20180910(Mon.)の朝、長い夢

明け方にとても長い夢を見た。

ある友達に家に来ないかと誘われて、わたしは別の友達を連れてその子の家に遊びに行った。
便宜上、家に誘ってくれた友達をミチルちゃんとし、一緒についてきてくれた子をマホちゃんとしよう。

ミチルちゃんの家は郊外にあり、本当にお屋敷と呼ぶにふさわしい大きな家で、家、修道院、図書館、本屋、100階建てのビルが一緒になっていた。
わたしはこの子がこんなにお金持ちだとは思わず、驚いた。家を案内してもらうと、そこにはいろんな仕掛けがあって、わたしが歩いたとおりの道を来てねと彼女は言う。一歩踏み外すとどこかに落ちていくのだろう。
彼女の部屋は少女趣味と呼ぶにふさわしく、ピンク色のシーツがかけられたベッド、ピンク色の壁、ふかふかのカーペット、大きなテレビ、そしてあらゆる棚に所狭しと本が詰め込まれていた。
次に書斎を案内してもらう。電気が点いた瞬間、わたしと一緒に来てもらった友達は同じタイミングで「うわっ」と声を上げた。書斎というよりも図書館で、海外文学に、学術書に、もう絶版になった本たちがきれいにラベルを貼られて並んでいた。マホちゃんは、わたしこの本好きだった、とある本を示して声を弾ませた。するとミチルちゃんはそうでしょう、わたしも好きよと答え、きっとこの本もマホちゃん好きだと思うよとはにかみながら色んな本を持ってきた。
シスターと思われる人たちと次々にすれ違う。
ここは図書館にしているのとわたしは聞く。そうだねえ、図書館でもあるし、本屋さんもしているよとミチルちゃんは歩きながら答えた。気がつくとわたしたちは大きな本屋さんに来ていた。

ミチルちゃんの家には猫がたくさんいて、お屋敷の中にも何匹か歩き回っていた。だけど例えば病気をしていたり、足が悪かったりする猫も中にはいるそうで、そういう子たちは別の部屋でそっと暮らしているんだよとミチルちゃんは言った。

夜になり、外は暗くなりかけている。ミチルちゃんはまた来てねとはにかんだ笑顔でわたしとマホちゃんを見送った。わたしはなぜか紅茶の入ったティーカップを手にしていた。ミチルちゃんが最後に挿れてくれたのだろうと思う。
玄関先で、気に入らないとマホちゃんが言った。
「わたしだったらこんな家、嫌だね。郊外じゃん?この夜、見てみなよ。誰も通らない、こんなのまるでつまんない。夜中に誰かに来て欲しくてもこんな場所じゃ誰も来てくれない。孤独をなめてる。孤独には勝てないのに、孤独をなめてる。バカみたい」
わたしは、マホちゃんの言っていることは嫉妬に過ぎないと直感した。きっと自分の家や環境より圧倒的に大きなもの豊かなものを見せられて劣等感が凄まじく、そんなことを思いつくままにまくし立てているのだろうと思った。
わたしは恋人がいないと生きていけないとマホちゃんは言った。一秒だって離れていたくないと言った。
でもねえ、わたしは答えた。わたしも以前付き合ってた人はずっと東京にいてほとんど会わなかったけど、会いたいとか、あんまり思ったことはなかったよ。孤独はそんなに悪いものじゃないよ。
するとマホちゃんはブチ切れた。くるりとUターンし、ミチルちゃんの家に戻って行った。ものすごい裏道を通った。人の家の塀を乗り越えたり、屋根を伝ったりした。マホちゃんが軽々とずんずん進んでいくのに対し、わたしは彼女を追いかけるのに必死だった。

気づけばミチルちゃんの家に戻って来ていた。マホちゃんは構わず色んな部屋に入って行った。やめようよとわたしは何度も声をかけた。ミチルちゃんが案内しなかった部屋は、きっとわたしたちには見せたくなかったからそうしたんでしょ、そこに踏み入るのはルール違反だよ。
わたしとマホちゃんは図書館を通り抜け、大きな扉を勢いよく開けた。そこは薄暗く、立派な木の壁ではあったがあまり人の出入りの跡が見られない部屋だった。電気も点けず、中に置いてあった壁際の椅子に腰掛けていると、何かが駆け寄って来た。猫だった。金色の目をした黒猫や、毛がふさふさした薄茶色の猫、いずれも駆け回っているのは子猫だった。そのうちの一匹がわたしの膝に乗ってきた。とても人懐こくて、わたしに興味津々だった。わたしはその子を抱き上げた。ミチルちゃん、こんなに猫を飼っているなら猫カフェも経営できるだろうなとぼんやり考えていた。
するとマホちゃんはまだ気に入らなかったのか(ミチルちゃんの汚点が見つからないからだ)早々に部屋を出て行こうとした。わたしは慌てて彼女のあとに続こうとして、抱き上げていた猫を床に放してやろうとした。そこでようやく気づいた、その子の足がぼろぼろで、血が滲んで、骨が見えるほどに痩せていたことに。ここはミチルちゃんが言っていた、具合の悪い猫、死期が迫った猫たちのための部屋だったのだ。
わたしはせめてこの子の親のもとへ戻してあげようと思い、引き返して奥の部屋に入った。そこは老猫や病気の猫がぐったり横たわっていて、恐怖に足が竦んだけれど、わたしが抱いている子と同じ毛色をした大きな猫、寒いのか、藍色のベールをかぶった猫のもとに駆け寄った。ごめんなさい、あなたの子ですとわたしは人の言葉で謝った。藍色ベールの親猫は、我が子を見て、ありがとうございますと人の言葉でわたしに答えた。

マホちゃんの怒りは止まるところを知らず、次はビルに来ていた。もうやめよう、とわたしは何度も声をかけた。するとマホちゃん、急に立ち止まってわたしに言いたいだけのことをぶちまけた。
「だいたいあんたはそうやっていい子ぶってへらへらして、都合が悪くなったら全部人に責任押し付けて逃げる、自分は絶対悪くないと思ってる、臆病なくせに卑怯者なんだよ、そういう人間最低だよ、そういう人間がいちばんタチ悪いんだよ、おかしいのはあんたの方だよ、悪いのはあんたの方だよ、わたしをこんなところに連れてきてさ、バカじゃないの?」
夢の中のわたしは、こういう罵倒を受けることに慣れているようだった。こんなに自分に怒っている人にはもう何を言ってもむだだと思った。わたしだってマホちゃんに思うところはないわけではなかったし、言い返そうと思えばできたことなのだろうけど、わたしはただ「そうだねえ」と答えて黙り込んでしまった。マホちゃんにそう言われたら、本当に自分はそうであるような気がしたのだ。わたしはもうマホちゃんとは終わりだなと思った。もうこれで関係は切れるだろうと、彼女の隣を歩きながら人ごとのように考えていた。

その後もいろいろあったが、幸運なのか何なのか、わたしもマホちゃんにブチ切れ返せる出来事が起こり、ビルを下る途中にわたしの方からもマホちゃんに引導を渡すような形で、わたしトイレに寄るからもうここで、ついてこないで、もう話しかけないでと吐き捨てて女子トイレの方にずんずん歩いた。マホちゃんが追いかけてくるのを感じたので、わたしは出来るだけ奥の個室へ入ろうとした。
夢の中のわたしは、ここで、今この世界が夢であることに気づいた。もう逃げ場はない。マホちゃんが追いつく前に、わたしは目を覚まそうと思った。この世界は、ミチルちゃんの家は素晴らしく楽しかった、夢だったのは残念だけど、もう起きなくちゃ。マホちゃんとは、もう会わない。

一度目を閉じて、すごい力で目を開けた。そこはわたしのベッドだった。電気を点けて時計を見ると、もうすぐ9時になろうとしていた。外はすごい勢いで雨が降っている。

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