合点承知之助(memo)

第六話「驟雨」


愚者坊一服は托鉢の中にいた。

佐吉の家に着いたときのことだ。佐吉は愚者坊を見るとなると直ぐ息子の病気を診て下せえと言う。心ばかりの医療の心得があることを知っているのだ。なになに、咳が出て、頬はこけて痩せぎすになっている。

これは労咳じゃな。精のつくものを食べさせてやれい。そう言うと佐吉はそういたしますそういたします。又看てやって下せえと言う。これはお礼ですと十銭頂いた。愚者坊は突き返すと今は佐吉に入り用だ。拙僧は構わん。と佐吉の長屋を出る。

労咳か.....

鯉をつがえた愚者坊の姿があった。佐吉の家につくと、佐吉や佐吉、精のつくものを持ってきたぞと佐吉を呼ぶ。妻の富がでてきて、愚者坊様、何のおかまいもしないのにありがとうございますと涙声になっている。

佐吉の息子鯉二郎はふとんの中にいた。鯉はなぁ、精力がつくぞたんまり食べなさい。と愚者坊は言う。うん、鯉二郎はそう言うとうれしそうに紙風船で遊ぼうと言う。愚者坊はそうかそうか料理ができるまでの間そうしようと頷く。


雨が降りそうだった。

次に佐吉の家を訪れた愚者坊が見たのは首をつった佐吉と富、寝ているかのように死んでいる鯉二郎だった。

愚者坊は他の長屋の人を集めると二人を戸板に乗せ部屋に寝かせた。

「佐吉〜。佐吉よう。鯉二郎が逝ったからってそれはねぇよう」

隣人たちがお別れをしている中。雨が降ってきた。雨だ。

「泣かぬものも 泣くものも やさしきかな驟雨」愚者坊はそう呟くとその場を立ち去った。分厚い背中が小さく感じられる程雨脚は強かった。

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