむ感情が伝わってきた。この絵が市民に人気だってことが分かる気がした。この絵が家にあったらなんだか温かい。あと完全に余談だけれど、私はずっと「きよしこ の 夜」と思ってたけどよく考えたら「きよし この夜」だよね。アホやん。

ラウリツ・アナスン・レング《遅めの朝食、新聞を読む画家の妻》1898年

レングという画家は、恵まれない出来事が多かったけれど、奥さんと結婚してから人生が変わったらしい。そのことを踏まえて観てみると、本当に奥さんを、人生の光だと思っていることが伝わってきて(気のせいかもしれんけど)、なんだか泣きそうになった。鮮やかな色彩で描かれた朝の風景と奥さんは、本当に美しかった。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内ー陽光習作、ストランゲーゼ30番地》1906年

ハマスホイの絵の中でも特にシンプルな絵。家具も人も何もなくて、ドアと窓と、そこから射す光があるのみ。ハマスホイの絵は「日常礼讃」の意識よりも「モチーフの配置の美」の意識の方がよく表されてる気がする。なんか似たことさっき言ったような気がするな、まあいいや。

なんかもっとあったはずやけど、思い出せなくなってしまった。悲しい。本当こんな時期だけど、来れて良かった……  あと、美術館のコロナ対策が万全で本当にすごかった。スタッフの人達もテキパキしてたし、おかげでゆったりと観れた。ポストカードも買えたし。ありがとうございました、お疲れ様です…。13日間しか会期がないのが本当に悔しいよなあ。芸術は、少なくとも私にとっては必要だよ。(「芸術は〜」から始めるとなんだか偉い評論家みたいやな。主語デカいんじゃ)

#日記 #ハマスホイとデンマーク絵画



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