ドラマの「スケジュール表」

「11PM」から「ドラマ班」に異動して来て驚いた事。

チーフ助監督が書く「撮影スケジュール表」だ。

映画撮影所のスケジュールは「午前」このシーンとこのシーンを撮影します、「午後」このシーンとこのシーンを撮影します、と掲示板に貼り出されるのみ。

テレビドラマの場合、全てのシーンの横に「撮影する時間」がビッシリと書きこまれている。

映画の場合、俳優さんのスケジュールは「撮影期間全てを押さえる」のが基本。

テレビドラマの場合、各俳優さんの「バラエティー番組出演」「CM撮影」「他の舞台やドラマとの掛け持ち」などの細かいスケジュールをパズルの様に組み合わせて、「撮影スケジュール表」は作られる。

シーン毎に撮影にかかる時間を「台本のページ数」を元に割り出す。台本上、短いシーンでも「監督のこだわり」で撮影が長引きそうな要素を知っているチーフ助監督はそれも加味して、シーン1から順番に「スケジュール表」を書いていく。

ロケハン(ロケの下見)にも同行し、「ロケ地とロケ地の移動時間」「監督が決めたロケ地で撮影にかかる時間」などを入れ込み、「スケジュール表」に反映させる。

そして、書いたスケジュールを「同じセット」「同じロケ地」毎に切り分け、最終的な「撮影スケジュール表」を作る。

出来た「撮影スケジュール表」はセカンド助監督が台本と照らし合わせチェック。

監督に見せてOKであれば、俳優事務所とスタッフの所属会社にFAXし、スタッフには現場で配布。

監督が見て、「これじゃあ撮れないよ」と言われる事もある。

監督にしてみれば、「撮影時間をたっぷり取ったスケジュール表」を配って、結果的に撮影が予定より早く終わり、キャスト・スタッフに喜ばれたいという思いがあるのだ。

俳優事務所との最初の「スケジュール折衝」はプロデューサーの仕事。どんなに忙しくてもどうしても出てもらいたい俳優さんはチーフ助監督と相談しながら、プロデューサーがスケジュールを取って来る。

赤木春恵さんが名古屋の御園座で舞台に出られていた時、大阪で撮影している「朝の連続ドラマ」の撮影とスケジュールが重なってしまった。

どうしても舞台をやっているその日に撮らないといけないスケジュールに。そうしなければ、放送に穴が空く。

赤木さんには1日2回の舞台終わりで夜遅く新幹線に乗って、名古屋から大阪のスタジオに来てもらう。

時計の針は深夜を回っている。赤木春恵さんは疲労困憊の状態でのドラマ撮影。

深夜3時、撮影無事終了。

赤木春恵さんが翌朝の新幹線で名古屋に帰るのは怖いと言う。新幹線が止まったら舞台に穴が空くからだ。

スタジオのある大阪・千里中央にタクシーを呼んで名古屋まで帰ってもらった。当時でもタクシー料金は3万円以上しただろう。

「人気のお笑い芸人」さんに出てもらう時も「スタジオに入ってもらう時間」、「スタジオを出なければいけない時間」が厳密に決まっているので、「撮影スケジュール表」にはその事を明記。

スケジュールが「押して」来たら、その芸人さんのシーンを先に撮影して、次の現場に飛び出してもらう。

テレビドラマの場合、「撮影スケジュール表」を書く事はそれ程、難しい。

僕が助監督をやっていた時、ロケ現場に行ったら、「そのシーンに出ない俳優さん」がロケバスに乗っていて、「そのシーンに必要な俳優さんが乗っていなかった。「スケジュール表」の◯の位置が1つズレていたのだ。

現在、パソコンで「撮影スケジュール」も書けるし、送信もメールで一発で出来る。

FAXが出来る前はチーフ助監督が各事務所に電話を使って、口伝えでやっていたのだから、時代も変わったものだ。

チーフ助監督は「撮影スケジュール表」を書く事によって、「芝居」というものを肌感覚で養っていく。

これもある種の「伝統芸」かも知れない。

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