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ブラジルのバイーア州が採用した大胆な湾内環境改善策

先日ブラジルのバイーア州のサルヴァドール市を
素敵な観光地としてご紹介致しました。

サルヴァドールは私も一度訪れているので、
素晴らしい観光地であることには
噓も偽りもありません。

そこで
このサルヴァドールが世界に誇れる
観光地になるまでの経緯を少しお話ししたいと思います。

1980年代頃までのブラジルの中部以南では
北東部の「バイーア」と聞けば

「汚くて治安が悪いんでしょ?」

というイメージ...、

「バイアーノ」(バイーア州出身者)と聞けば、

「マヌケな黒人」…

というイメージが先に立ち、

決して旅行先として
人気な場所ではありませんでした。

それでも結構訪れる人が多かったのは
古都であることと、
ご利益があると有名なボンフィン協会などへの
巡礼や、祭りへの参加といった
歴史的または宗教的モチベーションによるものが主でした。

そのような悪いイメージを払拭しようと
立ち上がったバイーア州政府は、

町の清掃・美化および警備を強化し、
海外ホテルチェーンを誘致するなどした他、
年を追う毎に深刻化する
「諸聖者の湾」こと
「トドス・オス・サントス湾」の
汚染に対処するべく、1997年に

大々的な湾内環境改善プロジェクトである

「Projeto Bahia Azul」

【プロジェットゥ・バーア・アーゥ】

を立ち上げました。

これは町の下水道システムを改善することにより
バイーア州の大切な湾を再び美しい
「青い湾」(baía azul) に戻そうというものです。

というのも、
インフラが未整備のまま
地方からの人口の流入により
都市部が膨張し続け、

しかもその流入人口の多くが
何のインフラも整備されていない空き地を
不法占拠してスラム街を造ってしまう
という異常事態の繰り返しでしたから、

巨大化が止まらないスラムからの汚水が
全て流入することで、
湾内の海岸沿いは泳ぐのはおろか、
近くを通過しただけでも
ドブ臭いような状態に陥ってしまっていたのです。

そこで、
Projeto Bahia Azul では、
そのようなスラム街を含む
低所得者居住地域向けに

「Sistema Condominial de Coleta de Esgoto」

【スィスーマ・コンドミニーゥ・ジ・コッタ・ジ・エスットゥ】
(コンドミニアル式下水集水システム)

という、
簡易な下水集水システムを考案・導入し、
汚水をほぼ未処理のまま
外海に放流してしまおうというのです…!

日本人が聞くと

「えっ、何それ~?!?!」


と思っちゃいますよね…。

でも、本当の話です…。

なにせこのプロジェクトの総額は
600万ドルと言われ、
主な資金調達先は
ブラジルの関係機関の他、
世銀米州開発銀行海外経済協力基金(OECF)といった
日本を含む国際機関なのです。  

これら国際機関を含む債権者側が
このプロジェクトの妥当性や緊急性を認めた上で、
債権者側5に対してバイーア州政府側が1という割合で
出資するとの合意の下、実施されたものなので、

当たり前ですが、
適当にたれ流してしまうわけではありません。

コンピューターシミュレーションを繰り返した上で
選ばれたポイントに
海洋放流管を設置して、
一旦簡易処理層にて
最低限の処理をしてから
放流するというものです。

イメージとしてはこんな感じです。↓

http://www.blogdotirloni.com.br/politicas-publicas/a-polemica-implantacao-dos-emissarios-submarinos/

ちなみにコンドミニアル型集水システム
(または民地活用型下水道)とは、
簡単に説明すると、こんな感じのものです。

               https://www.mlit.go.jp/crd/sewerage/mifukyu/04/pdf/tec09.pdf

つまり、不法占拠により出来てしまった
狭い路地でも設置可能で、
仕組みも簡素なら材料も安価なもので済む
画期的なシステムと言えるのです。

これにより、
それまでは難しいとされていた
低所得者層居住区の汚水も集水可能となり、

下水管渠網を一切介さず
湾へ垂れ流されていた汚水量を
格段に減らすことが可能となったのです。

🌊🌊🌊

それにしても
日本人の皆さんには、
処理をしないという選択をした
バイーア州政府を理解するのは
難しいかもしれません。

しかしながら
以前の私の記事で記した
ペルナンブコ州のケース などからも
推測できるかと思いますが、

ブラジルでは
下水処理サービスなどは
充実しているとは言い難く、
老朽化して稼働できなくなったままの施設も少なくなく、

何かが故障すれば、
すぐバイパスを通して
未処理のまま放流してしまうようなことも
ざらにあるのです。

それを考えると、
正しい海流に未処理水を乗せて
自然に任せて希釈させるというのは
安価で合理的でリスクが最も少ない手法だと
言うことができるというわけです。

ましてや、サルヴァドールの場合は、
この海洋放流管による
未処理水の放流という手法は、
なにもこのときが初めての試みではありませんでした。

というのも、実は
1960年代にこのシステムを採択して
1970年代初旬には
既に同様の方法で
汚水を放流していたのです。

下の画像の1番が1970年から存在する海洋放流管、
2番が1997年以降のプロジェクトで新設されたものです。

                                                                                           https://slideplayer.com.br/slide/365761/

🌊🌊🌊

と、このような塩梅で、

ペルナンブコ州の場合は、
裏の事情を知ることで
一見美しくも発展しているように思える町が
くすんで見えてしまうこともあれば、

このサルヴァドールのように、
知ることにより
益々輝いて見えるようなこともあるというわけです。😊

🌞🥥⛱🌊🌴

本日もお読み頂き、誠にありがとうございました!

※ 「お水がきれいだと、僕達もおいしくなるよ♪」、否、
「魚 新鮮」はこたつぶとんさんの作品です。


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