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流撮したくて

あらゆる撮影テクニックのなかで練習が必要っぽいのが「流し撮り」(以降「流撮」と略)。横方向に動くものを主被写体としてピントを合わせつつ、背景はボカし&ブラして主被写体の疾走感を表現する技です。「撮り鉄」さんの間ではわりとポピュラーで、存在はなんとなく知ってはいたんですが、自分の日常ではトライする機会がありませんでした。この流撮をやってみたいと思ったのは、2007年7月発行の雑誌『BRUTUS』620号「NO BIKE, NO LIFE 自転車に夢中‼」特集に魅せられたから。

平野太呂さんがサンフランシスコの自転車カルチャーを撮影した巻頭グラフと表紙は、ブレーキの無いピストバイクのスピード感を流撮で格好良くクールに捉えていて見入ってしまいました。こんな風に自分もスナップしてみたいと憧れ、願い、4月上旬に横浜大岡川へ花見に出かけた際、川の上を気持ち良さそうに滑り漕ぐSUPの人たちにカメラを向けました。

事前に流撮のコツをYouTube投稿で確認していたものの、主被写体もブレてしまいただのブレブレスナップを連発。これは難しいなぁと感じて相当練習しなくては!と認識したのでした。
翌週末は家近く、海沿いの県道にてトレーニング。この道は三浦半島のツーリングを楽しむサイクリストやバイク乗りが頻繁に往来するので、絶好の練習場所となるのです。歩道に腰掛けて脇をしっかり固定し、主被写体の動きに合わせてカメラを左右にスライド。レンズに減光(ND)フィルターを被せ、絞りf8、1/10から1/15のシャッタースピードで連写。

うーむ、だいぶマシになってきたけれど、まだまだ主被写体がカチッと撮れてません。何が駄目なんだろう。いったん練習を辞めて、イメージの世界で解決案を探ります。

で、さらに翌週末の快晴時、同じ県道にて再トライ。絞りはf8のまま、今度はシャッタースピードを1/30秒まで速めてみたんですが、これがドンピシャ。シャッターを切った瞬間「キター!」と確信を持てたのですが、画像プレビューを観て表情と自転車のロゴがブレていないとわかり感激。ついに自分なりの黄金則に行き着いたようです。主被写体が画面の端、つまり撮り始めのタイミングに居るのがポイントみたい。あとは周辺に眩いほどの光が差している状況も。この光がブレると疾走感がより一層際立つんだとわかりました。やったー❣️

さて、ここでなぜ17年も前の雑誌に今さら感化されたのか説明が必要でしょうかね。きっかけは京都のオオヤミノルさん主宰の「オオヤコーヒー焙煎所」によるZINEとコーヒーのセット『オオヤミノRUTUS』でした。オオヤさんと副社長の瀬戸さんが大好きだった『BRUTUS』を振り返り、コーヒーをめぐる仕事の中で出会った"カッコイイBRUTUSの人達4人"と"その4つの仕事"を4号に渡り紹介するというもの。その最終号の人が平野太呂さんであり、「NO BIKE, NO LIFE 自転車に夢中‼」特集における強烈にインパクトある流撮の仕事でした。平野さんの人と仕事の何に惹かれたんだろう。そして特集に合わせてどんなコーヒーを選ぶんだろう。知りたくてたまらなくなり、最終号が発売する前に17年前のBRUTUSを古書で手に入れました。

果たして選ばれたコーヒー豆はグアティマラの中深煎り。添えられた説明書に沿って湯を注ぎ、はんなりとした穏やかな香りとコクをじっくりゆっくり味わいます。一煎目とニ煎目は旨味に変化があり、8グラムの挽き豆がだいぶ薄まっているはずなのに、ほんのりと別の快楽が沁み入ってくる。こんなさりげなく独自なコーヒーがぼくは好きで好きでたまらない。

ZINEの紙面では、瀬戸さんが最も好きという写真が見開きでレイアウトされ、ポスターとして飾ることもできます。『BRUTUS』の表紙と裏表紙をモチーフにしたイラストは漫画家の堀道広さんが担当。号を追うごとに描写はデフォルメを強め、最終号では自由奔放、天才な画伯の絵筆が躍動しまくっていて感動しました。

というわけで、その感動の余韻にずっと浸っていたいから、BRUTUSとオオヤミノRUTUSを並べて居間にディスプレイ。かつてのBRUTUSに多大な影響を受けまくり、オオヤコーヒー焙煎所の一杯に心底心酔する男としては至福の景色を日々愛しみ尽くしていく所存なのですっ。

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