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日本の食糧援助絡みのいろんな話(1)

私は国際協力分野の通訳として
食料援助案件にも何度か関わったことがあるのですが、

その中で学んだことや
面白い経験について書いてみたいと
兼ねがね思っていたのですが、

日本が途上国に対して食糧援助を行っていること、
日本には非常用にお米が蓄えられていることなどは
どなたもご存じでしょうが、

案外食糧援助のスキーム等については
あまり知られていないような気がしますので、
その辺りから書き始めたいと思います。

私が関わった「食糧援助」は
人道援助として括られるものではなく、

日本の無償資金協力1スキームとして存在する
「食糧援助」で、
KRとも呼ばれているものです。

KRとは、「ケネディーラウンド」の略で、
そのスキームが分かり易く説明されているのが
日本のKR事業の調達監理を担当されている
JICS(Japan International Cooperation System)さんによる
こちら ↓ のPDFです。


とはいえ、
他業界の方々にとっては
「だから?」という印象かもしれませんので、

平た~く説明しますと、

政治的に安定している、
つまり、
あっという間に政権が乗っ取られて
資金等の行方が不明になったりしないレベルの
途上国に対して、

日本がミニマムアクセス米として調達して
非常用食糧として日本各地の倉庫にストックされている米を供与し、

その米を受け取った被援助国家は、
これを、
一般市場に害を与えない程度の安価な値段で
市場で販売します。

その売上は「見返り資金」として蓄えられ、
数年間それが適切に管理されていることが確認され、
金額もある程度貯まった後、

被援助国家側が何か小規模プロジェクトなどに
この資金を当てたいと申し出れば、

そのプロジェクト内容を精査の上
日本が了承した場合に限り
この見返り資金をプロジェクト資金として
用いることができます。

このようにすることで、

日本側としては
毎年購入するミニマムアクセス米が
無駄にされることもなく、
倉庫がパンクすることもなければ
無駄に増設されることもなく、

ついでに言ってしまえば、
「米を食べる文化」を世界に広めることもできますし、
年度計画において
その対象国に予定していた援助額の余剰分が出た場合は、
その調整にも利用できます。

一方の被援助国側は
国民に安価な食糧供給ができ、
資金管理能力を向上させることもでき、
更にそのプロセスの中で
日本政府との関係強化もできていきます。

ついでに
別のプロジェクトのための資金を
貯めていくこともできるのですから、

これは
一石二鳥どころか
一石三鳥にも四鳥にもなり得る
双方ウィンウィン型の
援助スキームになっているのです。

また、「コメを供与するだけ」の KRでは
思わぬ追加コンポーネントが生じるようなこともないので
KRは援助スキームとしては
極めて簡素であることもあり、

内戦などを経て
政権が安定したばかりの途上国に対して
これから無償資金協力を行っていこうという際、

そのイントロダクション、
つまり「お稽古」的な意味合いも込めて
日本政府がまず手始めに導入する
スキームでもあるのです。

🌾🌾🌾🌾🌾


ちなみに
この援助方式は、

実は戦後アメリカが日本に対して
小麦による食糧援助で採用していたものと同様です。

そして
この戦後のアメリカによる小麦供与は

日本の学校給食において
おかずが和食なのに
ずっとパンが出されていたという、
今や懐かしき「謎」の
「種明かし」でもあるのです。

しかもその結果日本では
今でも「パン派」が増える一方で
「米の消費量」が年々下がっているのだと思えば、

まさしく

「侮るなかれ、食糧援助!」


と言えるのではないでしょうか。

😲😲😲


というわけで
これが日本の食糧援助、KRの
「構造」のあらましとなるわけですが、

これの実務を担当する日本側は、
時代によって
外務省が一部直接的に関わっていた時代、
JICAが大半の業務を行っていた時代、
大半の業務を上でPDFを貼り付けた
JICSが行うようになった時代と、

いろいろあるのですが、

いずれにせよ、
大量のコメの袋を
貨物船のバルクカーゴ(バラ荷物)として
送り届ける話なので、

ロジ的な確認事項が多く、
各被援助国家に出向いて
受け入れ体制の他、
現地の市場の様子、
市場で働く人や消費者の意見等々を
調べて歩かねばなりません。

すると、
受け入れ側組織も
国によっては
商工省であったり、農業省であったり、
はたまた外務省であったりと
まちまちなこともあり、

受け入れ担当者への聞き取りであれ、
中央マーケットやスーパーや露天商への
インタビューにせよ、

その国独特の考え方や事情が判明したり、
商人や消費者の答えがトンチンカンで
面白かったりと、

良くも悪くも
いろいろな思い出ができるわけです。

なので、
ここから数回に分けて
そんな話もしていきたいと思います。

ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました!


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※ 「僕は現代っ子だから、これが一番!」、否、
「大口 ネコ」はこたつぶとんさんの作品です。


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