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【第8話】「もっと自由に!」写真家に学ぶ究極のカメラ機材と撮影姿勢

「ジャケ買い」。楽曲も聞かず、ジャケットの写真を見て買う人がいたほどアルバムの写真の出来、不出来は売り上げにも影響した。だから、ミュージシャンは誰に撮影してもらうのか、その選択に真剣だったはずだ。

私の家人は1980年代、大手レコード会社の社員だった。ミュージシャンに「誰に撮ってほしい?」と聞くと、圧倒的に「鋤田さんに撮って欲しい」という要望が多かったという。

私はハービー山口さんだと思っていたが、ハービーさんは鋤田さんの次の世代らしい。

写真家・鋤田正義(すきた・まさよし)さん。現在82歳。若い人たちはご存知ないかもしれないが、いまも現役の写真家だ。1970年代、単身渡英中に、のちにロックの殿堂入りしたデヴィッド・ボウイと知り合い、帰国後、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)や忌野 清志郎(いまわの きよしろう)など数多くのミュージシャンに慕われた。

故郷の福岡県直方市で開催した「鋤田正義写真展 IN NOGATA 2018 “ただいま”」のプロモーション動画で、鋤田さんは自身の歩みを語っている。ご興味のある方はご覧いただきたい。

その鋤田さんのスナップ姿を、私は富士フイルムX-Pro2のプロモーション動画で初めて拝見した。

スナップ時の佇まいが自然だ。同時に、その際に使用していたレンズがF2.8通し赤バッチの標準ズームではなく、さらに単焦点でもなく、安価な標準ズーム「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」である点に注目した。

この動画の中で、ポートレート撮影ではF2.8通し赤バッチ「XF16-55mmF2.8 R LM WR」を使用しているが、撮影中、「やっぱり僕はズームじゃないとだめだ」という言葉が私の心の中に引っ掛かり続けていた。

というのも、私は単焦点中心主義、いや単焦点一本槍だった。

単焦点は「抜けが良い」「クリア」「焦点距離は足で変える」という考えだが、何か鋤田さんの撮影姿勢は自然体に思えたのだ。

最近、単焦点とともにズームレンズも多用するようになった。それは鋤田さんの言葉が脳裏に残っていたからだと思う。撮影は自由であり、楽をしていいのだ。

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(上記写真はPENTAX KP+smc DA 50-200mm F4-5.6 EDで撮影)

80歳代の写真家といえば、もうひとり森山大道さんがいる。現在82歳。日々、新宿中心にスナップ撮影を欠かさない写真家として、あまりにも有名だ。

森山さんはカメラを複写機、あるいはコピー機といって憚らない。だから、自分の撮影した写真がいろいろなところに複写されていてもコピー機とは本来そんなものだと淡々としている。

たとえば、2006年、写真家田中長徳氏との対談では、次のように述べている。

「基本的に写真にはオリジナリティがない、という結論がぼくにはあるんです。少なくとも路上スナップにはね。だからぼくの写真はいつどこでコピーされてもかまわない。たとえ悪意で使われたっていい。だって、もともとぼくの写真だって、そこら辺に転がっているもののパクリだし、そのすべてを善意で撮っているわけないもの。その原則を大事にしないと、写真が違う方向にいっちゃうんだよね。オリジナルオリジナルって言うなって」(「日本カメラ」2006年1月号)

長年、写真を撮り続けてきた名写真家が辿り着いた達観であり、究極の写真論である。

こうした達観は、使用機材にも現れている。日々、新宿などのスナップを欠かさない森山さんだが、手にしているのはコンデジである。しかも、森山さんはズーム付きのコンデジが良いともいっている。理由は「その方が便利だよね」とシンプルだ。

「そんなカメラじゃ何も撮れない」「こっちのレンズの方がよく写る」とスペックや機材の蘊蓄(うんちく)を長々と語ることはない。どこまでも自然体なのである。

82歳の名写真家2人から学びたいこと。

それは技術論ではなく撮影姿勢である。自由で楽な機材選び。そして、とにかく街に出て撮影することの大切さを教えてくれる。

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(上記写真は、M10-P+TTArtisan 50mm f/0.95 ASPHで撮影)

時代を代表する写真家と同じような技術で同じような写真を簡単に真似ることは不可能だ。「このくらいの写真だったら俺にも撮影できる」という人もいるが、それはできそうで、できないものだ。

ただ、価格や評判にとらわれず、自由にカメラやレンズを選んで撮影を楽しむ。これなら誰でも真似ることができる。

理屈はいらない。ピンボケでもいい。まずはシャッターを切る。そして楽しむ。これが上達の近道だと私は考えている。

最後に、鋤田さんの言葉を紹介したい。

「カメラを持って街に出よう、ですよ。家の中で悶々としていても、シャッターを切っていないですからね」

シンプルだが、深い言葉だと思う。

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