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【日記#019】ポメラは、持ち歩かないことにした

 でも別に、これは倦怠期だからとか、熱が冷めたからとか、そういうわけじゃないの。わかる?

 ちょっと質問。
 息を思いっきり吸い込みたいとき、最初にするべきことは何?

 そう、息を吐き出すことよ。

 いま自分の持っているものを手放してからじゃないと、新しいものを受け入れることはできない。
 これは空気だけの話じゃないの。知識や、愛も一緒。二人の人を同時に精一杯愛せるか、っていう話よ。いや、たまにいるけどね、自分ならできるっていう人。でも、そう思っているのは本人だけだわ。

 ポメラ、あなたとはね、良好な関係を築いていきたいと思っているの。街で見かけたきれいな景色、ぜったいに忘れたくない大切な言葉。そういったものを、あなたの中に残していきたい。
 もしポメラが巷で言われるような薄っぺらい「恋人」ってやつならね、一緒に出かけて一緒に見たり聞いたりすればいいわ、その景色やら言葉だとかを。咀嚼して伝えるのは二度手間だし、百聞は一見にしかず、なんて言葉もあるくらいだもの。
 でも、あなたには耳がない。目もない、メモだけに。

 冗談はいいわ。
 とにかく、あなたと五感を共有できない(これを、互換がきかない、という)のだから、わたしはわたしの感じたことを、ちょっと長さのある文章にしてからあなたに打ち込む必要がある。解釈しなくちゃいけない。
 これをね、見たまま聞いたまま、ストレートな感想を書き込むんだったら、正直Xでいいのよ、いまは。そうじゃなくて、ちゃんと自分の言葉に直してから記録したい。それには時間が必要なの。
 外で見聞きしたことをその場で打ち込む必要がないなら、あなたには家で待っていてもらってもいいかな、と思うようになったの。

 それから、わたしは、一度身軽になってみることにしたの。
 カメラだって、小さくて軽いものにしたわ。大きいのは、たまにしか持ち出さない。だって、荷物が重いと、歩ける距離が減るから。一歩でも遠くへ行ったほうが、新しい出会いがあるのに。

 そうなると、やっぱり次はポメラ、あなたの番じゃないかって気づいたのよ。そりゃあ、パソコンに比べれば軽いし、厚みもそこそこで、鞄への収まりはいいわ。でも、無印良品のサコッシュには、どう頑張ったって、ひねったって、折り曲げたって、入らないのよ。そもそも、折り曲げたらあなたは壊れてしまう。そんなのは嫌よ。

 だから、磨りガラスになった窓際の、柔らかい光が入るひんやり湿った台所の脇のテーブルの上で、待っていってほしい。帰ったら一番にあなたの元へ駆けていくことを約束するから。その日にあったことを、お茶でも淹れながら、ああでもないこうでもないと、打ち付けてあげるから。
 だから昼間は、ひとりでゆっくりしましょう、お互い。重いだなんて思わずに、これからも仲良くいるために。

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